【R18】恋する天使は悪魔な彼を捕まえたい

ドゴイエちまき

文字の大きさ
上 下
2 / 25

2.つれない悪魔

しおりを挟む
 反射的に手を引っ込め、店内から出てきた青年を見上げれば少し驚いた目をする彼と視線が合った。
 藍音より少し歳下だろうか。 

長めの前髪から覗く垂れ目がちな焦げ茶の瞳。シャツから覗く色気のある首筋。全体的に黒でまとめたシンプルなコーデ。妖艶に整った容姿と、漂う不誠実さ。
 
 どこからどう見てもこれはダメだと本能が警告する。
 しかし感情はまた別の話だ。
 
(え、めっちゃタイプなんだけど! なにこれ運命の出会いすぎない?!)

 そう、絶対に惚れてはいけない類の男に惹かれるのは藍音の悪い癖だった。
 さらりと流れた髪の隙間から見える、左目下のホクロだって大好物だ。
 
 藍音ちゃん大勝利! 一軒目から優勝! と心の中で叫んだ彼女だが、目の前の青年からは「最悪……」と小さな呟きが聞こえた。

「ん?」
「いや、なんでも。失礼」

 視線を逸らした彼からオリエンタル調の官能的なムスクがふわりと漂う。だけどその香りのもっと奥、漂う違和感に藍音はすんと鼻を動かした。
 獲物を引き付けるような甘く危険な香り。
 独特なこの匂いは藍音でなくとも天使ならば誰でも知っている。
 
 颯爽と横を通り過ぎようとした彼の腕をすかさず掴む。体を硬らせた男は振り解こうとするが、藍音も渾身の力でしがみついて離さない。

「淫魔のお兄さん、ちょっと私に付き合ってくれない?」
 
 淫魔、つまり彼は悪魔である。
 にっこり微笑む藍音とは対照的に、青年は心底嫌な顔をした。
 
「無理。他当たってくれる? 俺忙しいんで」
「あは、残念でした♡ 上級天使の私から逃げられるとでも思う? ほら、とりあえず飲もう!」

 なんて好都合。
 今日は非番で来ているし、見かけた悪魔を片っ端から捕らえるわけでもない。度の過ぎた要注意人物はもちろん別だけど、藍音たちの仕事はあくまでも地上の均衡を保つためにある。

 天使らしからぬ表情でにやりと笑った藍音は彼の胸に両手をつき、落ち着いた店の中へと押し戻した。



 ***


 
 
「でね、酷いのよぉ。私だってか弱い乙女なのよ。なんで誰もわかってくれないのかしら」
 
 めそめそしおらしく瞳を潤ませる藍音の手には、透明の液体と大きな氷が注がれたグラスが握られている。
 一杯目から全力で飲み始めた藍音を青年は呆れた顔で眺めていた。
 
 ちなみに彼の手にあるのはチェリーが浮かんだ赤いカクテル。グラスを持つ長くて綺麗な指も藍音の胸を変にドキドキさせて、さっきから何度も盗み見ていたりする。
 
「そりゃまあ、そんなに強い酒をロックでガバガバ行くからじゃね?」
「酷いこと言うのね。お酒に罪はないわ」
  
「当たり前。あんたの飲み方を言ってんの。同じ強い酒でもさぁ、色々あんじゃん?」
「私はこれが好きなの」
「あっそ、別に俺はどうでもいいけど」
 
 言葉の通り、心底興味のない顔で彼は自分のグラスを傾ける。
 店に入ってもう一時間は経過しているのに、目の前の青年は名を教えてくれない。藍音の名前も呼んでくれない。
 
 拗ねた気持ちで眺める藍音の目に映る彼は憎いほどに色香を醸し出している。
 長い前髪も耳に光るピアスも、左の泣きぼくろも。何もかもが彼の色気を冗長するようだ。
 
 揺れる赤い液体がくちびるに触れて、こくりと喉が上下する。たったそれだけのことがやたらと卑猥に感じるのは欲求不満のせいだろうか。
 じっと見つめる藍音に気付いた彼は面倒だとばかりに目を細くした。
 
「何? 物欲しそうな顔されても俺、天使とは寝ないから」
 
 衝撃的な一言に思わず目が点になってしまった。ぱちくりと瞬いた藍音は突然に狼狽出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...