1 / 9
1.突然のサキュバス化
しおりを挟む
小鳥がさえずるのどかな日曜。
うららかな朝の日差しは優秀な遮光カーテンに遮られている。
そんな薄明るい部屋で、呆れた視線を向ける奏多に覆いかぶさり、遥花はちろりと舌なめずりした。
出会った日からずっとずっと四つ上の義兄、奏多が好きだった。おかげで二十になった今でも他の男になんか興味が持てないでいる。
なのに奏多は遥花を妹としか見てくれない。
もちろんそれは当たり前のことで、人として正しい生き方なんだろう。しかし我が道をゆく遥花には納得できなかった。
世間一般の正しさなんて興味がない。遥花にとって大切なのは自分の心が了承するか否か。ただそれだけだ。
だから今回の変異は神様からのご褒美。そうとしか思えなかった。
さかのぼること数年前、突然変異というものが突如世間に現れ始めた。
体の一部もしくは全身に動物の特徴が現れたり、ツノが生えたり、体の色が変化したり。
症状は様々で、いまだに原因は解明されていない。
だけど変異した体はなにかしらのスキルを宿すものだ。よって国からは保護される対象となっている。
人権にうるさい時代ゆえに差別に苦しむこともなく、遥花にとって困ることはない。
それになにより、これでガードの固い義兄を丸め込む理由ができたのだから。
***
目覚めた遥花は妙な違和感を覚えた。
窓から差し込む日の光は優しく、ゆっくりと瞬きをする。
今日はダラダラ眠って、午後から義兄の部屋で映画でも観ようと思っていたのに。
小鳥の鳴き声がする今はきっとまだ早朝に違いない。
なんだかやけに喉が渇いているし、お尻のあたりに妙な感触がある。
「なにぃ……、なんか、へん……」
まだ覚醒しきっていない頭のまま、そろりと腰の後ろに手を伸ばす。やたらとむずむずするこれはなんだろう。
眉をしかめ、ふわもこのショートパンツの中に入れた指はすぐにぴたりと動きを止めた。
「ん? なにこれ……」
指に当たるものがある。細く長く、つるんとした触感は昨日までなかったものだ。しかも触れるとぞわぞわ背中がくすぐったい。
心当たりはないが、思い浮かぶものはあった。
まさかと慌てて飛び起き、ショートパンツを豪快に脱ぎ捨てる。
スタンドミラーの前に立った遥花は背を向け、おそるおそるといった視線で鏡の中を覗いた。
お気に入りのピンクのショーツの上。ずれた布地の上には長く細いしっぽがある。
つやっとした滑らかな質感。先が尖ったハートに見えるそれは、鏡の中でゆらりと揺れた。
「は? え? なに、これ、しっぽ……?」
しかも鏡に映る自分の頭には山羊のようなツノが左右に一本ずつ。これもまた昨日まではなかったものだ。おずおずと触ればちゃんと感覚がある。
「え、うそ、やば! これって……リアルにミリアンじゃん!」
興奮が抑えきれず、つい叫んでしまった。遥花の高揚に合わせてしっぽがゆらゆら揺れる。
染まる両頬を押さえた遥花の瞳は、もはや感激のあまり泣き出しそうに潤んでいた。
うららかな朝の日差しは優秀な遮光カーテンに遮られている。
そんな薄明るい部屋で、呆れた視線を向ける奏多に覆いかぶさり、遥花はちろりと舌なめずりした。
出会った日からずっとずっと四つ上の義兄、奏多が好きだった。おかげで二十になった今でも他の男になんか興味が持てないでいる。
なのに奏多は遥花を妹としか見てくれない。
もちろんそれは当たり前のことで、人として正しい生き方なんだろう。しかし我が道をゆく遥花には納得できなかった。
世間一般の正しさなんて興味がない。遥花にとって大切なのは自分の心が了承するか否か。ただそれだけだ。
だから今回の変異は神様からのご褒美。そうとしか思えなかった。
さかのぼること数年前、突然変異というものが突如世間に現れ始めた。
体の一部もしくは全身に動物の特徴が現れたり、ツノが生えたり、体の色が変化したり。
症状は様々で、いまだに原因は解明されていない。
だけど変異した体はなにかしらのスキルを宿すものだ。よって国からは保護される対象となっている。
人権にうるさい時代ゆえに差別に苦しむこともなく、遥花にとって困ることはない。
それになにより、これでガードの固い義兄を丸め込む理由ができたのだから。
***
目覚めた遥花は妙な違和感を覚えた。
窓から差し込む日の光は優しく、ゆっくりと瞬きをする。
今日はダラダラ眠って、午後から義兄の部屋で映画でも観ようと思っていたのに。
小鳥の鳴き声がする今はきっとまだ早朝に違いない。
なんだかやけに喉が渇いているし、お尻のあたりに妙な感触がある。
「なにぃ……、なんか、へん……」
まだ覚醒しきっていない頭のまま、そろりと腰の後ろに手を伸ばす。やたらとむずむずするこれはなんだろう。
眉をしかめ、ふわもこのショートパンツの中に入れた指はすぐにぴたりと動きを止めた。
「ん? なにこれ……」
指に当たるものがある。細く長く、つるんとした触感は昨日までなかったものだ。しかも触れるとぞわぞわ背中がくすぐったい。
心当たりはないが、思い浮かぶものはあった。
まさかと慌てて飛び起き、ショートパンツを豪快に脱ぎ捨てる。
スタンドミラーの前に立った遥花は背を向け、おそるおそるといった視線で鏡の中を覗いた。
お気に入りのピンクのショーツの上。ずれた布地の上には長く細いしっぽがある。
つやっとした滑らかな質感。先が尖ったハートに見えるそれは、鏡の中でゆらりと揺れた。
「は? え? なに、これ、しっぽ……?」
しかも鏡に映る自分の頭には山羊のようなツノが左右に一本ずつ。これもまた昨日まではなかったものだ。おずおずと触ればちゃんと感覚がある。
「え、うそ、やば! これって……リアルにミリアンじゃん!」
興奮が抑えきれず、つい叫んでしまった。遥花の高揚に合わせてしっぽがゆらゆら揺れる。
染まる両頬を押さえた遥花の瞳は、もはや感激のあまり泣き出しそうに潤んでいた。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説


【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる