4 / 16
ゲームの中の世界①閨の練習相手
しおりを挟む
頭が痛い。めまいがする。軽い吐き気もある。
(飲みすぎた……?)
寝落ちしたのか――アリスはシーツに手をすべらせ、目を閉じたまま携帯を探った。しかし、なんだか布団や枕の感触が違う。
頭痛に耐えながら目を開ける。
狭いアパートの天井が見えるはずだった。しかし、見たこともない場所だった。
(なに、ここ……どこ……?)
額に手をのせて頭痛に耐える。上体を起こすと、西洋映画に出てきそうな石造りの広い部屋だった。書棚の前にいる男がこちらに背を向けて座っている。
じっと見ていると、気配に気付いたのか男がアリスを振り返った。
「目が覚めましたか。気分はいかがですか」
フレームレスメガネの奥にブルーの瞳。ひとくくりにされた金の長髪。白衣を着ているので、医者かもしれない。
「あの……ここ」
声を出すと頭が鋭く痛んだ。思わず顔をしかめる。
「ああ、まだ横になっていてください。頭痛がするんでしょう」
「ここは……?」
「説明はあとでします」
男はアリスに寝ているように言うと、かつかつと靴音を響かせて部屋を出ていった。
(動けそうにないし……)
頭に響かぬよう、慎重に背中をベッドに戻す。目を閉じていたい。が、気になって周囲を見てしまう。
頭を動かさずに見える範囲に、場所を示すようなものはなかった。わかるのは自分が部屋の中央に置かれたベッドに寝ていたらしいことや、点滴の類いをつけられていないことくらい。
(……そういえば、医療器具もない……)
病院ではないのだろうか。
目が覚める前のことを思い出そうと試みる。
(家に帰って……パソコンをつけて……)
そうだ、乙女ゲームをしようと思ったのだ。いや、それはクリアしてしまって、ムービーを見て……。
徐々に思考力が戻ってきた。特別シナリオをプレイしようとしたところで、めまいがしたのだと思い出す。
(それで倒れた……?)
しかしどうしてアパートにいないのか。あれはやはりウイルスに侵されていて、何者かがパソコンに侵入、パソコンのカメラを利用して室内を覗き、女の一人暮らしと知って誘拐したのだろうか。
白衣の男に敵意は感じなかったけれど、もし誘拐されたのなら逃げないとまずい。
身体を起こそうとしたとき、ドアが開いた。木製の重そうなそれがキィィと不気味な音を出す。
「戻りました。頭痛はいかがですか」
白衣の男だった。そういえば、頭痛もめまいも吐き気も楽になってきている。
男に続いて、銀のミディアムヘアの男が入ってきた。透き通るような白い肌にグリーンの瞳。どこかで見たような気がする甘い顔立ち。
その後ろに、今度は赤みを帯びた黒の短髪の男が続いていた。こちらは健康的に焼けていて、体躯がいい。身長も他の二人より十センチは高いだろうか。鋭い目つきは怖いけれど、意思の強さを思わせる。
(……なんか見覚えが……)
けれど外国人に知り合いはいない。映画で見たのだろうか。三人とも顔がいいので、モデルや俳優なのか。
「気分はどう?」
銀髪の男がベッド横の椅子に腰かけた。端正な顔がアリスを見下ろす。
(……え)
見覚えがあったのは、恋愛ゲームのキャラクターに似ていたからだった。アニメの絵と実在の人物という違いがあるにしても、そっくりだった。
しかし、目付きだけは違っている。ゲームのなかではきつい印象があったが、今目の前にいる人は慈愛に満ちたとろけるような瞳をしてる。
「はじめまして。ルイといいます」
「ルイ……」
ゲームの腹黒王子と同じ名前。しかしそれはファーストネームで、成就しないと決して教えてはもらえない呼び方だった。
(ってことは、ここはあのゲームの世界……?)
たしか、特別シナリオと書かれていた。没になった設定もあると――王子のキャラの違いが設定変更だったのだろうか。
(特殊技術でVRを越えたリアルゲーム……ってことかな……)
そうだ。だから一般公開はせずに招待制を取っているのだろう。仕組みはよくわからないしこんなことができるなんて聞いたことがないけれど、最新技術と言われればできそうな気もする。
「大丈夫?」
(飲みすぎた……?)
