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19.会えなくなって気づいた欲求
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藍音より低かった身長も、高くあどけなかった声もすっかり変わっているけど、見上げる先にある笑顔は昔の面影を残すままだ。なんとなく込み上げるものを感じながら、藍音は素直に頷いた。
ベンチまでの距離はそれほど離れていない。駆け寄るのも悔しく、落ち着かない心を宥めながら出来るだけゆっくり歩く。
どうやって声を掛けようか。そんなことを考えながらじっと見つめていると、近づく藍音に気付いたナツが横向いていた顔をこちらへ向けた。
一瞬驚いたかのような表情を浮かべ、すぐに逸らされた目は少しの気まずさを感じさせた。
隣に座るのも憚られて正面で歩みを止める。少し空いた距離は小さな抵抗。
だけど立ち上がったナツは簡単に隙間を埋めて、藍音の細い手を取る。
彼の手は藍音より温度が低い。振り解けない甘さに軽く自己嫌悪する藍音の耳に「ごめん」とナツからは聞いたことのない言葉が小さく届いた。
驚き見上げると鮮やかな赤い目は苦しそうに歪んでいる。
「俺……いつも失くしてから気付くんだ。アイネに会えなくなって本当に後悔した。あの時、何がなんでも引き止めるべきだった」
「えっ?! え、ええっ?!」
まさかのまさかである。会いたいと言うからにはほんの少しだけ期待していた部分もあった。だけどこのシチュエーションは期待以上、むしろ夢ではないかと今この瞬間を疑ってしまう。
しかし人生最大に目をまん丸に開く藍音を唐突に抱き締めたナツからは、揶揄う素振りなど一切見えない。
抱擁はぎゅうっときつく、ガチガチに固まってしまった体は抵抗すら出来ないでいる。
「アイネ、俺……」
「な、ナツ、くん? どうしたの?」
気丈に構えたくとも、久しぶりに嗅ぐ甘いムスクの香りは余計に胸を騒がせるし、こんなにも強く抱きしめられるのは初めてだ。
(な、なにが起きてるの? いなくなってはじめて気付いた恋心からの暴走? 執着? 溺愛? そして結婚?! え、えー、どうしようそんないきなり困っちゃう!)
混乱しながらも告白の言葉を期待する藍音に視線を合わせ、屈み込むナツとの距離は口付けるように近い。
しかしうっとり見つめ返す藍音の頬を包む彼の口から出た言葉は、期待の斜め上を突き抜けた。
「アイネの精気、食いたい」
「なんて?」
あと数センチで触れ合うはずだったくちびるは藍音の手のひらにより制止される。
赤い目は不満そうに細められたけど、藍音の眉間にも皺が寄っている。
「どういうこと?」
「だから精気食いたいって」
さっきまでのあの雰囲気はなんだったのか。脱力とともに腹立たしさも押し寄せてくる。
頑なにキスを拒む藍音を不機嫌に眺めるナツは、屈んでいた背を渋々と戻した。
それでも抱きしめる腕は華奢な体を離さない。
「そうやって色んな女を沼らせて来たのね……。おっそろしい。その手には乗らないわよ!」
「どんな手だ。しかも色んな女ってなに? 俺は去る者追わずなんだよ。アイネは特別。なあ、俺に食わせて。すっげー腹減っててさ、もう俺を満たせるのアイネだけかも」
特別。アイネだけ。
勘違いしてはいけない。ナツが満たしたいのは食欲だ。
だけど単純過ぎる胸には、いとも容易くときめきが再発する。
もし藍音だけを求めてくれるのならナツの提案に乗っても良い。むしろ乗っかりたい。
ベンチまでの距離はそれほど離れていない。駆け寄るのも悔しく、落ち着かない心を宥めながら出来るだけゆっくり歩く。
どうやって声を掛けようか。そんなことを考えながらじっと見つめていると、近づく藍音に気付いたナツが横向いていた顔をこちらへ向けた。
一瞬驚いたかのような表情を浮かべ、すぐに逸らされた目は少しの気まずさを感じさせた。
隣に座るのも憚られて正面で歩みを止める。少し空いた距離は小さな抵抗。
だけど立ち上がったナツは簡単に隙間を埋めて、藍音の細い手を取る。
彼の手は藍音より温度が低い。振り解けない甘さに軽く自己嫌悪する藍音の耳に「ごめん」とナツからは聞いたことのない言葉が小さく届いた。
驚き見上げると鮮やかな赤い目は苦しそうに歪んでいる。
「俺……いつも失くしてから気付くんだ。アイネに会えなくなって本当に後悔した。あの時、何がなんでも引き止めるべきだった」
「えっ?! え、ええっ?!」
まさかのまさかである。会いたいと言うからにはほんの少しだけ期待していた部分もあった。だけどこのシチュエーションは期待以上、むしろ夢ではないかと今この瞬間を疑ってしまう。
しかし人生最大に目をまん丸に開く藍音を唐突に抱き締めたナツからは、揶揄う素振りなど一切見えない。
抱擁はぎゅうっときつく、ガチガチに固まってしまった体は抵抗すら出来ないでいる。
「アイネ、俺……」
「な、ナツ、くん? どうしたの?」
気丈に構えたくとも、久しぶりに嗅ぐ甘いムスクの香りは余計に胸を騒がせるし、こんなにも強く抱きしめられるのは初めてだ。
(な、なにが起きてるの? いなくなってはじめて気付いた恋心からの暴走? 執着? 溺愛? そして結婚?! え、えー、どうしようそんないきなり困っちゃう!)
混乱しながらも告白の言葉を期待する藍音に視線を合わせ、屈み込むナツとの距離は口付けるように近い。
しかしうっとり見つめ返す藍音の頬を包む彼の口から出た言葉は、期待の斜め上を突き抜けた。
「アイネの精気、食いたい」
「なんて?」
あと数センチで触れ合うはずだったくちびるは藍音の手のひらにより制止される。
赤い目は不満そうに細められたけど、藍音の眉間にも皺が寄っている。
「どういうこと?」
「だから精気食いたいって」
さっきまでのあの雰囲気はなんだったのか。脱力とともに腹立たしさも押し寄せてくる。
頑なにキスを拒む藍音を不機嫌に眺めるナツは、屈んでいた背を渋々と戻した。
それでも抱きしめる腕は華奢な体を離さない。
「そうやって色んな女を沼らせて来たのね……。おっそろしい。その手には乗らないわよ!」
「どんな手だ。しかも色んな女ってなに? 俺は去る者追わずなんだよ。アイネは特別。なあ、俺に食わせて。すっげー腹減っててさ、もう俺を満たせるのアイネだけかも」
特別。アイネだけ。
勘違いしてはいけない。ナツが満たしたいのは食欲だ。
だけど単純過ぎる胸には、いとも容易くときめきが再発する。
もし藍音だけを求めてくれるのならナツの提案に乗っても良い。むしろ乗っかりたい。
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