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盲目乙女は拗らせ剣士に愛されたい
20.封印と解除
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レオがそっと家の扉を開けて庭を眺めると、変わらずテーブルについたまま楽しそうに話すキアラと、相槌を打つクロウが見える。たまにクロウが微笑むと(これには両親とも度肝を抜かれた)少し恥ずかしそうにキアラが俯き、初々しい雰囲気この上ない。
明るい日差しと木々の彩りも相まって、爽やか且つ穏やかな二人とは対極的に、レオとサアレの表情はどんよりとした曇り空のように憂鬱で、真実を知った息子がどんな風に荒れるのか気が気ではない。
クロウのためには一刻も早く封印を解いてやりたい。やりたい……が、最悪な記憶として残る十五歳の誕生日を思い出しては、声をかけるタイミングをレオはなかなか掴めないでいた。
しばらく悶々と眺めているとキアラが気付いて手を振り、クロウも両親に視線を移す。
「父さん母さん、話は終わったの?」
「ああ、うん……ええと……」
背の低い雑草をなるべく踏まないように、子鹿のような軽い足取りでキアラが駆け寄る。わくわくと期待の眼差しで見上げてくる娘の瞳をじっと見つめて、レオはもう一度脳内で魔法のおさらいをした。
「ああ、そうだね。先に封印しよう」
「嬉しい! ありがとう!」
後になると封印どころではなくなるかもしれないと、レオは一度気持ちを切り替える。椅子に座らせたキアラの正面に立ったレオは、微かな風に揺れる森の木々に耳を傾けながら、自らの呼吸に集中した。
「キアラも呼吸を深くリラックスして。感覚器官に干渉する魔法だから少し気持ち悪くなるかもしれないけど、暫くすれば治ると思う」
キアラは頷いて、言われた通りゆっくりと息を吸い込む。レオに倣い呼吸を深くして、逸る心を落ち着かせることに集中した。
「クロウも……むしろクロウは十分にリラックスして心を平穏にしておいて。この後何があっても動じないくらいに」
「え……どういう意味なんだ? まさか危険な魔法なのか?」
期待と不安が入り混じったような様子でキアラを見守っていたクロウが、早くも動じる。
「そんなことないよ! 封印は危なくないから! ただそう、周りが緊張するとあまり良くないから、多分。こう、どんと構えてほしいというか」
「そうだ、私たちにつられてレオが集中出来ないかもしれない。いいか、この後……いや、例え何があっても、狼狽えないような強い意志を持て」
サアレもやたらと落ち着くように、息子を宥めた。両親から真剣な視線を受けて、クロウの表情も引き締まる。
「繊細な魔法なんだな……わかった」
「そうそう、繊細! そんな感じ!」
やたらと早口で、レオは自分でも何が何だかわからない言い訳をしてしまったが、両親に信頼を寄せるクロウは素直に頷く。その様子を見て、レオとサアレはこっそりと安堵の息を吐いた。
せっかく落ち着けた心がまた波立ち、レオはもう一度呼吸を整えて自分の中の魔力に集中する。一度魔力を丹田に溜めて、そこから胸、肩と順番に通して両手に移すと、光が視覚化して集まってくる。
閉じられたキアラの両目に手を翳し、脳内で組み立てた魔法式を唱えると小さな魔法陣が現れ、キアラの眉間の少し上に吸い込まれていった。しばらくすると光が収まり、キアラはくらくらと目眩を感じる。頭を押さえるキアラの両頬に手を添えたレオが左右の瞳を確認すると、薄らとした魔法陣が刻印されていた。
「うん、成功してる。大丈夫? 目は見える?」
「ん……見える……大丈夫」
レオが手を離したので正していた姿勢を緩め、キアラは椅子の背板に体重を預ける。立ったまま息を押し殺して見守っていたクロウとサアレも大きくため息をついて、「よかった……」と椅子に腰掛けた。
「少し安静にね。キアラは今まで使うこともなかったから特に不自由はないだろうけど、それでも身を守る術が一つ減ったということは覚えておくんだよ。また必要になったらすぐに解くから」
