【R18】Ω(オメガ)な私の恋は忍ばない

ドゴイエちまき

文字の大きさ
上 下
1 / 9

1.三日月が浮かぶ午前零時

しおりを挟む
 世は戦国時代――は終結を迎え、今となっては過去の話である。

 

 すっかり平和が定着した島国アズチの首都、イナリシティ。賑やかな昼間とは打って変わり、人々はもう眠りにつく時間だ。

 

 寂しい星空に三日月が浮かぶ午前零時。

 人気のない路地で黒ずくめの少女アヤメが、同じく黒装束の青年を追い詰めていた。

 

 すずめのしっぽのように黒髪を一つでまとめた彼の背には塀があり、前方にはアヤメがいる。よって逃げ場はない。

 見上げる先にある彼の琥珀色した瞳は、こんな時ですら穏やかな光をたたえていた。

 

「観念するのね、ハヤト。今日こそは私と番つがいになってもらうから」

「うーん、それはやめたほうがいいと思うよ」

「なんでよ! ほら、うなじを噛むだけだから。ね? 簡単でしょ? なにも怖いことはないから大丈夫!」



 このセリフも何度目だろう。明るい声に加え、にっこり可愛らしく笑ってみせても、やっぱりハヤトは頷いてくれない。

 正直な話、めちゃくちゃ悔しい。

 アヤメがこうして昼も夜も彼を追うのは、世界の理をなんとしても利用したいからだ。

 

 アルファ、ベータ、オメガ。

 この世には男女とはまた別の二次性と呼ばれる特殊な性別が存在する。

 容姿も華やかで、文武共に優秀なアルファ。

 定期的に訪れる発情期は厄介だが、アルファを惹きつける希少な人口数のオメガ。

 そのどちらも有しない、一番人口の多いベータ。そして、男と女。

 この六つの性で世界は成り立っている。



 番とはアルファとオメガのみが結べる強い絆で、一度番ってしまえばどちらか片方がこの世を去るまで継続される契約のようなものだ。

 契約を結ぶとアルファは番にしか発情しなくなるし、オメガは番以外と肉体関係が結べなくなる。

 不思議なシステムだが、どういう仕組みなのかは神のみぞ知るもの。理解はできなくとも、みな常識として受け入れている。

 

 そして性交中にアルファがオメガのうなじを噛むことで、番の契約は成立する。

 もちろん経験したことはないけれど、これもまた一般常識である。

 軽率に頷いてほしいから、あえて軽く簡単に言ってみるのだが、アヤメとしては真剣そのものだった。

 しかしハヤトは困ったように眉根を下げて笑い、首を横に振る。



「噛むだけ……ね。自分を大切にしたほうがいいよ。アヤメは可愛いから俺なんか相手にしなくても、もっといい人がいるよ」



 彼はいつもこうだ。可愛いと言うのであれば素直に受け入れてくれたらいいのに。

 しかし、ここは人ひとりが通れるだけの細い路地。逃がすつもりなど、これっぽっちもない。

 勝利の確信を得たアヤメは懐から愛用の暗器を取り出した。

 縄の先に棒手裏剣のついた縄鏢はアヤメの得意とする武器である。捕縛技は得意だ。

 しかし縄を投げるより早く、ハヤトは姿勢を低くしてアヤメに手を伸ばす。とっさに後ろに飛んだけれど、手の中にあった縄鏢は奪われてしまった。

 

「か、返してよ!」



 夜も更けているため小声で噛みつくアヤメとは対称的に、ハヤトは穏やかは笑みのままである。

 悔しいほどまでに余裕な顔はアヤメのプライドを刺激する。しかし同時にときめく乙女心は実に厄介である。

 

 忍びとしての矜持と恋心。ジレンマにおちいるアヤメにむけて、「うん、そうするね」と微笑むハヤトはあくまで平静だ。

 そして縄鏢を取り戻そうとしたアヤメの腕をまとめ、素早い動作で縄をぐるりとかけた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

パーキングエリアに置いていかれたマシュマロボディの彼女は、運ちゃんに拾われた話

狭山雪菜
恋愛
詩央里は彼氏と1泊2日の旅行に行くハズがくだらないケンカをしたために、パーキングエリアに置き去りにされてしまった。 パーキングエリアのフードコートで、どうするか悩んでいたら、運送会社の浩二に途中の出口に下ろすと言われ、連れて行ってもらう事にした。 しかし、2人で話していく内に趣味や彼に惹かれていって… この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...