10 / 16
閨の練習相手7
しおりを挟む
(やっぱりだめ!)
ぐっと覚悟を決めてレオンの胸を押して体を離す。
筋肉質で重いはずの体は驚くほど簡単にアリスの上からどいた。
「あ……」
力を入れすぎたのだろうか。心底拒否をしているなんて思われなかったといい――でも、こんなの一方的過ぎるだろう。セクハラどころの話ではない。
(……ゲームだけど)
やはりこれはエロゲーなのだろう。恋愛シミュレーションゲームを全クリしたそのご褒美。
(……やっぱり楽しんじゃえばよかったかも)
けれどもうあとの祭りだ。
ベッドの上に放り出されたバスローブを羽織る。
「うん、お疲れ様。とても勉強になりました」
場の空気を変えるような、王子の声。気を遣わせた。王子なのに。
(……マジでここのルイ優しいんだけど)
なんだか違うゲームをしている気分。いや、あまりにもリアルすぎてゲームをしている感覚はないけれど。
王子が席を立つ気配があった。これ以上は何もないと判断し、部屋に帰るのだろう。
しかし足音はアリスのすぐ近くで止まった。
「風邪、ひかないでね。また明日」
「……は?」
また明日。
(え、明日もするの……?)
ぽかんとしていると、アリスの隣を通ってレオンがベッドから下りた。
「今夜はもう部屋に戻っていい。いびきでもかいて寝ろ」
「……はああ?」
言い方にカチンとくる。
しかしレオンはもう、王子を守るように背後について廊下に繋がるドアをくぐっていた。
(……マジ意味わかんない)
いや、ゲーム自体は面白そうだ。しかしあまりにもキャラクターの性格が違いすぎる。
(王子はマジ王子。なのにレオンがなぁ……)
けれど、今の行為は強引なようでいてとても優しかったように思う。経験がないので誰と比べることもできないけれど、常にこちらの様子を窺い、ペースを合わせてくれていたような気がする。
(……いいやつなのか嫌なやつなのかわかんない)
まあいい。所詮ゲームだ。
身支度を整えて与えられた個室に戻る。
しかしシャワーを浴びても、胸にはもやが残ったままだった。
* * *
(うーん……おいしい)
どうして食事がこんなにおいしいのだろう。
今日の朝食は、焼き立てパンに目玉焼き、フルーツ入りのヨーグルトにミネストローネ。これらが本当の中世に存在したかはわからないけれど、そういえば風呂には現代日本と同じシャワーがあった。これは中世には確実になかったもののはずだ。
(やっぱり中身は現代風になってる……)
おそらく、プレイヤーが生活をするのに不便はないようになっているということだろう。
(じゃあ車とか飛行機とかもあるのかな)
いや、いくらなんでもそれはないか。雰囲気をぶち壊しすぎる。
ふかふかのパンをちぎって口に含んだとき、背後から声をかけられた。
「また食ってるのか」
振り返らずとも相手はわかった。
「うるさい、レオン」
通常シナリオでは顔も性格もイケメンだったのに。変更して発売したゲーム会社の判断は正しい。
「見せられる腹にしておけよ」
「はぁあああ?」
スプーンを持ったまま立ち上がり、冷めた目をしたレオンを見下ろす。
「見せられますぅー! 自信満々ですぅー! そっちこそ私のナイスバディに見惚れないでよ!」
「ナイスバディ……ね」
ふっと鼻で笑う音。頭のてっぺんまで怒りに染まる。
(昨夜は優しいと思ったのに!)
あまりの不遜さに声が空回って出なかった。
どすんと音を立てて椅子に戻り、途中だった食事を再開する。
何か言ってくるかと思ったのに、背後は静かなままだった。
* * *
(もー! ほんっといらいらする!)
たしかに昨夜は、食べすぎて胃が膨らんでいた。ナイトランジェリーの着方だってよくわかっていなかった。未経験故に戸惑うばかりで、男を悦ばせるような態度だって取っていない。
(だからって!!)
怒りをどこかにぶつけたかった。しかし、尋ねられる場所として浮かぶのは一か所しかなかった。
「失礼します!」
「ああ、こんにちは」
医師のロイドは、今日も白衣姿で書物を読んでいた。眼鏡の奥の瞳が優しい。
(……え、ロイド狙う? ありじゃない?)
通常シナリオにはいなかったキャラクターだが――そもそも、ここは攻略対象が限定されているのだろうか。
(誰でもいい、とか……?)
普通のゲームであれば、登場人物はほぼみんな攻略対象だ。攻略対象でない人は会話ができなかったり、そもそも名前が出てこなかったりする。
しかしここでは誰とでも、たとえば食堂ですれ違っただけの人でも会話をすることができるので、名前を尋ねることだってできるだろう。
(……え、じゃあ本当に誰でもありってことだよね……?)