「うん、ありがとう父さん」
体だけでなく今後のことも気遣ってくれるレオの優しい忠告に、少し緊張していたキアラの気持ちが和んだ。魔眼を意図的に使った事がないので封印を確かめる事は困難だが、うまく言えないけれど、感覚の一つが遮断されたような違和感はある。
「私の目、みんなと同じになったんだね」
そうやって言葉に出すとキアラの胸に沸々と嬉しさが湧いてきて、まだ心配そうな顔で見ているクロウとサアレに微笑んでみせる。その笑顔に二人は張り詰めていた息を緩ませて、同時に頷いた。
自信があったとはいえ、レオは無事成功した事に安堵の息を吐いた。喜ぶ家族の光景を微笑ましく眺めていると、不意にクロウと目が合った。
「父さんはやっぱりすごいな。僕は一生敵いそうにない」
純粋に尊敬の念を示す息子は、この後予定している話を聞いてどんな反応をするのか……。想像したレオはクロウの曇りなき眼を直視できず、視線を彷徨わせる。
「あー……いや、剣はクロウが上だよ」
「そんなわけない。謙遜だ」
更にキラキラとした視線を向けられて耐え切れなくなったレオは腹を括り、サアレの横に掛けて大きく息をついた。
「ちょっとハードな話だから今まで話さなかったんだけど、クロウにとって大事な事だから聞いてほしい」
いつも堂々としている父の強く握る拳が心なしか震えているような気がして、クロウとキアラはただならぬ雰囲気に緊張して襟を正す。
サアレもただ黙ってじっと深刻な顔でクロウを見ているので、更にクロウの緊張が増していく。
「父さん、そんなに辛い話なのか?」
「うん……出来たら、その、仏のような心で……」
「よくわからないけど、心して聞くよ」
真剣な表情で見つめる子供たちの目を見ることが出来ず、レオは過去の拉致事件を話し始めた。
◆◇
「父さんが……そんな目に遭ってたなんて……無事でよかったぁ……」
レオの話に青褪めて、ショックを隠しきれないキアラが身を乗り出し、机の上で固く握られた養父の拳をぎゅっと包み込む。
「本当に……無事でいてくれて良かった」
クロウも珍しく呆然とした表情で、真剣に心からレオの身を案じている様子が伝わってくる。
「うっ……うちの子たちがいい子でつらい……」
「レオ! しっかり!」
真っ直ぐな二人の視線を受け止めることが出来ず、泣きそうに助けを求めるレオに、サアレが頑張れと元気付ける。レオは観念したように中断していた話をボソボソとまた話し出す。
「記憶は今回みたいに何かきっかけがあると思い出したりする事もあって……。それで、ここからが本題なんだけどね……」
固唾を呑んで見守る子供たちを前に、レオの声から更に覇気がなくなる。
「あの、クロウの、魔力の事なんだけど……」
「魔力? 僕は魔力持ちじゃないけど」
何のことかと首を傾げるクロウに、レオは事の顛末をサアレに話した通りに伝えた。
「……という訳で、本当はあるんだよね。魔力」
呆然としていたクロウが段々と状況を理解していくと共に、ゆらりと怒気が視覚化して見える気がした。レオは椅子ごと後ろに下がり、サアレは落ち着けと両手を前に出してクロウを宥める。
「そんな……父さん母さん揃って記憶が曖昧とか、そんな都合の良い話が……」
「あったんだから仕方ないじゃないか!」
そう、仕方ない。故意に忘れていたわけじゃないので、それしか言えない。
「僕がどれだけ……」
ゆらりと立ち上がるクロウにキアラがあたふた取り繕うとするが、彼がどれほど聖剣に憧れていたかを知っている身としては、どう声を掛けたら良いのかわからなくて、触れることが出来ない。
「ごめん! 本当に! 許してもらえるとは思わないけど、すぐに解くから!」
「クロウ落ち着け! 私からも出来る事はする!」
レオもサアレもこれはまずいと必死で説得しようと身を乗り出すが、不意にクロウの怒気が緩んで、夫婦揃ってぱちくりと大きく瞬きして息子を見つめた。
「解いてもらえれば、僕にもこの剣が使えるのか……?」
クロウが独り言のように呟いて聖剣に視線を移し、柄を握るとレオが激しく首を上下に振った。
「多分! それしか原因が思いつかないから……」
確約は出来ないけど、とごにょごにょ言うレオの言葉を聞きながら、長年の夢が叶うかもしれないと妙な緊張で体が固まる。そんなクロウを励ますように腕に触れたキアラに頷き、一度息を大きく吐いてレオに向き合う。
「父さん、封印を……解いて欲しい」
「もちろんだよ!」
息子が荒れなかった事が不思議だったが、そうと決まればと、椅子に座るクロウの前に立つ。呼吸を整えたレオは、先程と同じように集中して、クロウにかけてある魔法の式を探る。
どうやって掛けたかまでは思い出せないが、長年気付かなかっただけあり、かなり集中しないと当のレオでも見る事が困難たった。長い時間深く深く集中して、レオはとうとう見つけた解除の合言葉を唱える。同時にパキリと何か割れるような音が辺りに響く。クロウは目眩を覚えて一瞬バランスを崩し、支えようとしたキアラが慌てて寄り添った。
「クロウ! 大丈夫? ……わ、魔力だ」
心配そうに覗き込んだキアラが驚いてクロウの体をペタペタと触ると、じわりと暖かな魔力を感じる。
「どう? 大丈夫?」
じっと両手を見て、手を開いては閉じを繰り返すクロウを覗き込んだレオが背中に手を当てると、覚えのある魔力を掌に感じたようだ。
「よかったー! 僕と同じ魔力だ! クロウ、本当に、本当にごめん……何て謝ったらいいのか……」
少し遅れてサアレもクロウの肩に恐る恐る手を置き、本当だ…と驚愕している。急に体の奥から溢れ出した温かな感覚が全身を満たしてゆき、クロウは心ここにあらずと言った体でみんなの言葉が頭に入ってこない。
見守られる中、思い出したようにゆるゆると動かした手で、恐る恐る腰に帯びた聖剣の柄を握るクロウに全員の視線が集中する。
一呼吸置いたクロウが鞘からゆっくり引き抜くと、陽の光を反射して薄青く光る刀身が現れた。そうして引き抜いた美しい刀身を食い入るように眺め、のろのろとした動作でテーブルから離れていく。
それから一呼吸してゆっくりと剣を構え、いつもの型で刃を舞わせ、静かに納刀した。一息つくと、様子を一通り見守っていたキアラが泣きながら勢いよく飛びついていく。
「お、おめでとうクロウ! 私も嬉しいよ~!」
すぐにレオとサアレも泣きながら駆け寄ってきて、三人に抱きつかれたクロウは、気が抜けたような困った顔で微笑んだ。
明るい日差しと木々の彩りも相まって、爽やか且つ穏やかな二人とは対極的に、レオとサアレの表情はどんよりとした曇り空のように憂鬱で、真実を知った息子がどんな風に荒れるのか気が気ではない。
クロウのためには一刻も早く封印を解いてやりたい。やりたい……が、最悪な記憶として残る十五歳の誕生日を思い出しては、声をかけるタイミングをレオはなかなか掴めないでいた。
しばらく悶々と眺めているとキアラが気付いて手を振り、クロウも両親に視線を移す。
「父さん母さん、話は終わったの?」
「ああ、うん……ええと……」
背の低い雑草をなるべく踏まないように、子鹿のような軽い足取りでキアラが駆け寄る。わくわくと期待の眼差しで見上げてくる娘の瞳をじっと見つめて、レオはもう一度脳内で魔法のおさらいをした。
「ああ、そうだね。先に封印しよう」
「嬉しい! ありがとう!」
後になると封印どころではなくなるかもしれないと、レオは一度気持ちを切り替える。椅子に座らせたキアラの正面に立ったレオは、微かな風に揺れる森の木々に耳を傾けながら、自らの呼吸に集中した。
「キアラも呼吸を深くリラックスして。感覚器官に干渉する魔法だから少し気持ち悪くなるかもしれないけど、暫くすれば治ると思う」
キアラは頷いて、言われた通りゆっくりと息を吸い込む。レオに倣い呼吸を深くして、逸る心を落ち着かせることに集中した。
「クロウも……むしろクロウは十分にリラックスして心を平穏にしておいて。この後何があっても動じないくらいに」
「え……どういう意味なんだ? まさか危険な魔法なのか?」
期待と不安が入り混じったような様子でキアラを見守っていたクロウが、早くも動じる。
「そんなことないよ! 封印は危なくないから! ただそう、周りが緊張するとあまり良くないから、多分。こう、どんと構えてほしいというか」
