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25.絶対に捕まえてみせる
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「ん……、すきぃ……」
呼吸を整える合間に呟く藍音の頬に、驚くほど優しいキスが降ってくる。ナツが求めているのは藍音自身ではなく体に宿す精気なのに。愛されていると錯覚しそうな口づけはズルい。
しかも、
「すっげー満たされた……。もうアイネがいないと生きてけない」
そんなことをご機嫌な顔で言うものだから、紛らわしい事この上ない。
それでも抱き締める腕を解くことなんか出来ないこの身は、状況を受け入れるほうが良いのだろう。
執着の対象が精気でもいい。そう、今はまだ。藍音もナツも、未来はまだまだ長いのだから。
「他の子を食べたら、もう二度と精気あげないんだから……」
「食べないって。そんなに不安なら本格的に契約してやるよ。アイネこそいいのか? 本当に俺を独り占めしたい?」
「契約は考えとくけど……。したい」
天使が上位に立つ隷属魔法は別だが、悪魔との契約なんて立場上あり得ない。
だけど独り占めしたいに決まっている。再度の確認なんかしないでほしい。
むうっと眉を寄せて見上げると、赤い目がホッと緩む。
「そっか、よかった」
今まで見たことがないほど無防備な笑顔は反則級だ。それだけで単純な藍音もつられて笑ってしまいそうになるから、何もかもが本当にズルい。
緩んでしまいそうな顔を誤魔化すためにプイと横を向く。そうすると頬にキスが落ち、はむはむとくちびるで柔らかなほっぺを挟まれた。
甘いじゃれつきというより、まさに食べ物扱いされている気がする。
それでも甘えるような仕草は嫌ではない。むしろ可愛いなんてときめく胸は末期である。
くすぐったさに肩をすくめたら、べろりと舐められて再びしっかりと抱き寄せられた。
というより、がっちりと捕まえる腕は絶対に抜けられそうにない。どことなく不穏な予感がする。
「あの……、ナツくん?」
「藍音がそう言ってくれて本当によかった。俺、大食いなんだよな」
「んん?」
大食い。頭の中で繰り返した藍音の顔がひくひく引きつった。
そういえば藍音の知識上、淫魔は数か月ほど精気を得なくても生きていけるはず。
ナツが実際にどれくらいの頻度で獲物を狩っていたのかは知らないけど、何度も違う女性を連れていたことは知っている。
(大食いって……。いや、無理でしょ……)
ナツの安堵した笑顔の意味がわかり、藍音は無意識に腕から逃れようとする。
藍音だけを見て、藍音だけを求めて欲しいし、他の女に渡すなんて絶対に嫌だ。だけど体力的な問題はまた別の話である。
しかし強固なナツの腕は離れることを許してくれない。これが甘い理由なら喜んで身を任せるのだが。
「もちろん満たしてくれるんだろ? 期待してるよ、アイネ」
囁く声は甘いのに、漠然とした恐怖で背中が震えた。
それでも上級天使である藍音が本気で対抗すればナツを調伏することは可能だし、彼が付けた印ですらおそらく消すことは容易だ。
でもそんな選択はこの先訪れることはない。雁字搦めに捕まっているのは自分の意志だから。
「私だって……、絶対に捕まえてやるんだから。愛してるとか、好きとか、たっくさん言わせてやるわ。覚悟してよね」
精気だけじゃなく、藍音自身に執着させて、ドキドキさせて、嫉妬もさせて、ひと時も離れたくないと思わせてやる。
気まぐれなナツを翻弄するのはおそらく至難の業だろう。しかし、こちとらロクでもない男にばかり惚れてきた歴を持っている。
今までの経歴を思い返せば、契約という奥の手があるナツは一番信用できるのかもしれない。
悔しい目でジトリと眺める藍音を、厄介な男は面白そうに見つめ返す。
「ふーん、面白そうだな。それも期待してるよ」
「なによぉ。余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。こっちにはとっておきの隷属魔法だってあるのよ。約束破ったら強制的に主従契約を結んでやるわ」
「こわ……。天使ってやっぱ性格悪いよな」
明確な断りなどなく魔法を作動させたくせに、ナツは本気で嫌な顔をする。
勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしで、気まぐれで、しかも悪魔。
だけど勝負は手強いほうがいい。長期戦は覚悟の上だ。それに藍音の勘はよく当たる。
