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12.悪魔な彼女はお友達
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「来てるなら教えてよぅ。お久しぶりだね。暗い顔してどうしたの? 悩んでるならミルカ聞くよ。アイネちゃんはお友達だもの」
正面に腰掛けたミルカは身を乗り出して覗き込んでくる。きゅるんと潤む瞳はあざといほど可愛らしい。
彼女の周りだけ、空気が淡いピンクに染まったような錯覚を覚える。
本来なら悪魔嫌いの幼馴染が珍しく骨抜きになっている事実を妙に納得した。
「うーん、悩みというか……」
ナツのことはまだ誰にも打ち明けたことはない。どことなく気まずい藍音は逸らした視線をもう一度ちらりとミルカに向けた。
彼女は淫魔で、ナツの同種族にあたる。同じ街に住み、どこか似た雰囲気を持つ二人はきっと接点があるはず。ミルカに聞けばナツの情報は容易に手に入る気がする。それは前々から思っていたことだ。
だけど第六感とでも言うべきか、彼女に話をすれば知りたくないことまで知ってしまいそうな……そんな気がしていた。
しかし今ここで偶然会ったということは何かしら意味があるのかもしれない。少し考えてから藍音は氷で薄まった赤いジュースを一口飲み込んだ。
「あのね……好きな人が出来たの」
「え! 聞きたい! 恋は良いよねぇ♡ 好きな人がいるだけで世界がキラキラして見えるもの♡ ねえねえ、どんな人なの?」
頬を紅潮させて喜ぶミルカの瞳はまさにキラキラ輝いている。随分と充実した日々を過ごしているようだ。
だけど日々のときめきはあるものの、今の藍音には全力で頷くことは出来なかった。
「んーとね。顔が良くて、声も良くて、背も高くて……」
「素敵! ソウマ様みたい」
ミルカは頬に手を当てて顔を緩める。
彼女が口に出したのは藍音の幼馴染の名前。ミルカの重い愛情は蒼真だけに向けられていて、基準は全て蒼真なのだ。
つい苦笑した藍音だが、話の続きをミルカは興味深そうに待っている。天使仲間には絶対に言い出せないけど、ナツと同じ淫魔であるミルカになら明け透けに話しても良いかもしれない。
「んー、蒼真とはタイプが違うかなぁ。あんまり物事に固執しない感じだし、優しい……のかどうかも微妙……かもしれない。あと、いつも違う女と過ごしてる……」
「意外! アイネちゃん、そういうタイプが好きなの?」
違う。断じて違う。なぜか毎回好きになる相手に難があるだけだ。乾いた笑いで誤魔化すと、フラッペを飲むミルカは首を傾げた。
「あのね……、それで……、あの……。ミルカちゃんならわかってくれると思うけど、好きな人って悪魔なの」
「えっ! 嘘ぉ! だれだれ? ミルカの知ってる人だったり? 名前……はわかんないか」
「えっと……、ナツくんて言って……」
「ナツぅ?!」
心底驚いたミルカの声が店内に響く。しかし集まったまばらな視線はすぐに散った。
思っていたとおり、やっぱり知り合いらしい。ぱちくりと人形のような大きな目をミルカは更に大きく見開いている。
「知り合い?」
「ナツは幼馴染よ。え、ていうか、アイネちゃん……ナツの名前どうして知ってるの? 悪魔は基本的に同族にしか教えないのに」
「どうしてって、教えてもらったから。ただの気まぐれだと思うけど」
彼の言う「特別」なんてきっと大した意味はない。
はーっと息をついた藍音の手を突然ミルカが両手で握りしめた。頬は紅潮し、瞳のキラキラは最高潮である。
正面に腰掛けたミルカは身を乗り出して覗き込んでくる。きゅるんと潤む瞳はあざといほど可愛らしい。
彼女の周りだけ、空気が淡いピンクに染まったような錯覚を覚える。
本来なら悪魔嫌いの幼馴染が珍しく骨抜きになっている事実を妙に納得した。
「うーん、悩みというか……」
ナツのことはまだ誰にも打ち明けたことはない。どことなく気まずい藍音は逸らした視線をもう一度ちらりとミルカに向けた。
彼女は淫魔で、ナツの同種族にあたる。同じ街に住み、どこか似た雰囲気を持つ二人はきっと接点があるはず。ミルカに聞けばナツの情報は容易に手に入る気がする。それは前々から思っていたことだ。
だけど第六感とでも言うべきか、彼女に話をすれば知りたくないことまで知ってしまいそうな……そんな気がしていた。
しかし今ここで偶然会ったということは何かしら意味があるのかもしれない。少し考えてから藍音は氷で薄まった赤いジュースを一口飲み込んだ。
「あのね……好きな人が出来たの」
「え! 聞きたい! 恋は良いよねぇ♡ 好きな人がいるだけで世界がキラキラして見えるもの♡ ねえねえ、どんな人なの?」
頬を紅潮させて喜ぶミルカの瞳はまさにキラキラ輝いている。随分と充実した日々を過ごしているようだ。
だけど日々のときめきはあるものの、今の藍音には全力で頷くことは出来なかった。
「んーとね。顔が良くて、声も良くて、背も高くて……」
「素敵! ソウマ様みたい」
ミルカは頬に手を当てて顔を緩める。
彼女が口に出したのは藍音の幼馴染の名前。ミルカの重い愛情は蒼真だけに向けられていて、基準は全て蒼真なのだ。
つい苦笑した藍音だが、話の続きをミルカは興味深そうに待っている。天使仲間には絶対に言い出せないけど、ナツと同じ淫魔であるミルカになら明け透けに話しても良いかもしれない。
「んー、蒼真とはタイプが違うかなぁ。あんまり物事に固執しない感じだし、優しい……のかどうかも微妙……かもしれない。あと、いつも違う女と過ごしてる……」
「意外! アイネちゃん、そういうタイプが好きなの?」
違う。断じて違う。なぜか毎回好きになる相手に難があるだけだ。乾いた笑いで誤魔化すと、フラッペを飲むミルカは首を傾げた。
「あのね……、それで……、あの……。ミルカちゃんならわかってくれると思うけど、好きな人って悪魔なの」
「えっ! 嘘ぉ! だれだれ? ミルカの知ってる人だったり? 名前……はわかんないか」
「えっと……、ナツくんて言って……」
「ナツぅ?!」
心底驚いたミルカの声が店内に響く。しかし集まったまばらな視線はすぐに散った。
思っていたとおり、やっぱり知り合いらしい。ぱちくりと人形のような大きな目をミルカは更に大きく見開いている。
「知り合い?」
「ナツは幼馴染よ。え、ていうか、アイネちゃん……ナツの名前どうして知ってるの? 悪魔は基本的に同族にしか教えないのに」
「どうしてって、教えてもらったから。ただの気まぐれだと思うけど」
彼の言う「特別」なんてきっと大した意味はない。
はーっと息をついた藍音の手を突然ミルカが両手で握りしめた。頬は紅潮し、瞳のキラキラは最高潮である。
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