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11.恋といちごとカクテル
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(あ、困ってる顔だ……)
可愛いなんてきっと彼にとってはただの社交辞令。そんなこと当たり前なのに、ぎゅっと締め付けられる胸が痛くて苦しい。
一夜の恋は癒しどころか、心にぽっかり穴を開けてしまった。聞かなくても返事はわかっている。
だけどベッドから降りようとした藍音の後ろから「いいよ」と了承の声がした。
思わず振り返るとナツは背を向けていて、表情を見ることは出来ない。
「想像以上に美味かったから特別。約束はしないけど、会いたかったら俺を見つけてみて」
「本当?!」
「お、おう……」
ナツの香水も、彼自身の匂いも確実に記憶している。それに上級天使である藍音は悪魔を察知する能力にも長けている。ナツが思う以上に簡単な条件だ。
隣へ戻り、飛びついた藍音はナツを強引に振り向かせる。あまりの勢いに彼は全身で引いているが、藍音は上機嫌で微笑み、感激のキスを降らせた。
***
藍音の予想通り、ナツを見つけるのはそれほど難しいことではなかった。会いたいがために仕事の効率も良くなって、生活に潤いも出来た。
ただ、こちらも予想通りと言えばそうだけど、ナツは藍音を恋愛対象として見てはくれない。
これでも一応忙しい身ということもあり、毎日会いに行けるわけではない。それに毎回会える保証もないし、隣にどこぞの女性がいる時は声なんか掛けられなかった。
淫魔の彼は気軽に食事感覚で異性を抱く。もちろん藍音の他にも相手がたくさんいるくらい、初めからよくわかっている。
今の関係を一言で表せばセフレ以外の何者でもなかった。せめて毎日確実に会えれば良いのに。
(でも毎日だとウザがられるかな……。いや、毎日は体が持たないでしょ……。それに食べ飽きたなんて言われたら、もう会ってもらえない気がする)
藍音の長所であり、短所でもある勢いが発揮できない。珍しく消極的な自分が信じられないし、無性に悲しかった。
いっそ隷属の魔法で縛ってしまいたい気もするが、それはさすがに自重している。
気づけばナツのことを考えては一喜一憂してばかり。情緒不安定な日々はもうかれこれ三ヶ月ほど継続中である。
そんな中。今日は急ぎの仕事もなく、いつもより早い時間から地上に降りた藍音はカフェで一人の時間を過ごしている。
ランチ時間を過ぎたせいか、人はまばらだ。二人掛けの席から眺める店内は落ち着いて見える。
果実のソーダをぐるぐるストローで回しながらも、考えるのはナツのこと。苺の果実がゴロゴロと入った赤い液体は初めて会った夜に飲んだ、あのカクテルによく似ている。
夜行性の彼とこんな時間に会えるとは思っていないけど、ナツが過ごす世界をなんとなく感じていたかった。
頬杖つく藍音は周りを観察するでもなく、ただぼんやりと過ごしている。
恋煩い。そんな言葉がふと過り、思わず自嘲的な笑みを漏らした。
あまりにも希望が薄い。厄介な男に惹かれるのは毎度のことだけど、今回は更に面倒な人を好きになってしまった。
溶ける氷を眺めていたその時、ふと感じた気配に顔を上げる。そうすると大きなピンクの瞳と視線が合い、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱりアイネちゃんだ!」
「ミルカちゃん……」
ツインテールで結んだ黒い髪、フリルのブラウスに黒の膝丈スカート。地雷系と言われるファッションに身を包んだ愛らしくも蠱惑的なミルカは、幼馴染の彼女で藍音の唯一の悪魔友達だった。
可愛いなんてきっと彼にとってはただの社交辞令。そんなこと当たり前なのに、ぎゅっと締め付けられる胸が痛くて苦しい。
一夜の恋は癒しどころか、心にぽっかり穴を開けてしまった。聞かなくても返事はわかっている。
だけどベッドから降りようとした藍音の後ろから「いいよ」と了承の声がした。
思わず振り返るとナツは背を向けていて、表情を見ることは出来ない。
「想像以上に美味かったから特別。約束はしないけど、会いたかったら俺を見つけてみて」
「本当?!」
「お、おう……」
ナツの香水も、彼自身の匂いも確実に記憶している。それに上級天使である藍音は悪魔を察知する能力にも長けている。ナツが思う以上に簡単な条件だ。
隣へ戻り、飛びついた藍音はナツを強引に振り向かせる。あまりの勢いに彼は全身で引いているが、藍音は上機嫌で微笑み、感激のキスを降らせた。
***
藍音の予想通り、ナツを見つけるのはそれほど難しいことではなかった。会いたいがために仕事の効率も良くなって、生活に潤いも出来た。
ただ、こちらも予想通りと言えばそうだけど、ナツは藍音を恋愛対象として見てはくれない。
これでも一応忙しい身ということもあり、毎日会いに行けるわけではない。それに毎回会える保証もないし、隣にどこぞの女性がいる時は声なんか掛けられなかった。
淫魔の彼は気軽に食事感覚で異性を抱く。もちろん藍音の他にも相手がたくさんいるくらい、初めからよくわかっている。
今の関係を一言で表せばセフレ以外の何者でもなかった。せめて毎日確実に会えれば良いのに。
(でも毎日だとウザがられるかな……。いや、毎日は体が持たないでしょ……。それに食べ飽きたなんて言われたら、もう会ってもらえない気がする)
藍音の長所であり、短所でもある勢いが発揮できない。珍しく消極的な自分が信じられないし、無性に悲しかった。
いっそ隷属の魔法で縛ってしまいたい気もするが、それはさすがに自重している。
気づけばナツのことを考えては一喜一憂してばかり。情緒不安定な日々はもうかれこれ三ヶ月ほど継続中である。
そんな中。今日は急ぎの仕事もなく、いつもより早い時間から地上に降りた藍音はカフェで一人の時間を過ごしている。
ランチ時間を過ぎたせいか、人はまばらだ。二人掛けの席から眺める店内は落ち着いて見える。
果実のソーダをぐるぐるストローで回しながらも、考えるのはナツのこと。苺の果実がゴロゴロと入った赤い液体は初めて会った夜に飲んだ、あのカクテルによく似ている。
夜行性の彼とこんな時間に会えるとは思っていないけど、ナツが過ごす世界をなんとなく感じていたかった。
頬杖つく藍音は周りを観察するでもなく、ただぼんやりと過ごしている。
恋煩い。そんな言葉がふと過り、思わず自嘲的な笑みを漏らした。
あまりにも希望が薄い。厄介な男に惹かれるのは毎度のことだけど、今回は更に面倒な人を好きになってしまった。
溶ける氷を眺めていたその時、ふと感じた気配に顔を上げる。そうすると大きなピンクの瞳と視線が合い、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱりアイネちゃんだ!」
「ミルカちゃん……」
ツインテールで結んだ黒い髪、フリルのブラウスに黒の膝丈スカート。地雷系と言われるファッションに身を包んだ愛らしくも蠱惑的なミルカは、幼馴染の彼女で藍音の唯一の悪魔友達だった。
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