寝落ちしたのか――アリスはシーツに手をすべらせ、目を閉じたまま携帯を探った。しかし、なんだか布団や枕の感触が違う。
頭痛に耐えながら目を開ける。
狭いアパートの天井が見えるはずだった。しかし、見たこともない場所だった。
(なに、ここ……どこ……?)
額に手をのせて頭痛に耐える。上体を起こすと、西洋映画に出てきそうな石造りの広い部屋だった。書棚の前にいる男がこちらに背を向けて座っている。
じっと見ていると、気配に気付いたのか男がアリスを振り返った。
「目が覚めましたか。気分はいかがですか」
フレームレスメガネの奥にブルーの瞳。ひとくくりにされた金の長髪。白衣を着ているので、医者かもしれない。
「あの……ここ」
声を出すと頭が鋭く痛んだ。思わず顔をしかめる。
「ああ、まだ横になっていてください。頭痛がするんでしょう」
「ここは……?」
「説明はあとでします」
男はアリスに寝ているように言うと、かつかつと靴音を響かせて部屋を出ていった。
(動けそうにないし……)
頭に響かぬよう、慎重に背中をベッドに戻す。目を閉じていたい。が、気になって周囲を見てしまう。
頭を動かさずに見える範囲に、場所を示すようなものはなかった。わかるのは自分が部屋の中央に置かれたベッドに寝ていたらしいことや、点滴の類いをつけられていないことくらい。
(……そういえば、医療器具もない……)
病院ではないのだろうか。
目が覚める前のことを思い出そうと試みる。
(家に帰って……パソコンをつけて……)
そうだ、乙女ゲームをしようと思ったのだ。いや、それはクリアしてしまって、ムービーを見て……。
徐々に思考力が戻ってきた。特別シナリオをプレイしようとしたところで、めまいがしたのだと思い出す。
(それで倒れた……?)
しかしどうしてアパートにいないのか。あれはやはりウイルスに侵されていて、何者かがパソコンに侵入、パソコンのカメラを利用して室内を覗き、女の一人暮らしと知って誘拐したのだろうか。
白衣の男に敵意は感じなかったけれど、もし誘拐されたのなら逃げないとまずい。
身体を起こそうとしたとき、ドアが開いた。木製の重そうなそれがキィィと不気味な音を出す。
「戻りました。頭痛はいかがですか」
白衣の男だった。そういえば、頭痛もめまいも吐き気も楽になってきている。
男に続いて、銀のミディアムヘアの男が入ってきた。透き通るような白い肌にグリーンの瞳。どこかで見たような気がする甘い顔立ち。
その後ろに、今度は赤みを帯びた黒の短髪の男が続いていた。こちらは健康的に焼けていて、体躯がいい。身長も他の二人より十センチは高いだろうか。鋭い目つきは怖いけれど、意思の強さを思わせる。
(……なんか見覚えが……)
けれど外国人に知り合いはいない。映画で見たのだろうか。三人とも顔がいいので、モデルや俳優なのか。
「気分はどう?」
銀髪の男がベッド横の椅子に腰かけた。端正な顔がアリスを見下ろす。
(……え)
見覚えがあったのは、恋愛ゲームのキャラクターに似ていたからだった。アニメの絵と実在の人物という違いがあるにしても、そっくりだった。
しかし、目付きだけは違っている。ゲームのなかではきつい印象があったが、今目の前にいる人は慈愛に満ちたとろけるような瞳をしてる。
「はじめまして。ルイといいます」
「ルイ……」
ゲームの腹黒王子と同じ名前。しかしそれはファーストネームで、成就しないと決して教えてはもらえない呼び方だった。
(ってことは、ここはあのゲームの世界……?)
たしか、特別シナリオと書かれていた。没になった設定もあると――王子のキャラの違いが設定変更だったのだろうか。
(特殊技術でVRを越えたリアルゲーム……ってことかな……)
そうだ。だから一般公開はせずに招待制を取っているのだろう。仕組みはよくわからないしこんなことができるなんて聞いたことがないけれど、最新技術と言われればできそうな気もする。
「大丈夫?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる