上 下
6 / 16

閨の練習相手3

しおりを挟む
「お前の部屋はここだ」
「お前じゃなくてアリスです」

 しかし、公式設定ならどろ甘のはずのレオンは冷めた目でアリスを一瞥するだけで、返事もせずにすたすたと部屋に入ってしまう。

 城のなかの、王子の部屋に近い西側の個室。執務があるというルイは医務室から自室に戻り、アリスの案内は今日からアリスの世話役だというレオン一人だった。

「服はそこだ。適当に着ろ。部屋にあるものは好きに使ってかまわない。トイレと風呂はそこのドア。食堂は一階廊下の突き当たり。朝は八時、昼は十二時、夜は十八時。時間外でも腹が減ったら行っていい。常に誰かがいるし、腹が減ったと言えば適当に出してくれる」
 無駄のない説明。
「何か質問は」
「あの、閨の練習台って……」
「言葉のとおりだ。今夜から行う。二十時に迎えに来るから、それまでにシャワーを浴びておけ。そのとき着るのは一番右の引き出しにある」

 石壁に背中を接するように置かれた木製の衣装棚。言われたところを開けると、セクシーなナイトランジェリー。紐をつまむとぴろんと広がるスケスケの布。向こう側が見える。

「や、無理ですよ!」

 ゲームの世界だと頭ではわかっているけれど、ルイもレオンもまるで本物の人間みたいだ。それに、ゲームの開発者がもしプレイ状況を確認していたら――とそこまで考えて、開発者にはどのように見えているのだろうと気になった。当然自分の言動はプログラムされたものではなく、勝手気儘に出ているものだ。ルイやレオンの発言がAIの判断によるものだとしても、アリスの発言も含めてこれまでのやり取りはすべてログに残されているのだろうか。

(いや、それより……)

 言葉は記録されるかもしれないけれど、自分の外見はどうなるのか。たとえば今この場で裸になったとして、その見た目は開発者にも見られるのか。

(……って、そんなことあるわけないか)

 ゲームの世界に入り込んでいるのは意識だけなのだ。第三者に身体が見えるわけがない。

(……ってことは、やっぱり楽しんだもん勝ち?)

 エロゲーをプレイしたことはある。それはそれでとてもよかった。ただ、興奮した身体を慰めるのが自分だという点がどうしても寂しく、結局、恋人になるまでと恋人になった直後の甘々タイムを謳歌できる恋愛ゲームに舞い戻った。

「どうした、百面相」
「……別に、なんでもないです」

 アリスが首を振ると、レオンはいぶかしげに眉を動かした。しかし聞いてもしかたがないと思ったのか、ゆるく首を振ると「またあとで」と言って部屋を出ていった。






 この世界にいるのは自分の意識だけのはず。
 それなのに、なぜお腹が空くのだろう。感覚は現実そのものでエロゲーをプレイできると開き直ったからだろうか。
 正面の席に座ったモブの使用人が、パンをちぎりながらアリスを見て笑う。

「よく食べるね」
「だってこれすっごくおいしいです!」

 庶民には何畳ほどか推測もできないほど広い食堂。三列に並んだ長い木のテーブルでは、使用人が交代で座っては食事を取り、食べ終えたら去っていく、ということを繰り返していた。
 食べ終えた銀食器を下げようとしていた年配の女性が、アリスを見て目を丸くした。

「あれ、お前さんまだいたのかい」
「おいしくて……ついおかわりを」

 誰にも、どうして明らかに東洋人な自分がここにいるのか、仕事はどこの担当なのかを訊かれない。

(まぁ訊かれても困るし、そういう設定になってるってことだよね)

 さすがに王子のセックスの練習相手として認識されているということはないだろう。ないと思いたい。

「食い過ぎると体型が崩れる」
「っ!」

 背後から聞こえた不遜な注意。振り返ると、レオンがこちらに背中を向けて座っていた。
 ふん、と鼻をならして正面に身体を戻す。

「別にいいじゃない」

 どうせ、いくら食べても体型には影響しない。だって意識だけだから。言ってしまえば、自分の意識次第で体型だって変えられるはずだ。だってここは意識の中の世界。その気になれば胸囲は十センチアップ、ウエストは5センチダウン。ヒップは……まぁそのままでいい。
 皿に残ったさつまいもを食べる。ちゃんと甘い。そういえば、さっき食べたにんじんにはわずかながら臭みがあった。

(これも記憶しているとおりの味とかイメージしてる味ってことかなぁ……)

 実際にはゲームのなかに入っているというより、脳内にゲーム空間が作られているという方が正しいだろう。そう考えると食べ物の味だろうとなんだろうと、自分が経験したことのあるものにしか感じられないはずだ。

(食べ物も自分が知ってるものだし……)

 今食べているのはまさに日本のシチューの味だ。しかしゲームの設定は西洋。現実の西洋で日本人にあわせた味のシチューが出てくるはずがない。
 やはりゲームだ。それなら何をしようと誰に迷惑をかけるわけでもないのだから、思いっきり楽しんだ方がいい。

「おい」
「……なによ」

 残念なレオン。ゲームでは最高に優しかったのに。

「あと一時間で始まるからな。風呂に入るのを忘れるな」
「わかってるわよ」

 長風呂は好きではない。身体だけきちんと洗えばシャワーだけでいい。

「それならいい」

 レオンは端的に返すと食器を持って席を立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...