3 / 6
縋る人
しおりを挟むヴィンセントとクロードは無言でベッドへと向かうと、ふたりで広いベッドの上に乗り上げた。
落ち着かない様子のクロードは、ベッドの上でも目線を泳がせている。
そんなクロードの手を取り、ヴィンセントは優しく問いかけた。
「横になれますか?」
「……僕がですか?」
クロードは目を丸くして、不安そうに尋ね返してきた。なにか勘違いしているらしい。
ヴィンセントは苦笑しつつ、クロードの疑問に答える。
「俺がリードするだけです。あなたをとって食うような真似はしません」
「騎乗位でするということですか?」
「まあ、そうですね……」
ちゃんとそういう単語は記憶に残っているのだな、とヴィンセントは少し感心してしまった。
それはそれとして、実はヴィンセントには騎乗位の経験がなかった。以前のクロードとの閨事ときは正常位が後背位のどちらかで、ヴィンセントがクロードの上に乗ったこともなければ、リードしたことも一度もない。
まあ、なんとかなるだろう──そんな軽い気持ちで、ヴィンセントは事を進めようとしていた。
とにかく、クロードのものを勃たせて、自分で中を解して、挿れればいいのだ。
おそらくクロードがなにもしなくても、ヴィンセントが頑張ればどうとでもなるだろう。
「目を閉じていても構いません。なるべく早く終わらせます」
「……目を閉じるなんて、そんなことはしません」
「ですが、俺の体は傷痕が多いので、あまり見ていて気分の良いものではないかと」
いかにも心外だと言いたげな顔をするクロードにそう言いながら、ヴィンセントは自身の寝衣の結び目を解いた。
すると、寝衣の前が自然と開き、首筋から臍の下まで、ヴィンセントの素肌が無防備に晒される。
下着は履いたままなのでさほど羞恥心はないが、それを見せられたクロードは途端に顔を真っ赤にして口をはくはくとさせた。
「そっ、そんな突然っ……!」
「失礼しました。体の傷に関しては、見ていただいた方が早いかと思いまして」
「傷がどうとかっ、そんな問題じゃないですっ!」
「そ、そうですか……」
確かに、傷のことは以前のクロードもあまり気にしていなかった。いや、あれは気にしていたといえば気にしていたのだろうか──
「あの……」
ヴィンセントが以前のクロードのことを思い出していたところで、赤面したままのクロードから控えめな声がかけられる。
「はい、なんでしょうか?」
「父上から、ヴィンセントさんは僕の命の恩人だと聞きました。盗賊から襲われていたところを助けていただいたと」
「…………まあ、そうですね」
歯切れの悪い返答になったのは、あのとき、最後の最後でヴィンセントは背中を切りつけられて気を失ってしまったからだ。
その直後、助けを呼びに行っていたクロードの従者のひとりが応援を引き連れて戻って来たのでなんとかなったが、それがなければヴィンセントどころか、クロードの命もなかったのかもしれない。
実際のところ、ヴィンセントよりも従者の彼のほうがよっぽどクロードの命の恩人なのではないかとヴィンセントは思うこともあるが、クロードたちの中ではそうではないらしい。
たまたま通りかかっただけの見ず知らずの男が命懸けで助けてくれたから……ということもきっと大きいのだろう。
あれがきっかけで、ヴィンセントはクロードの妻になった。
不相応ではあるが、クロードを愛していることを自覚したいまとなっては、まるで運命のようにも思える。きっと、いまのクロードのも、以前のクロードも、そんな風には思わないだろうが。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
8年間未来人石原くん。
七部(ななべ)
青春
しがない中学2年生の石原 謙太郎(いしはら けんたろう)に、一通の手紙が机の上に届く。
「苗村と付き合ってくれ!頼む、今しかないんだ!」
と。8年後の未来の、22歳の自分が、今の、14歳の自分宛に。苗村 鈴(なえむら すず)
これは、石原の8年間の恋愛のキャンバスのごく一部分の物語。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる