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しおりを挟むまた、気がついたら眠ってしまっていたらしい。ふわふわの毛並みに甘えるように頬を擦り寄せる。ふわふわ。もふもふ。主の屋敷の絨毯も柔らかかったけれど、それとは全然違う。温かくて、優しいふわふわ。
幸せだ、と思いながらその柔らかい毛を堪能しているとなんだか体が熱いような気がした。ボーッとするような。
疲れが出たのか、と思いながら横たわっていると狼が動いたのがわかった。イヌに気を遣っているのか身体は動いていないが、頭の方が動いている。
「ガルルルル」
低いうなり声は自分に向けて発せられているものではない。ということは主が来たのだろうか。
イヌは狼の脚から抜け出すと穴の外を見た。すでに日は落ち始め、辺りは薄暗い。
ガサガサと枯れ葉を踏む音がする。しかし、どうやら一人分ではない。何人もが歩いているらしい。
(どうしよう。僕は自業自得だけれど、狼さんには逃げてほしい)
「に、げて、静か、に、歩いて、にげて」
必死に訴えるが、狼はイヌを見ようともせず足音の聞こえる方に目をやったまま動こうともしない。
その時間は途轍もなく長く感じた。しかし少しずつ、足音が遠ざかる。どうやら見つからずに済んだようだ。
道があるわけではないから、きっと主もこの場所に辿り着けずにいるのだろう。イヌはホッとすると同時に、やはり探されているのだと恐怖に震えた。それに狼も危ない。
どうしよう、どうしたらいいのだろう。解決策を考えるけれど、なかなか思い浮かばない。だんだん頭が重くなってくる。ガンガンと頭のなかを殴られているような痛み。寒気。
狼が暖めてくれていたとはいえ、この寒いなか裸で眠ってしまっていたせいだろうか。意識が遠くなってきた。
どうしよう、そう思ったときに簡単な解決策を思い付いた。
自分が出ていけばいいのだ。そうすれば、もしかしたら自分への懲罰を考えることで狼のことを忘れるかもしれない。
イヌはどうにか力を振り絞って穴から這い出した。
しかし穴から一メートルほど出たところで崩れ落ちる。でもここではだめだ。狼が見つかってしまう。せめて狼が見えないところまで行かなければ。
イヌは転がるようにして穴から離れることにした。しかし、頭が揺れたせいか二回転ほどしたところでひどい頭痛に襲われてしまう。強く脈を打つようなこめかみに手をあてて耐える。
痛い、痛い、痛い。
「おい!いたぞ!こっちだ!!」
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