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2 ☆(挿絵あり)
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ぷりぷり頬を膨らませた紬がピーっと外袋を裂く。取り出したアイスキャンディーは見事なほどの黒一色だった。
手にしている本人ですら目を丸くしている。
そのまま数秒、ふたり揃ってアイスを凝視してしまった。
「まずそ……」
「えーっと、チョコかな……?」
「炭じゃね? 俺ほんといらないから」
「でもでも! 食べたらおいしいかも……」
そう言いつつ、おそるおそるといった動作で紬はアイスを齧る。
チラリと見えた赤い舌に、なぜかどきりとした。
それからこくりと口内のアイスを飲み込んだ紬は、横目で観察する蓮に視線を移し、明るい顔でうんうん頷いた。
「おいしいよ」
「マジか……」
「うん。いちご味かな?」
ほら、と差し出されたアイスを見れば黒の中に赤い色が見える。
紬はなぜか嬉しそうな顔をしているが、禍々しいコントラストに蓮の食欲は更に減退した。
「蓮くんも食べてみなよ。おいしいよ。はい、あーん」
無邪気に差し出されるアイスには齧った跡が付いていて、動揺する体が強張った。
間接キス……。
そんな初々しさあふれる感想を抱き、思わず紬の口元を眺めてしまう。同時に、こくりと蓮の喉が鳴る。
近い距離で覗き込む紬の丸い瞳は綺麗に澄んで、下心なんか見透かされてしまいそうだ。
つんとした小さな鼻に、リップが光るくちびる。
いつもの甘い香りがより濃く感じる。
数秒見入ってしまったことに気づいた蓮が視線を逸らせば、大きく開いたTシャツの襟元から豊かな膨らみが目に入った。
ちらりと見える谷間に顔が火照る。どういうわけか、いつも以上に過剰な意識をしてしまう。
ベッドの上というシチュエーションだからかもしれない。
そんな蓮を見た紬は、こてりと首を傾げる。
彼女の持つアイスから黒い液体が垂れて、華奢な手首を伝っていくのが見えた。
それを紬は小さな舌でゆっくり掬い取る。
やたらと扇情的な仕草はスローモーションのようだ。さっきからドキドキ鼓動がおかしい。
もう一度向けられた視線は熱を含んでいた。
ヒヤリとした黒い物体を押し当てられて、くちびるに冷たい温度を感じる。
「ほら、アイス……とけてきてるよ」
紬はいつもふわふわしている。なのにその声も、顔も、まるで別人のように妖艶だった。
考えるより先に体が動いた。気付けば紬を押し倒し、シーツに縫いとめる自分がいた。
アイスは手からこぼれ落ちてシーツにじわりと薄黒い染みが広がっている。
拘束するように手首を掴んでいるのに紬の顔に恐れや不安は見当たらない。
ただ潤んだ瞳で、じっと蓮を見上げてくる。動悸はもう最高潮だ。
「思春期舐めんなよ……。煽ってんの?」
「……好きでもない男の子のベッドになんか、座らないよ。蓮くん、好き……。ずっと好きなの」
迷いない瞳は真っ直ぐに蓮を映して、小さな声はしっかりと耳に届いた。
嘘だろ。
ほんの僅かな期待はあったけど、紬は可愛いし、優しいし、多分大学でもモテるに違いないのに。
思いがけない告白に一瞬大きく目を開いた蓮は、片手で顔を覆う。
転がり回りたいほどの嬉しさと共に安堵感が押し寄せて、長年越えられなかった壁を先に越された不甲斐なさも同時に覚えた。
「ばか……っ、もっと普通に言えよ。あー……、いや、ごめん、違う。そうじゃなくて、うん、俺も、好き……だ」
「本当?」
「うん……」
いつもの癖で憎まれ口を叩きそうになる己を自制して告げれば、紬の微笑みが指の隙間から見える。
綻ぶような笑顔は最高に可愛くて、しかもそっと瞼を閉じた紬は少しくちびるを尖らせた。
――キスくらいなら、いいよな……。
押し倒しておいて今更だが、勢い任せだったこともあり、その先は考えていなかった。
緊張で鼓動はうるさいし、紬の頬に添えた指は微かに震えている気がする。
やたらとゆっくりに感じる時間の中、蓮はそっとくちびるを合わせた。想像以上にやわらかくふっくらした感触に頭がくらくらする。
すぐに体を起こそうとした蓮だったが、紬の指がそれを阻止するように服を握った。
「蓮くん、もっとして……」
いつもとは違う、甘ったるい色香を含む声。
誘惑に抗えるはずもなく、もう一度重ねたくちびるでそれから幾度も啄みあった。
単調なキスを繰り返してるだけなのに息が上がって下半身に熱が集まっていく。
吐息まじりにあがる紬の小さな声、緩やかにくねる体、おまけに首に回された腕はしっかりと蓮を離さない。
「もっと……」
