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盲目乙女に溺れる剣士はとにかく早く移住したい

10.★夜に願いを

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 魔法を習得してからクロウの部屋にはランプではなく、夜になると魔力で生み出した小さな光が、一つだけ灯るようになった。

 自在に明るさを調整出来るようになり便利だと喜んでいたが、少し暗めの灯りを好む彼はおおむねいつも同じ明るさの夜を過ごす。

 ベッドに寝転がる彼に寄り添って、クロウの話を聞きたがるキアラに今日の出来事を話し終えると、次は彼女が一日のことをとりとめなく話す。

 基本的にお互いの部屋で別々に眠っているが、寝るまでの時間はだいたいクロウの部屋でのんびりと、ただ一緒に過ごす日が多い。


「でね、シルヴィスがオムレツ食べてね、おいしいって」

「ふぅん……」


 さっきから相槌があまり乗り気でないクロウに気付いて、キアラは身を起こす。
 
 朝から出かけて、夕方遅くに帰ってきたクロウが疲れていないはずがない。


「あ、ごめんね。クロウ疲れてるよね。もう今日は寝るね」


 頬に軽くキスをして、おやすみなさいとベッドを降りようとしたキアラの腰が抱き止められて、もう一度シーツに転がされると、クロウが背中から抱きしめた。

 包み込まれるような安心感に思わずキアラは小さく、ほうっと息をついた。

 ドキドキ高鳴る胸でどうしたんだろう、と不思議に思っていると、こつんとうなじに額を付けたクロウがぐりぐりと頭を押し付けてくる。


「ごめん、そうじゃなくて。あいつの話ばっかり聞きたくない」

「へ?」


 あまり聞くことのない拗ねたような声に振り返ると、彼はごにょごにょ呟きながら決まり悪そうな顔をしていた。


「いや、そうだよな。今日はずっとあいつと一緒だったんだから、仕方ないのはわかってるんだけど……情けないこと言ってごめん」


 腕の中で向きを変えたキアラを正面から抱いて、自己嫌悪の大きなため息を吐き、首元に顔を埋めて甘えるクロウに、キュンとくすぐったい胸の締め付けを感じ、キアラは慈しむように彼を抱きしめる。


 (もしかして妬いたのかな?可愛いなぁ)


 頬に当たる鳶色の髪に擦り寄り、安心させるようにクロウの背中をトントンと叩く。想いが通じ合ってからというもの、クロウへの想いは際限なく溢れるばかりで、キアラは時々自分が怖くなる。


「好き……」


 思わず声に出すと甘く深く口付けられて、それだけでキアラはもう蕩けてしまいそうになる。

 いっそ本当に溶けてクロウの一部になってしまいたい、そうすれば離れてる間の不安もなくなるのにとキアラが告げれば、クロウがそれは困ると苦笑する。


「どうして?」

「キアラに触れられないのは困る」


 熱っぽく愛おしげな眼差しに耐えきれず、吸い寄せられるように口付けてくるキアラを受け止めたクロウは、華奢な体を壊さないように、でもしっかりと腕の中に閉じ込めた。

 飽きることなく繰り返すキスで上がる呼吸に、混じる甘やかな声に、クロウはそれだけではち切れそうに膨脹する熱を自覚して、そんな自分につい笑ってしまう。


「あー……早く移住したい」


 一旦距離を開けて逸る鼓動を収めようとするが、息を上げて春情を宿す潤んだ瞳のキアラが映って、更にクロウの心音は早鐘を打ち始める。

 しばらく見つめ合っていると自然と距離が近付いて、どうしようもなく互いが欲しくなる。


「……抱きたい」

「うん、私も」

 
 誰かが家にいる時に体を重ねたのはキアラが暴走したあの一回だけだが、それでも一度破られたルールは以前ほど歯止めが効かない。

 どちらからともなくもう一度近付いて、角度を変えながら、食むように互いの存在を確認する。

 クロウの大きな手が、赤く色付いた頬を包む。額から順に降る口付けで幸福感にキアラが酔いしれていると、片方の手を背中に、腰に、表面を滑らすように優しく触れられて、ぞくぞくと身を震わせて声を抑えた。

 いつもよりずっと優しい触れ方でそのまま胸を掬われ、尖に軽く歯を立てゆっくりと舐められると同時に、片方の手で内腿を撫でられる。キアラは必死に抑えようとするものの、いつもと少し違う刺激にどうしても悩ましげな声が漏れてしまう。


「あっ……なんか、いつもとちが……っ」

「今日はめちゃくちゃ優しく抱きたい」 

「んっ……うれしい……優しく、して……」


 顔を上げたクロウは敢えて耳元で囁きながら、触れるか触れないかの強さで、華奢な身体をくまなく愛撫していく。
 どうしても漏れる声をキアラが手の甲で押さえていると、そっと手を外されて唇で塞がれた。

 鼻にかかるくぐもった嬌声を聞きながら、指先を太ももに軽く這わせるように、何度も往復させてじわじわと快感を送っていく。

 すると、くすぐったいような緩い快感に焦れたキアラはしなやかな足を動かし、催促するようにクロウの腰に擦り付ける。

 直接触れていないのに体の中心にはもうとろりとした液体が溢れて、伝う雫の感覚に羞恥を感じ、キアラの快感がより刺激されていく。


「好きだ……誰にも渡さない」

「んっ……」


 少し唇を離すと大好きな錆色の瞳が熱く見つめていて、それだけでキアラの体の内がきゅうと締まる。

 私も好きと、誘うように潤んだ瞳で訴えるキアラにクロウは愛おしげに目を緩ませ、再び口付けながら、十分に潤う蜜壺に二本の指を沈ませた。
 
 動きに合わせるように腰をしならせて、強くしがみついてくるキアラに、指の律動を崩さないよう更に刺激を送る。同時に首や胸に強く吸い付いて、赤い刻印を刻みつける。


「んっ! ……んんっ」

「指……傷付くから、ほらこっち」

「んむっ……んっ……」


 手の甲では抑えきれず、自らの指を噛んで声を抑えるキアラの中指を外したクロウは、細く華奢な彼女の指を見せつける様に舐めて、代わりに自分の指を横に咥えさせた。

 すると、声を塞ぐ為に咥えさせたクロウの指を煽るように、咥えたまま舌を這わせてきた。


「いいね。どこで覚えてきたんだか……」 

「んっ、あっ……クロウのまねっこ……」

「へぇ……いいな、その答え。最高」


 咥えさせている方の片肘で自身の体を支え、くちゅくちゅと音を立てて彼の指を舐めるキアラの耳に顔を寄せた。
 いつもより低い甘やかな声で「噛んでもいいよ」と吐息と共に囁けばより一層蜜が溢れる。ぐちゅぐちゅとはしたない水音が大きくなり、クロウの息遣いも上がっていく。


「んっ、んんっ! んぅ……っ」

「そんなにいい?」  

「んっ、い、いい…っ、きゃう…っ」

「可愛いな」 


 舌を這わせる余裕もなくなった彼女のわざと一番悦ぶ場所ばかりを狙って攻めていると、キアラは泣きそうに潤んだ瞳をクロウに向ける。

 そんな目をされるともっと苛めたくなる。優しくするのは難しいなと、彼は心の中で前言を撤回した。

 しつこく焦らしていると、耐え切れずに泣いてしまったキアラが濡れた瞳で懇願するように、クロウを見上げる。
 この瞳を向けられると彼はいつもぞわぞわとした情欲を刺激されて、なんとも堪らない気持ちになる。