「そうだ、私たちにつられてレオが集中出来ないかもしれない。いいか、この後……いや、例え何があっても、狼狽えないような強い意志を持て」
サアレもやたらと落ち着くように、息子を宥めた。両親から真剣な視線を受けて、クロウの表情も引き締まる。
「繊細な魔法なんだな……わかった」
「そうそう、繊細! そんな感じ!」
やたらと早口で、レオは自分でも何が何だかわからない言い訳をしてしまったが、両親に信頼を寄せるクロウは素直に頷く。その様子を見て、レオとサアレはこっそりと安堵の息を吐いた。
せっかく落ち着けた心がまた波立ち、レオはもう一度呼吸を整えて自分の中の魔力に集中する。一度魔力を丹田に溜めて、そこから胸、肩と順番に通して両手に移すと、光が視覚化して集まってくる。
閉じられたキアラの両目に手を翳し、脳内で組み立てた魔法式を唱えると小さな魔法陣が現れ、キアラの眉間の少し上に吸い込まれていった。しばらくすると光が収まり、キアラはくらくらと目眩を感じる。頭を押さえるキアラの両頬に手を添えたレオが左右の瞳を確認すると、薄らとした魔法陣が刻印されていた。
「うん、成功してる。大丈夫? 目は見える?」
「ん……見える……大丈夫」
レオが手を離したので正していた姿勢を緩め、キアラは椅子の背板に体重を預ける。立ったまま息を押し殺して見守っていたクロウとサアレも大きくため息をついて、「よかった……」と椅子に腰掛けた。
「少し安静にね。キアラは今まで使うこともなかったから特に不自由はないだろうけど、それでも身を守る術が一つ減ったということは覚えておくんだよ。また必要になったらすぐに解くから」
「うん、ありがとう父さん」
体だけでなく今後のことも気遣ってくれるレオの優しい忠告に、少し緊張していたキアラの気持ちが和んだ。魔眼を意図的に使った事がないので封印を確かめる事は困難だが、うまく言えないけれど、感覚の一つが遮断されたような違和感はある。
「私の目、みんなと同じになったんだね」
そうやって言葉に出すとキアラの胸に沸々と嬉しさが湧いてきて、まだ心配そうな顔で見ているクロウとサアレに微笑んでみせる。その笑顔に二人は張り詰めていた息を緩ませて、同時に頷いた。
自信があったとはいえ、レオは無事成功した事に安堵の息を吐いた。喜ぶ家族の光景を微笑ましく眺めていると、不意にクロウと目が合った。
「父さんはやっぱりすごいな。僕は一生敵いそうにない」
純粋に尊敬の念を示す息子は、この後予定している話を聞いてどんな反応をするのか……。想像したレオはクロウの曇りなき眼を直視できず、視線を彷徨わせる。
「あー……いや、剣はクロウが上だよ」
「そんなわけない。謙遜だ」
更にキラキラとした視線を向けられて耐え切れなくなったレオは腹を括り、サアレの横に掛けて大きく息をついた。
「ちょっとハードな話だから今まで話さなかったんだけど、クロウにとって大事な事だから聞いてほしい」
いつも堂々としている父の強く握る拳が心なしか震えているような気がして、クロウとキアラはただならぬ雰囲気に緊張して襟を正す。
サアレもただ黙ってじっと深刻な顔でクロウを見ているので、更にクロウの緊張が増していく。
「父さん、そんなに辛い話なのか?」
「うん……出来たら、その、仏のような心で……」
「よくわからないけど、心して聞くよ」
真剣な表情で見つめる子供たちの目を見ることが出来ず、レオは過去の拉致事件を話し始めた。
◆◇
「父さんが……そんな目に遭ってたなんて……無事でよかったぁ……」
レオの話に青褪めて、ショックを隠しきれないキアラが身を乗り出し、机の上で固く握られた養父の拳をぎゅっと包み込む。
「本当に……無事でいてくれて良かった」
クロウも珍しく呆然とした表情で、真剣に心からレオの身を案じている様子が伝わってくる。
「うっ……うちの子たちがいい子でつらい……」
「レオ! しっかり!」
真っ直ぐな二人の視線を受け止めることが出来ず、泣きそうに助けを求めるレオに、サアレが頑張れと元気付ける。レオは観念したように中断していた話をボソボソとまた話し出す。