いつか来るであろう勝利の予感にニンマリ笑った藍音は、お返しとばかりに滑らかな頬を甘く噛んだ。
呼吸を整える合間に呟く藍音の頬に、驚くほど優しいキスが降ってくる。ナツが求めているのは藍音自身ではなく体に宿す精気なのに。愛されていると錯覚しそうな口づけはズルい。
しかも、
「すっげー満たされた……。もうアイネがいないと生きてけない」
そんなことをご機嫌な顔で言うものだから、紛らわしい事この上ない。
それでも抱き締める腕を解くことなんか出来ないこの身は、状況を受け入れるほうが良いのだろう。
執着の対象が精気でもいい。そう、今はまだ。藍音もナツも、未来はまだまだ長いのだから。
「他の子を食べたら、もう二度と精気あげないんだから……」
「食べないって。そんなに不安なら本格的に契約してやるよ。アイネこそいいのか? 本当に俺を独り占めしたい?」
「契約は考えとくけど……。したい」
天使が上位に立つ隷属魔法は別だが、悪魔との契約なんて立場上あり得ない。
だけど独り占めしたいに決まっている。再度の確認なんかしないでほしい。
むうっと眉を寄せて見上げると、赤い目がホッと緩む。
「そっか、よかった」
今まで見たことがないほど無防備な笑顔は反則級だ。それだけで単純な藍音もつられて笑ってしまいそうになるから、何もかもが本当にズルい。
緩んでしまいそうな顔を誤魔化すためにプイと横を向く。そうすると頬にキスが落ち、はむはむとくちびるで柔らかなほっぺを挟まれた。
甘いじゃれつきというより、まさに食べ物扱いされている気がする。
それでも甘えるような仕草は嫌ではない。むしろ可愛いなんてときめく胸は末期である。
くすぐったさに肩をすくめたら、べろりと舐められて再びしっかりと抱き寄せられた。
というより、がっちりと捕まえる腕は絶対に抜けられそうにない。どことなく不穏な予感がする。
「あの……、ナツくん?」
「藍音がそう言ってくれて本当によかった。俺、大食いなんだよな」
「んん?」
大食い。頭の中で繰り返した藍音の顔がひくひく引きつった。
そういえば藍音の知識上、淫魔は数か月ほど精気を得なくても生きていけるはず。
ナツが実際にどれくらいの頻度で獲物を狩っていたのかは知らないけど、何度も違う女性を連れていたことは知っている。
(大食いって……。いや、無理でしょ……)
ナツの安堵した笑顔の意味がわかり、藍音は無意識に腕から逃れようとする。
藍音だけを見て、藍音だけを求めて欲しいし、他の女に渡すなんて絶対に嫌だ。だけど体力的な問題はまた別の話である。
しかし強固なナツの腕は離れることを許してくれない。これが甘い理由なら喜んで身を任せるのだが。
「もちろん満たしてくれるんだろ? 期待してるよ、アイネ」
囁く声は甘いのに、漠然とした恐怖で背中が震えた。
それでも上級天使である藍音が本気で対抗すればナツを調伏することは可能だし、彼が付けた印ですらおそらく消すことは容易だ。
でもそんな選択はこの先訪れることはない。雁字搦めに捕まっているのは自分の意志だから。
「私だって……、絶対に捕まえてやるんだから。愛してるとか、好きとか、たっくさん言わせてやるわ。覚悟してよね」
精気だけじゃなく、藍音自身に執着させて、ドキドキさせて、嫉妬もさせて、ひと時も離れたくないと思わせてやる。
気まぐれなナツを翻弄するのはおそらく至難の業だろう。しかし、こちとらロクでもない男にばかり惚れてきた歴を持っている。
今までの経歴を思い返せば、契約という奥の手があるナツは一番信用できるのかもしれない。
悔しい目でジトリと眺める藍音を、厄介な男は面白そうに見つめ返す。
「ふーん、面白そうだな。それも期待してるよ」
「なによぉ。余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだから。こっちにはとっておきの隷属魔法だってあるのよ。約束破ったら強制的に主従契約を結んでやるわ」
「こわ……。天使ってやっぱ性格悪いよな」
明確な断りなどなく魔法を作動させたくせに、ナツは本気で嫌な顔をする。
勝手で、こっちの都合なんかおかまいなしで、気まぐれで、しかも悪魔。
だけど勝負は手強いほうがいい。長期戦は覚悟の上だ。それに藍音の勘はよく当たる。
いつか来るであろう勝利の予感にニンマリ笑った藍音は、お返しとばかりに滑らかな頬を甘く噛んだ。
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