「ん、はあっ……も、焦らさないでぇ……ね? お願いっ……」 

「ああ、いいよ。ちゃんと声我慢できる?」

「んっ、我慢するからぁ……」


 息を弾ませて小さく涙ぐむような声で乞うキアラに堪らなく歪んだ感情を覚えながら、蕩けそうに熱い壺口へと身を沈めていく。

 埋め込む度にキアラの閉じた口から抑えきれない小さな喘ぎが漏れてしまい、ついクロウの口角が上がる。


「んっ……はぁっ……ん、んんっ、あっ!」

「ほら、我慢できるんだろ?」

「んっ!」


 こくこくと頷き、進む度たおやかに体をくねらせ身体を震わすキアラを抱きしめながら、焦らすようにゆっくりと埋め込んでいくと、離さないとばかりに絡みつくうねりにクロウは息を吐く。


「やっぱり最高……っ、すごく気持ちいいな……朝までずっとこうやってようか」

「きもち、いいけど……それは、むりぃ……あんっ!んっ!んーっ!」


 口をきつく閉じて漏れる声を我慢する、赤く色付く艶かしい唇を舐めて蓋するように口付け、やおらに腰を打ち込むと抑えきれない声が僅かに大きくなる。

 強くシーツを握る細い指を上から包むと、クロウの手を求めて細い指が絡みつく。

 一度唇を解放すると、小さく喘ぎながら囁くようにクロウの名を呼び、何度も好きと繰り返される甘い声が堪らなく彼の色情をそそる。

 好きだと返すと、嬉しそうに笑うキアラにもう一度口付けながら最奥に擦るように押し付ける。より強まる収縮にクロウは心も満ちて、快感に溺れる小さな体を力いっぱい抱きしめながら体を震わせた。





 体を離した後も何度もキスをして、いつも以上に甘えてくるクロウに、キアラは嬉しさと戸惑いを同時に感じている。 


「今日はなんか変……どうしたの?」

「別にどうもしないけど、好きだなと思って」


 クロウがじっと見つめて言うと、ぽっと頬を染めてふにゃふにゃと締まりのない笑顔になったキアラが、軽く音を立てて頬にキスをした。


「えへ……私も、好き」


 すりすりと全身で擦り寄るキアラを抱き寄せたクロウは、シルヴィスの観察するような視線を思い出す。

 朝まで特に気にしていなかったが、夕方に帰ってからというもの、やたらとキアラに視線を注ぐ気がしてクロウは何となく嫌な予感を覚えた。

 しばらくぼんやりと考えていた彼は腕の中で小さく欠伸をするキアラに気付き、額に口付ける。
 そうしてクロウは光を消して、ブランケットを引き寄せて愛しい恋人をゆるく抱き締める。


「今日はこのまま寝よう」

「うん、おやすみなさい」


 安心しきった笑顔で身を寄せ、すぐに寝入ってしまったキアラをほのかな月明りだけで眺めながら、クロウも瞼を閉じた。



 例えキアラが望んでも、絶対に誰にも渡さない。



 彼にとってこれは初めての恋ではなく、淡く苦い初恋は、もうとっくの昔に済ませてしまった。

 けれど、こんなにも焦がれる程の執着を抱いたのは初めてで、自分でもどうすればいいのか、クロウは度々持て余してしまう。

 キアラと結ばれる前は程々の息抜きをしていたクロウだったが、いくら向こうから声をかけてきても、結局はたまに来る男より、近場で安定した関係を女性は好むものだと、そんな事はすぐに理解した。

 生活スタイルを変える気がなかったクロウはそういうものだと軽く受け止めていたけれど、人の気持ちは流動的だと、そう教えてくれた彼女たちが彼を真剣な恋から遠ざけていた原因でもある。


 だから以前は一途に向けられるキアラの好意に戸惑いつつも、けどくすぐったくもあり、何より不思議で仕方なかった。

 可愛らしいキアラならいくらでも他にいるのに、どうして僕なんだろうと。
 

 なのに最近では自分の方がいっそ病的な程のめり込んでいるのではないか、いつかコントロール出来なくなってキアラを傷付けるのではないかと、クロウはたまに不安になる。


 出来る事ならこのまま何も起きないようにと、祈るような気持ちでクロウは眠りに落ちた。
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