中断しようとするたびに紬に催促され、しかも胸元に感じるやわらかい感触にどうしても反応してしまう。
もう若い欲望ははち切れんばかりで、ジーパンの中は痛いほどに苦しい。
手にしている本人ですら目を丸くしている。
そのまま数秒、ふたり揃ってアイスを凝視してしまった。
「まずそ……」
「えーっと、チョコかな……?」
「炭じゃね? 俺ほんといらないから」
「でもでも! 食べたらおいしいかも……」
そう言いつつ、おそるおそるといった動作で紬はアイスを齧る。
チラリと見えた赤い舌に、なぜかどきりとした。
それからこくりと口内のアイスを飲み込んだ紬は、横目で観察する蓮に視線を移し、明るい顔でうんうん頷いた。
「おいしいよ」
「マジか……」
「うん。いちご味かな?」
ほら、と差し出されたアイスを見れば黒の中に赤い色が見える。
紬はなぜか嬉しそうな顔をしているが、禍々しいコントラストに蓮の食欲は更に減退した。
「蓮くんも食べてみなよ。おいしいよ。はい、あーん」
無邪気に差し出されるアイスには齧った跡が付いていて、動揺する体が強張った。
間接キス……。
そんな初々しさあふれる感想を抱き、思わず紬の口元を眺めてしまう。同時に、こくりと蓮の喉が鳴る。
近い距離で覗き込む紬の丸い瞳は綺麗に澄んで、下心なんか見透かされてしまいそうだ。
つんとした小さな鼻に、リップが光るくちびる。
いつもの甘い香りがより濃く感じる。
数秒見入ってしまったことに気づいた蓮が視線を逸らせば、大きく開いたTシャツの襟元から豊かな膨らみが目に入った。
ちらりと見える谷間に顔が火照る。どういうわけか、いつも以上に過剰な意識をしてしまう。
ベッドの上というシチュエーションだからかもしれない。
そんな蓮を見た紬は、こてりと首を傾げる。
彼女の持つアイスから黒い液体が垂れて、華奢な手首を伝っていくのが見えた。
それを紬は小さな舌でゆっくり掬い取る。
やたらと扇情的な仕草はスローモーションのようだ。さっきからドキドキ鼓動がおかしい。
もう一度向けられた視線は熱を含んでいた。
ヒヤリとした黒い物体を押し当てられて、くちびるに冷たい温度を感じる。
「ほら、アイス……とけてきてるよ」
紬はいつもふわふわしている。なのにその声も、顔も、まるで別人のように妖艶だった。
考えるより先に体が動いた。気付けば紬を押し倒し、シーツに縫いとめる自分がいた。
アイスは手からこぼれ落ちてシーツにじわりと薄黒い染みが広がっている。
拘束するように手首を掴んでいるのに紬の顔に恐れや不安は見当たらない。
ただ潤んだ瞳で、じっと蓮を見上げてくる。動悸はもう最高潮だ。
「思春期舐めんなよ……。煽ってんの?」
「……好きでもない男の子のベッドになんか、座らないよ。蓮くん、好き……。ずっと好きなの」
迷いない瞳は真っ直ぐに蓮を映して、小さな声はしっかりと耳に届いた。
嘘だろ。
ほんの僅かな期待はあったけど、紬は可愛いし、優しいし、多分大学でもモテるに違いないのに。
思いがけない告白に一瞬大きく目を開いた蓮は、片手で顔を覆う。
転がり回りたいほどの嬉しさと共に安堵感が押し寄せて、長年越えられなかった壁を先に越された不甲斐なさも同時に覚えた。
「ばか……っ、もっと普通に言えよ。あー……、いや、ごめん、違う。そうじゃなくて、うん、俺も、好き……だ」
「本当?」
「うん……」
いつもの癖で憎まれ口を叩きそうになる己を自制して告げれば、紬の微笑みが指の隙間から見える。
綻ぶような笑顔は最高に可愛くて、しかもそっと瞼を閉じた紬は少しくちびるを尖らせた。
――キスくらいなら、いいよな……。
押し倒しておいて今更だが、勢い任せだったこともあり、その先は考えていなかった。
緊張で鼓動はうるさいし、紬の頬に添えた指は微かに震えている気がする。
やたらとゆっくりに感じる時間の中、蓮はそっとくちびるを合わせた。想像以上にやわらかくふっくらした感触に頭がくらくらする。
すぐに体を起こそうとした蓮だったが、紬の指がそれを阻止するように服を握った。
「蓮くん、もっとして……」
いつもとは違う、甘ったるい色香を含む声。
誘惑に抗えるはずもなく、もう一度重ねたくちびるでそれから幾度も啄みあった。
単調なキスを繰り返してるだけなのに息が上がって下半身に熱が集まっていく。
吐息まじりにあがる紬の小さな声、緩やかにくねる体、おまけに首に回された腕はしっかりと蓮を離さない。
「もっと……」
中断しようとするたびに紬に催促され、しかも胸元に感じるやわらかい感触にどうしても反応してしまう。
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