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「追いかけてくる龍はどこにいるんだ」
人力車に乗り、数分。竹林の中で記念写真を車夫さんに撮ってもらった直後、篠崎が突然聞いた。
「っ、ちょ……」
思わず笑ってしまった。車夫さんも笑いを堪えている。
「篠崎、それ、どこで知ったんですか」
「妖怪好きの友人が、日本には視線で追いかけてくる龍がいると言っていた」
(妖怪好きの友人?!)
「え、その妖怪好きの友人ってもしかして篠崎に蛇の妖怪とか教えました?」
「あぁ、そいつから聞いた。河童と天狗、それから何だったか、茶碗を風呂にする目玉がいると言っていた」
そのときにはもう、車夫さんも笑いを堪えられなくなっていた。安西自身も腹を抱えて笑った。
でも日本を知ってくれている人がいると思うと嬉しい。妖怪好きだというお友達はきっと日本が大好きなのだろう。面白い。
「それは八方睨みの龍のことですね」
車夫さんは笑いを朗らかな笑みに変えながら人力車を発車させた。
「この近くですと天龍寺にございます」
渡月橋で下ろしてくれるらしいので天龍寺へはそこから向かうことにして、それからは車夫さんの解説を聞きながらぐるりと穏やかな景色を見て回った。ゆったり座ったまま周りを眺められるし、解説もわかりやすいし、とてもいい時間だった。
「ありがとうございました」
「とても良かった」
「ありがとうございました」
丁寧な車夫さんで、天龍寺までの道筋まで教えてくれた。それに従って景色を眺めながら歩く。
「篠崎、日本の知識って妖怪好きのお友達から得ているんですか」
「……そうだな。それが多いかもしれない」
だからたまに変な知識を持っているのか、と合点した。でも面白いからそっとしておくことにする。これからはどんな知識を披露してくれるのか。
きっと真面目な話だったら篠崎も自分で調べたりもするだろうし、それで正しい知識に修正するのだろうけれど篠崎は妖怪については完全に友人の言葉を信じてしまっている。まあ、それほど間違っていないのだけれど。
天龍寺の雲龍図はすごい迫力だった。篠崎はぐるぐる部屋を周り、時折英語で感嘆の声をあげていた。母国語が出るくらい感動してくれたと思うと嬉しいし、内心それで周りの目も温かくなってほっとした。それに、可愛いと思った。
それから渡月橋を渡ってお土産屋さんを覗き、駅の近くの湯豆腐懐石を食べて京都駅に戻った。
一旦ホテルに荷物を置いて、それからもう一度外に出た。
「身体は大丈夫か」
「っ、や、何っ、外ッ」
「……疲れの心配だと普通は思うだろう」
「あ……」
変に意識してしまっていた。恥ずかしい。これじゃ常にそういうことを考えているみたいだ。
「大丈夫ならいいが、無理はしないでくれ」
「はい」
観光できるのは今日だけだ。明日は新幹線に乗る前にお土産屋さんで買い物をする程度。今から目指すは京都一条妖怪ストリートだ。バスで行けるのだけれど、混んでいたので結局タクシーに乗った。
道路には観光バスが列をなしていて、多少の渋滞はあったもののスムーズに道を進んだ。
「そこには河童がいるのか」
「……いたらいいですね」
運転手さんは声を上げて笑っていた。
人力車に乗り、数分。竹林の中で記念写真を車夫さんに撮ってもらった直後、篠崎が突然聞いた。
「っ、ちょ……」
思わず笑ってしまった。車夫さんも笑いを堪えている。
「篠崎、それ、どこで知ったんですか」
「妖怪好きの友人が、日本には視線で追いかけてくる龍がいると言っていた」
(妖怪好きの友人?!)
「え、その妖怪好きの友人ってもしかして篠崎に蛇の妖怪とか教えました?」
「あぁ、そいつから聞いた。河童と天狗、それから何だったか、茶碗を風呂にする目玉がいると言っていた」
そのときにはもう、車夫さんも笑いを堪えられなくなっていた。安西自身も腹を抱えて笑った。
でも日本を知ってくれている人がいると思うと嬉しい。妖怪好きだというお友達はきっと日本が大好きなのだろう。面白い。
「それは八方睨みの龍のことですね」
車夫さんは笑いを朗らかな笑みに変えながら人力車を発車させた。
「この近くですと天龍寺にございます」
渡月橋で下ろしてくれるらしいので天龍寺へはそこから向かうことにして、それからは車夫さんの解説を聞きながらぐるりと穏やかな景色を見て回った。ゆったり座ったまま周りを眺められるし、解説もわかりやすいし、とてもいい時間だった。
「ありがとうございました」
「とても良かった」
「ありがとうございました」
丁寧な車夫さんで、天龍寺までの道筋まで教えてくれた。それに従って景色を眺めながら歩く。
「篠崎、日本の知識って妖怪好きのお友達から得ているんですか」
「……そうだな。それが多いかもしれない」
だからたまに変な知識を持っているのか、と合点した。でも面白いからそっとしておくことにする。これからはどんな知識を披露してくれるのか。
きっと真面目な話だったら篠崎も自分で調べたりもするだろうし、それで正しい知識に修正するのだろうけれど篠崎は妖怪については完全に友人の言葉を信じてしまっている。まあ、それほど間違っていないのだけれど。
天龍寺の雲龍図はすごい迫力だった。篠崎はぐるぐる部屋を周り、時折英語で感嘆の声をあげていた。母国語が出るくらい感動してくれたと思うと嬉しいし、内心それで周りの目も温かくなってほっとした。それに、可愛いと思った。
それから渡月橋を渡ってお土産屋さんを覗き、駅の近くの湯豆腐懐石を食べて京都駅に戻った。
一旦ホテルに荷物を置いて、それからもう一度外に出た。
「身体は大丈夫か」
「っ、や、何っ、外ッ」
「……疲れの心配だと普通は思うだろう」
「あ……」
変に意識してしまっていた。恥ずかしい。これじゃ常にそういうことを考えているみたいだ。
「大丈夫ならいいが、無理はしないでくれ」
「はい」
観光できるのは今日だけだ。明日は新幹線に乗る前にお土産屋さんで買い物をする程度。今から目指すは京都一条妖怪ストリートだ。バスで行けるのだけれど、混んでいたので結局タクシーに乗った。
道路には観光バスが列をなしていて、多少の渋滞はあったもののスムーズに道を進んだ。
「そこには河童がいるのか」
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