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「お土産を見て帰りましょう!」
 朝起きたときは恥ずかしかったけれど(きっと夜大胆になってしまったのは夜景とビールのせいだと思う)篠崎は自然に接してくれた。着替えて荷物の配送を頼み、チェックアウト。それから京都駅でお店を見る。
 昨日も一昨日もお土産は見た。渡すべき相手へのお土産は揃っているのにどうして旅行では際限なくお土産を買いたくなってしまうのだろう。
「あ、篠崎はアメリカのお友達に京都の物送ったりしないんですか」
 篠崎が買っていたのは妖怪のお土産と少しのお菓子くらいだった。
「あぁ……そうだな」
 タイプ的に、確かにお土産を配るタイプでもない。それに国際発送だと確かに送料も高くなりそうだし、いらないのかもしれない。余計なことを言ったかな、と思ったけれど篠崎は京都らしい置物を見始めた。
「あ、そっか、お菓子は日持ちが危ないですよね」
 日持ちするせんべいやおかきでも途中で割れてしまうかもしれない。
「あぁ、いや、あまり日本のいいところが分かるようなものを送って、日本に来たいと言われても面倒だなと思ったんだ」
 言葉を失う。やはり感覚が違う。安西のような働く日本人でかつ裕福な環境で育っていない人間には例え海外のお土産をもらって気に入ったとしても簡単に「実際に行ってみよう」とはなかなか思えないものだ。いつか行きたいな、とは思うけれど。
 けれどきっと篠崎の周りはそれができる環境にある人たちなのだろう。考えてみれば、超有名私立学校とかに通っていたのなら周りもみんなお金持ちだ。
「……面倒なんですか」
 当たり障りのないところを訊いてみる。
「面倒だろう。もし案内しろなんて言われたらどうする」
「してあげないんですか」
「どうして俺がするんだ。自分でガイドを手配すればいいだろう」
 ガイドを、手配。個人旅行で、ガイドを手配。
「……篠崎と一緒に観て回りたいんじゃないですか」
「俺の休日は諒のものだ」
 当然だろう、という態度で、篠崎は手にしていた置物を棚に戻した。
(……やっぱりちょっと変わってる……嬉しいけど)
 篠崎のいいところは、自分はそうやって時間を安西のために使ってくれるのに、安西が廉太郎たちのために時間を使うことを嫌がらないところだ。「俺はこんなにこうしているのに」みたいな考えがない。きちんと尊重してくれているところが好きだ。
 それと同時に、それほど一緒の時間を大切に思ってくれているのならまじめに退職のことを考えてみてもいいのかな、とも思う。
 でも本当は怖いのだ。だってこの年で退職して専業主夫になって、もし篠崎と別れるようなことになったら。自分はまた社会に戻れるのだろうかーー。年齢によっては就職も難しくなるだろうし、子供もできないので世間から孤立したような気分になってしまうのでは、という思いもあった。
 でも本心としては一緒にいたい。あぁでもやはり退職して家にいたら、篠崎の仕事の時間を一人で潰すなんて寂しくて耐えられないかもしれない。一緒にいたいーー一緒に。
「諒?」
 篠崎の呼びかけに我に返る。
「あ、すみません」
「どうした。疲れたか」
「いえ……ねぇ篠崎、早く帰りたい……」
 京都もいい。お土産を見るのも楽しい。でも早く二人になりたかった。甘えたい。甘えたくなってしまった。昨夜の裸でのハグはとても気持ち良かった。
「……あぁ、そうだな。京都の土産はネットでも買える」
 それを言っちゃうのか、とつい笑ってしまった。本当に篠崎は面白い。
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