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5.★淫魔な彼と
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口移しのチェリーのあと、何が起きたのか咄嗟に理解は出来なかった。それでもアルコールと甘い果実の風味はしっかりと口内に残っている。
現況がわからない。
藍音を置いて席を立ち、カウンターで支払いを終える彼を、ただ眺めることしか出来なかった。馴染みの店らしく笑顔でバーテンダーと話す姿は少し憎らしくもある。
(私には笑ってくれないくせに)
なんて拗ねた感情が湧き上がるのはきっと仕方がない。
じっと見ていると振り向いた彼に「何してんの」と手招きされたので、誘われるようふらふらと席を立った。
それから隣に寄った藍音は手を引かれるまま、ホテルの一室へと辿り着いた。
実は一夜の恋も、ラブホも初めての経験である。
まず始めに目についたのは存在感のあるベッド。室内は白を基調としたシンプルな空間で、つるっとした質感の床は控えめに光を反射している。
キョロキョロと物珍しく見渡していると、突然ふわりと腰を引き寄せられた。
思っていたより高かったアルコールは意識こそはっきりさせているものの、足元がおぼつかない。
ふらつく藍音をきわめて自然に抱き上げた彼は、癪なほど余裕を感じさせる手つきでベッドへ下ろした。
これでも長く生きている身なので、それなりの経験は積んでいる。なのに、やたらとドキドキうるさい鼓動は初めての時を思い出す。
店を出た時は確かに茶色に戻っていたのに、見下ろす瞳はいつの間にか赤く染まっていた。しかもさっきまでの不機嫌な顔から一転し、面白そうに細められている。
「よく考えたら天使の精気なんて貴重だもんな。腹減ってるし、どうせならじっくり味合わせてよ。好みじゃないけどあんた可愛いし」
好みじゃないは余計だと思う。地味に傷付いた藍音が抗議しようとすると、頬にかかる亜麻色の髪をそっと払われた。
その手があまりにも優しく、つい赤の瞳をぱちくりと眺めてしまった。
しかし彼は特に何も言わず、ちゅっと軽快なキスがひとつ落とされる。
反射的に閉じた瞼の向こう側で「へえ……」と何やら感心する声が聞こえ、間を置かずもう一度くちびるが重なった。
それからは貪られるような、長いキスをしていたように思う。始まりは軽いキスだったのに、くまなく口内を這う舌は驚くほど深くまで侵入して、ついじたじたと暴れてしまったほどだ。
執拗に舐めては舌を絡ませ、くちびるを噛んでは強く緩く吸い付く。しかも背中に回された器用な手はワンピースのファスナーを難なく下ろして、あっという間に脱がされてしまった。
フロントホックも簡単にぱちりと外され、いつの間にかショーツ一枚で組み敷かれている。
あまりにも自然過ぎて手際の良さにさえ気付かなかったほどだ。
ちなみにシャツを脱ぎ捨てた彼の引き締まった体も、藍音を更に高揚させた。
青年は時折り歯を立てながら丁寧に肌を舐めとる。じっくり味わうような愛撫は本当に食べられているようだ。獲物になったような感覚が藍音の劣情を余計に煽る。
「こんなに美味い精気、初めて食った。アイネ……だっけ。あんたの言う通り、病みつきになるかも」
アイネ。彼が口に出したのは紛れもなく自分の名前だった。驚きの声を上げる前に、長い舌が胸の膨らみに沿ってゆっくり舐め上げていく。
舌舐めずりする赤い舌も、長く綺麗な指も、信じられないくらい優しく体を這い回る。
扇情的な光景を直視できない。ふとずらした視線の先、頭の上に丸く捻れたツノを認識した。藍音は思わず二度見してしまう。
あまりにも衝撃的で、咄嗟に彼の頬を両手で包み込んだ。突然制止された青年は面白くなさそうに眉をしかめ、「何?」とだけ口にする。
現況がわからない。
藍音を置いて席を立ち、カウンターで支払いを終える彼を、ただ眺めることしか出来なかった。馴染みの店らしく笑顔でバーテンダーと話す姿は少し憎らしくもある。
(私には笑ってくれないくせに)
なんて拗ねた感情が湧き上がるのはきっと仕方がない。
じっと見ていると振り向いた彼に「何してんの」と手招きされたので、誘われるようふらふらと席を立った。
それから隣に寄った藍音は手を引かれるまま、ホテルの一室へと辿り着いた。
実は一夜の恋も、ラブホも初めての経験である。
まず始めに目についたのは存在感のあるベッド。室内は白を基調としたシンプルな空間で、つるっとした質感の床は控えめに光を反射している。
キョロキョロと物珍しく見渡していると、突然ふわりと腰を引き寄せられた。
思っていたより高かったアルコールは意識こそはっきりさせているものの、足元がおぼつかない。
ふらつく藍音をきわめて自然に抱き上げた彼は、癪なほど余裕を感じさせる手つきでベッドへ下ろした。
これでも長く生きている身なので、それなりの経験は積んでいる。なのに、やたらとドキドキうるさい鼓動は初めての時を思い出す。
店を出た時は確かに茶色に戻っていたのに、見下ろす瞳はいつの間にか赤く染まっていた。しかもさっきまでの不機嫌な顔から一転し、面白そうに細められている。
「よく考えたら天使の精気なんて貴重だもんな。腹減ってるし、どうせならじっくり味合わせてよ。好みじゃないけどあんた可愛いし」
好みじゃないは余計だと思う。地味に傷付いた藍音が抗議しようとすると、頬にかかる亜麻色の髪をそっと払われた。
その手があまりにも優しく、つい赤の瞳をぱちくりと眺めてしまった。
しかし彼は特に何も言わず、ちゅっと軽快なキスがひとつ落とされる。
反射的に閉じた瞼の向こう側で「へえ……」と何やら感心する声が聞こえ、間を置かずもう一度くちびるが重なった。
それからは貪られるような、長いキスをしていたように思う。始まりは軽いキスだったのに、くまなく口内を這う舌は驚くほど深くまで侵入して、ついじたじたと暴れてしまったほどだ。
執拗に舐めては舌を絡ませ、くちびるを噛んでは強く緩く吸い付く。しかも背中に回された器用な手はワンピースのファスナーを難なく下ろして、あっという間に脱がされてしまった。
フロントホックも簡単にぱちりと外され、いつの間にかショーツ一枚で組み敷かれている。
あまりにも自然過ぎて手際の良さにさえ気付かなかったほどだ。
ちなみにシャツを脱ぎ捨てた彼の引き締まった体も、藍音を更に高揚させた。
青年は時折り歯を立てながら丁寧に肌を舐めとる。じっくり味わうような愛撫は本当に食べられているようだ。獲物になったような感覚が藍音の劣情を余計に煽る。
「こんなに美味い精気、初めて食った。アイネ……だっけ。あんたの言う通り、病みつきになるかも」
アイネ。彼が口に出したのは紛れもなく自分の名前だった。驚きの声を上げる前に、長い舌が胸の膨らみに沿ってゆっくり舐め上げていく。
舌舐めずりする赤い舌も、長く綺麗な指も、信じられないくらい優しく体を這い回る。
扇情的な光景を直視できない。ふとずらした視線の先、頭の上に丸く捻れたツノを認識した。藍音は思わず二度見してしまう。
あまりにも衝撃的で、咄嗟に彼の頬を両手で包み込んだ。突然制止された青年は面白くなさそうに眉をしかめ、「何?」とだけ口にする。
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