【R18】恋する天使は悪魔な彼を捕まえたい

ドゴイエちまき

文字の大きさ
上 下
25 / 25

25.絶対に捕まえてみせる

しおりを挟む
「ん……、すきぃ……」
 呼吸を整える合間に呟く藍音の頬に、驚くほど優しいキスが降ってくる。ナツが求めているのは藍音自身ではなく体に宿す精気なのに。愛されていると錯覚しそうな口づけはズルい。
 
 しかも、
「すっげー満たされた……。もうアイネがいないと生きてけない」
 そんなことをご機嫌な顔で言うものだから、紛らわしい事この上ない。
 
 それでも抱き締める腕を解くことなんか出来ないこの身は、状況を受け入れるほうが良いのだろう。
 執着の対象が精気でもいい。そう、今はまだ。藍音もナツも、未来はまだまだ長いのだから。
 
「他の子を食べたら、もう二度と精気あげないんだから……」
「食べないって。そんなに不安なら本格的に契約してやるよ。アイネこそいいのか? 本当に俺を独り占めしたい?」
「契約は考えとくけど……。したい」

 天使が上位に立つ隷属魔法は別だが、悪魔との契約なんて立場上あり得ない。
 だけど独り占めしたいに決まっている。再度の確認なんかしないでほしい。
 むうっと眉を寄せて見上げると、赤い目がホッと緩む。
 
「そっか、よかった」
 
 今まで見たことがないほど無防備な笑顔は反則級だ。それだけで単純な藍音もつられて笑ってしまいそうになるから、何もかもが本当にズルい。
 
 緩んでしまいそうな顔を誤魔化すためにプイと横を向く。そうすると頬にキスが落ち、はむはむとくちびるで柔らかなほっぺを挟まれた。
 甘いじゃれつきというより、まさに食べ物扱いされている気がする。

 それでも甘えるような仕草は嫌ではない。むしろ可愛いなんてときめく胸は末期である。
 くすぐったさに肩をすくめたら、べろりと舐められて再びしっかりと抱き寄せられた。
 というより、がっちりと捕まえる腕は絶対に抜けられそうにない。どことなく不穏な予感がする。

「あの……、ナツくん?」
「藍音がそう言ってくれて本当によかった。俺、大食いなんだよな」
「んん?」

 大食い。頭の中で繰り返した藍音の顔がひくひく引きつった。
 そういえば藍音の知識上、淫魔は数か月ほど精気を得なくても生きていけるはず。
 ナツが実際にどれくらいの頻度で獲物を狩っていたのかは知らないけど、何度も違う女性を連れていたことは知っている。
 
(大食いって……。いや、無理でしょ……)
 
 ナツの安堵した笑顔の意味がわかり、藍音は無意識に腕から逃れようとする。
 藍音だけを見て、藍音だけを求めて欲しいし、他の女に渡すなんて絶対に嫌だ。だけど体力的な問題はまた別の話である。
 しかし強固なナツの腕は離れることを許してくれない。これが甘い理由なら喜んで身を任せるのだが。
 
「もちろん満たしてくれるんだろ? 期待してるよ、アイネ」

 囁く声は甘いのに、漠然とした恐怖で背中が震えた。
 それでも上級天使である藍音が本気で対抗すればナツを調伏することは可能だし、彼が付けた印ですらおそらく消すことは容易だ。
 でもそんな選択はこの先訪れることはない。雁字搦めに捕まっているのは自分の意志だから。
 
「私だって……、絶対に捕まえてやるんだから。愛してるとか、好きとか、たっくさん言わせてやるわ。覚悟してよね」

 精気だけじゃなく、藍音自身に執着させて、ドキドキさせて、嫉妬もさせて、ひと時も離れたくないと思わせてやる。

 気まぐれなナツを翻弄するのはおそらく至難の業だろう。しかし、こちとらロクでもない男にばかり惚れてきた歴を持っている。
 今までの経歴を思い返せば、契約という奥の手があるナツは一番信用できるのかもしれない。
 悔しい目でジトリと眺める藍音を、厄介な男は面白そうに見つめ返す。
 
「ふーん、面白そうだな。それも期待してるよ」
「なによぉ。余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。こっちにはとっておきの隷属魔法だってあるのよ。約束破ったら強制的に主従契約を結んでやるわ」
「こわ……。天使ってやっぱ性格悪いよな」
 
 明確な断りなどなく魔法を作動させたくせに、ナツは本気で嫌な顔をする。
 勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしで、気まぐれで、しかも悪魔。
 だけど勝負は手強いほうがいい。長期戦は覚悟の上だ。それに藍音の勘はよく当たる。

 いつか来るであろう勝利の予感にニンマリ笑った藍音は、お返しとばかりに滑らかな頬を甘く噛んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...