「記憶は今回みたいに何かきっかけがあると思い出したりする事もあって……。それで、ここからが本題なんだけどね……」
固唾を呑んで見守る子供たちを前に、レオの声から更に覇気がなくなる。
「あの、クロウの、魔力の事なんだけど……」
「魔力? 僕は魔力持ちじゃないけど」
何のことかと首を傾げるクロウに、レオは事の顛末をサアレに話した通りに伝えた。
「……という訳で、本当はあるんだよね。魔力」
呆然としていたクロウが段々と状況を理解していくと共に、ゆらりと怒気が視覚化して見える気がした。レオは椅子ごと後ろに下がり、サアレは落ち着けと両手を前に出してクロウを宥める。
「そんな……父さん母さん揃って記憶が曖昧とか、そんな都合の良い話が……」
「あったんだから仕方ないじゃないか!」
そう、仕方ない。故意に忘れていたわけじゃないので、それしか言えない。
「僕がどれだけ……」
ゆらりと立ち上がるクロウにキアラがあたふた取り繕うとするが、彼がどれほど聖剣に憧れていたかを知っている身としては、どう声を掛けたら良いのかわからなくて、触れることが出来ない。
「ごめん! 本当に! 許してもらえるとは思わないけど、すぐに解くから!」
「クロウ落ち着け! 私からも出来る事はする!」
レオもサアレもこれはまずいと必死で説得しようと身を乗り出すが、不意にクロウの怒気が緩んで、夫婦揃ってぱちくりと大きく瞬きして息子を見つめた。
「解いてもらえれば、僕にもこの剣が使えるのか……?」
クロウが独り言のように呟いて聖剣に視線を移し、柄を握るとレオが激しく首を上下に振った。
「多分! それしか原因が思いつかないから……」
確約は出来ないけど、とごにょごにょ言うレオの言葉を聞きながら、長年の夢が叶うかもしれないと妙な緊張で体が固まる。そんなクロウを励ますように腕に触れたキアラに頷き、一度息を大きく吐いてレオに向き合う。
「父さん、封印を……解いて欲しい」
「もちろんだよ!」
息子が荒れなかった事が不思議だったが、そうと決まればと、椅子に座るクロウの前に立つ。呼吸を整えたレオは、先程と同じように集中して、クロウにかけてある魔法の式を探る。
どうやって掛けたかまでは思い出せないが、長年気付かなかっただけあり、かなり集中しないと当のレオでも見る事が困難たった。長い時間深く深く集中して、レオはとうとう見つけた解除の合言葉を唱える。同時にパキリと何か割れるような音が辺りに響く。クロウは目眩を覚えて一瞬バランスを崩し、支えようとしたキアラが慌てて寄り添った。
「クロウ! 大丈夫? ……わ、魔力だ」
心配そうに覗き込んだキアラが驚いてクロウの体をペタペタと触ると、じわりと暖かな魔力を感じる。
「どう? 大丈夫?」
じっと両手を見て、手を開いては閉じを繰り返すクロウを覗き込んだレオが背中に手を当てると、覚えのある魔力を掌に感じたようだ。
「よかったー! 僕と同じ魔力だ! クロウ、本当に、本当にごめん……何て謝ったらいいのか……」
少し遅れてサアレもクロウの肩に恐る恐る手を置き、本当だ…と驚愕している。急に体の奥から溢れ出した温かな感覚が全身を満たしてゆき、クロウは心ここにあらずと言った体でみんなの言葉が頭に入ってこない。
見守られる中、思い出したようにゆるゆると動かした手で、恐る恐る腰に帯びた聖剣の柄を握るクロウに全員の視線が集中する。
一呼吸置いたクロウが鞘からゆっくり引き抜くと、陽の光を反射して薄青く光る刀身が現れた。そうして引き抜いた美しい刀身を食い入るように眺め、のろのろとした動作でテーブルから離れていく。
それから一呼吸してゆっくりと剣を構え、いつもの型で刃を舞わせ、静かに納刀した。一息つくと、様子を一通り見守っていたキアラが泣きながら勢いよく飛びついていく。
「お、おめでとうクロウ! 私も嬉しいよ~!」
すぐにレオとサアレも泣きながら駆け寄ってきて、三人に抱きつかれたクロウは、気が抜けたような困った顔で微笑んだ。
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