それなら、ロイドを攻略すればまずは一人目クリアになるのではないだろうか。
ぐっと覚悟を決めてレオンの胸を押して体を離す。
筋肉質で重いはずの体は驚くほど簡単にアリスの上からどいた。
「あ……」
力を入れすぎたのだろうか。心底拒否をしているなんて思われなかったといい――でも、こんなの一方的過ぎるだろう。セクハラどころの話ではない。
(……ゲームだけど)
やはりこれはエロゲーなのだろう。恋愛シミュレーションゲームを全クリしたそのご褒美。
(……やっぱり楽しんじゃえばよかったかも)
けれどもうあとの祭りだ。
ベッドの上に放り出されたバスローブを羽織る。
「うん、お疲れ様。とても勉強になりました」
場の空気を変えるような、王子の声。気を遣わせた。王子なのに。
(……マジでここのルイ優しいんだけど)
なんだか違うゲームをしている気分。いや、あまりにもリアルすぎてゲームをしている感覚はないけれど。
王子が席を立つ気配があった。これ以上は何もないと判断し、部屋に帰るのだろう。
しかし足音はアリスのすぐ近くで止まった。
「風邪、ひかないでね。また明日」
「……は?」
また明日。
(え、明日もするの……?)
ぽかんとしていると、アリスの隣を通ってレオンがベッドから下りた。
「今夜はもう部屋に戻っていい。いびきでもかいて寝ろ」
「……はああ?」
言い方にカチンとくる。
しかしレオンはもう、王子を守るように背後について廊下に繋がるドアをくぐっていた。
(……マジ意味わかんない)
いや、ゲーム自体は面白そうだ。しかしあまりにもキャラクターの性格が違いすぎる。
(王子はマジ王子。なのにレオンがなぁ……)
けれど、今の行為は強引なようでいてとても優しかったように思う。経験がないので誰と比べることもできないけれど、常にこちらの様子を窺い、ペースを合わせてくれていたような気がする。
(……いいやつなのか嫌なやつなのかわかんない)
まあいい。所詮ゲームだ。
身支度を整えて与えられた個室に戻る。
しかしシャワーを浴びても、胸にはもやが残ったままだった。
* * *
(うーん……おいしい)
どうして食事がこんなにおいしいのだろう。
今日の朝食は、焼き立てパンに目玉焼き、フルーツ入りのヨーグルトにミネストローネ。これらが本当の中世に存在したかはわからないけれど、そういえば風呂には現代日本と同じシャワーがあった。これは中世には確実になかったもののはずだ。
(やっぱり中身は現代風になってる……)
おそらく、プレイヤーが生活をするのに不便はないようになっているということだろう。
(じゃあ車とか飛行機とかもあるのかな)
いや、いくらなんでもそれはないか。雰囲気をぶち壊しすぎる。
ふかふかのパンをちぎって口に含んだとき、背後から声をかけられた。
「また食ってるのか」
振り返らずとも相手はわかった。
「うるさい、レオン」
通常シナリオでは顔も性格もイケメンだったのに。変更して発売したゲーム会社の判断は正しい。
「見せられる腹にしておけよ」
「はぁあああ?」
スプーンを持ったまま立ち上がり、冷めた目をしたレオンを見下ろす。
「見せられますぅー! 自信満々ですぅー! そっちこそ私のナイスバディに見惚れないでよ!」
「ナイスバディ……ね」
ふっと鼻で笑う音。頭のてっぺんまで怒りに染まる。
(昨夜は優しいと思ったのに!)
あまりの不遜さに声が空回って出なかった。
どすんと音を立てて椅子に戻り、途中だった食事を再開する。
何か言ってくるかと思ったのに、背後は静かなままだった。
* * *
(もー! ほんっといらいらする!)
たしかに昨夜は、食べすぎて胃が膨らんでいた。ナイトランジェリーの着方だってよくわかっていなかった。未経験故に戸惑うばかりで、男を悦ばせるような態度だって取っていない。
(だからって!!)
怒りをどこかにぶつけたかった。しかし、尋ねられる場所として浮かぶのは一か所しかなかった。
「失礼します!」
「ああ、こんにちは」
医師のロイドは、今日も白衣姿で書物を読んでいた。眼鏡の奥の瞳が優しい。
(……え、ロイド狙う? ありじゃない?)
通常シナリオにはいなかったキャラクターだが――そもそも、ここは攻略対象が限定されているのだろうか。
(誰でもいい、とか……?)
普通のゲームであれば、登場人物はほぼみんな攻略対象だ。攻略対象でない人は会話ができなかったり、そもそも名前が出てこなかったりする。
しかしここでは誰とでも、たとえば食堂ですれ違っただけの人でも会話をすることができるので、名前を尋ねることだってできるだろう。
(……え、じゃあ本当に誰でもありってことだよね……?)
それなら、ロイドを攻略すればまずは一人目クリアになるのではないだろうか。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?
キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。
戸籍上の妻と仕事上の妻。
私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。
見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。
一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。
だけどある時ふと思ってしまったのだ。
妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣)
モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。
アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。
あとは自己責任でどうぞ♡
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる