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20.つらい恋はしたくない
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「それって……。もう私以外食べたくないってこと? 私じゃなきゃダメってこと? もしかして、ずっと食べてなかったの……?」
「いや、めっちゃ食った。むしろ食いまくった」
「そういう奴よね! 知ってた!」
一瞬で散ったときめきを返してほしい。
しかし藍音を見る瞳は笑っていない。もはや揶揄っていると言ってくれたほうが良い気もするけど。
「でも全然満足しない。どれだけ食っても食べた気がしない。付き合うとか、独り占めしたいとか……俺にはわからないけど、でもアイネが必要なんだ」
「もしかして……、おいしいから?」
「うん」
即答するナツの目は曇りなく澄んでいる。
もしかすると自分が間違ってるのかもしれない。一瞬流されそうになった藍音だったが、ハッと己を取り戻す。
たしかに、一度食べたら病みつきになるかも、なんてはじめに持ちかけたのは藍音だ。だけど告白後にそれは酷い気がする。
「却下よ、却下! 誰がヤるもんですか! 私は忙しいの! 優しくて誠実で私だけを必要として溺愛してくれるスパダリを見つけるんだから、不誠実な男になんか構ってられないわ!」
悪びれもしない肯定は藍音の感情を一気に爆発させた。恋心も乙女心もナツには通じない。しかし激昂する藍音を彼は解放してくれないままだ。悔しくて暴れてみたけど、閉じ込める腕はびくともしない。
「優しくてアイネを必要として……? わざわざ探さなくても俺でいいじゃん」
「ばっかじゃないの?! あんたより不誠実な男なんかいないわよ!」
「心外だな、俺は誠実だよ。平等だし、精気の礼はちゃんとするし、嘘もつかない」
声を荒げる藍音を眺めるナツは落ち着いていて、穏やかさすら感じさせた。
そうやって冷静でいられると感情をぶちまけている自分が馬鹿らしくなってくる。
でも欲しいのは藍音だけに向けられる愛情だ。不特定多数への優しさなど求めていない。
「平等な優しさなんかいらない。私は、私だけを愛してくれる人がいい……。もうつらい恋はしたくないの」
今回の恋は自業自得。だけど惹かれる心は制御できなかった。情けなくて溢れる涙はぼとぼと流れ落ちて、藍音は自分の手で頬を拭う。
緩く吹き上げる風が亜麻色の髪を揺らした。閑静な公園に小さな啜り泣く声だけが葉音に混じる。
ナツはしばらく何も言わなくて、でもやっぱり藍音を解放してはくれなかった。
「アイネ……」
ふと呼ばれた声。つい顔をあげると片手を頬に添えられ、額に黒い前髪が触れた。咄嗟に逃げた腰は強く引き寄せられ、制止の声は口付けで封印される。
粘膜を重ねるだけの優しいキス。久しぶりの感触は悔しいけれど心地よい。
静かに離れたくちびるに名残惜しさを感じていると、藍音の頬を撫でたナツが「決めた」と呟いた。
「付き合おっか。アイネの欲求満たしてやるよ。俺はアイネの精気が欲しい。アイネは俺が欲しい。お互い幸せじゃん」
「は? いやよ! いちいち上から目線ムカつくのよ」
抜け出そうと体を遠ざけてもすぐに引き戻される。
渾身の力を入れても敵わない。余裕の瞳で見下ろす悪魔な彼の体はきっと藍音とは違う構造なんだろう。
「なんで? 俺は約束は守るよ。悪魔にとって契約は大切だからな。アイネだけに優しくして、溺れるほど愛して、独り占めさせてやるよ」
「ひゃうっ……」
屈んだナツの吐息が耳に触れて、低く甘く名を囁く。それだけで肩が竦むのに、腰を抱いていた手がヒップを辿り、艶かしく太ももを撫でた。
布越しに感じる体温がぞくぞくと背中を震わせる。
首筋を軽く噛んだ犬歯は尖っていて、チクリとした刺激に思わずはしたない声が漏れてしまった。
「いや、めっちゃ食った。むしろ食いまくった」
「そういう奴よね! 知ってた!」
一瞬で散ったときめきを返してほしい。
しかし藍音を見る瞳は笑っていない。もはや揶揄っていると言ってくれたほうが良い気もするけど。
「でも全然満足しない。どれだけ食っても食べた気がしない。付き合うとか、独り占めしたいとか……俺にはわからないけど、でもアイネが必要なんだ」
「もしかして……、おいしいから?」
「うん」
即答するナツの目は曇りなく澄んでいる。
もしかすると自分が間違ってるのかもしれない。一瞬流されそうになった藍音だったが、ハッと己を取り戻す。
たしかに、一度食べたら病みつきになるかも、なんてはじめに持ちかけたのは藍音だ。だけど告白後にそれは酷い気がする。
「却下よ、却下! 誰がヤるもんですか! 私は忙しいの! 優しくて誠実で私だけを必要として溺愛してくれるスパダリを見つけるんだから、不誠実な男になんか構ってられないわ!」
悪びれもしない肯定は藍音の感情を一気に爆発させた。恋心も乙女心もナツには通じない。しかし激昂する藍音を彼は解放してくれないままだ。悔しくて暴れてみたけど、閉じ込める腕はびくともしない。
「優しくてアイネを必要として……? わざわざ探さなくても俺でいいじゃん」
「ばっかじゃないの?! あんたより不誠実な男なんかいないわよ!」
「心外だな、俺は誠実だよ。平等だし、精気の礼はちゃんとするし、嘘もつかない」
声を荒げる藍音を眺めるナツは落ち着いていて、穏やかさすら感じさせた。
そうやって冷静でいられると感情をぶちまけている自分が馬鹿らしくなってくる。
でも欲しいのは藍音だけに向けられる愛情だ。不特定多数への優しさなど求めていない。
「平等な優しさなんかいらない。私は、私だけを愛してくれる人がいい……。もうつらい恋はしたくないの」
今回の恋は自業自得。だけど惹かれる心は制御できなかった。情けなくて溢れる涙はぼとぼと流れ落ちて、藍音は自分の手で頬を拭う。
緩く吹き上げる風が亜麻色の髪を揺らした。閑静な公園に小さな啜り泣く声だけが葉音に混じる。
ナツはしばらく何も言わなくて、でもやっぱり藍音を解放してはくれなかった。
「アイネ……」
ふと呼ばれた声。つい顔をあげると片手を頬に添えられ、額に黒い前髪が触れた。咄嗟に逃げた腰は強く引き寄せられ、制止の声は口付けで封印される。
粘膜を重ねるだけの優しいキス。久しぶりの感触は悔しいけれど心地よい。
静かに離れたくちびるに名残惜しさを感じていると、藍音の頬を撫でたナツが「決めた」と呟いた。
「付き合おっか。アイネの欲求満たしてやるよ。俺はアイネの精気が欲しい。アイネは俺が欲しい。お互い幸せじゃん」
「は? いやよ! いちいち上から目線ムカつくのよ」
抜け出そうと体を遠ざけてもすぐに引き戻される。
渾身の力を入れても敵わない。余裕の瞳で見下ろす悪魔な彼の体はきっと藍音とは違う構造なんだろう。
「なんで? 俺は約束は守るよ。悪魔にとって契約は大切だからな。アイネだけに優しくして、溺れるほど愛して、独り占めさせてやるよ」
「ひゃうっ……」
屈んだナツの吐息が耳に触れて、低く甘く名を囁く。それだけで肩が竦むのに、腰を抱いていた手がヒップを辿り、艶かしく太ももを撫でた。
布越しに感じる体温がぞくぞくと背中を震わせる。
首筋を軽く噛んだ犬歯は尖っていて、チクリとした刺激に思わずはしたない声が漏れてしまった。
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