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「ぁ……」
ベッドに寝かされ覆い被さられる。精悍な顔が目の前にある。それだけで緊張してしまう。
「怖いか」
「いえ……恥ずかしい」
いやな恥ずかしさや緊張じゃない。これは期待だ。篠崎に触れてもらえることへの期待。
バスローブの紐が解かれた。下着に手がかかる。脱がせてもらうには腰を上げないといけない。自分の意思で。
少しだけ腰を上げると、額にキスをされた。褒められたのだ。嬉しい。けれど――
「……しのざき」
「ん?」
篠崎は上体を起こしバスローブを脱いでいる。恥ずかしがる素振りはやはりない。見られることに慣れているのか、恥ずかしい身体じゃないからなのか。
「慣れてる」
だって、脱がせる手付きが本当に手慣れていたのだ。もし安西だったら緊張で手が震えるし、脱がしやすいように身体を誘導することだってできない。
「……謝るところか?」
「……慰めるところ」
顔を背けて言えば、ぎゅうと抱きしめられた。触れる肌。すでに篠崎も全裸だった。
うざがられるだろうか、と今更思ったけれどもう撤回はできない。
「……俺も初めてなんだ」
分かりやすい嘘に、思わず笑ってしまった。
「ふふ、篠崎っ……ふふ」
けれど篠崎は笑わなかった。
「初めてならいいと思ったよ」
真剣な声。
「俺も諒が初めてならよかった」
「……篠崎……」
「愛してる」
篠崎の腕の中はとにかく心地よかった。篠崎の過去なんて、もうどうでもよかった。今篠崎が愛しているのは自分だけ。そう思うことができた。安西も篠崎の背に腕を回してぎゅうと抱きつく。
幸せな時間。
けれど、それだけだった。
「……あの、篠崎?」
セックスがこれではないということはさすがに分かる。けれど篠崎は横に寝転がり、寝るときのようにぎゅうと抱きしめてくれるだけだった。
「篠崎……?」
「触れ合うだけならこれで十分だろう」
勃起していないな、とは思っていた。けれどまさかセックスをする気がなかったなんて。
「……僕としたくない?」
迷惑だったのだろうか。でも、プロポーズをしてくれたくらいなのだからそういう目でも見てくれていると思うのだけれど。それとも先ほど面倒臭いことを言ってしまったからだろうか。昔の相手を思い出させるようなことを。
「したいよ、したい。けれど大変だよ」
「え?」
大変とはどういうことなのだろう。一から教えるのが厄介だということだろうか。
「……男同士のセックスではアナルを使う。だから腸内洗浄をして、それからじっくりと解す。これだけで一時間はかかる」
「……そんなに?」
知らなかった。何も知らずに、ただ篠崎に任せておけば大丈夫だろうなんて安易に考えて「抱いてほしい」なんて言ってしまっていた。
「そもそもゲイカップルはそれほど挿入はしない。オーラルセックスが多い」
「オーラル?」
「口で性器を愛することだよ」
「ぁ……」
「挿入は準備が大変だし、受け身のリスクも高い。怪我をさせてしまうこともあるし、アナルが緩んで排泄物が垂れ流しになるのは嫌だろう?だからこうして触れ合っているだけでも俺は十分セックスだと思ってるよ」
そう言って篠崎は抱きしめる腕に力を入れてくれる。腰も引き寄せられ、恥ずかしいところもしっかりと触れ合う。胸が高鳴る。優しさが嬉しくて、そして触れ合う体温が恥ずかしくて。
でも、それだけじゃいけない。
ベッドに寝かされ覆い被さられる。精悍な顔が目の前にある。それだけで緊張してしまう。
「怖いか」
「いえ……恥ずかしい」
いやな恥ずかしさや緊張じゃない。これは期待だ。篠崎に触れてもらえることへの期待。
バスローブの紐が解かれた。下着に手がかかる。脱がせてもらうには腰を上げないといけない。自分の意思で。
少しだけ腰を上げると、額にキスをされた。褒められたのだ。嬉しい。けれど――
「……しのざき」
「ん?」
篠崎は上体を起こしバスローブを脱いでいる。恥ずかしがる素振りはやはりない。見られることに慣れているのか、恥ずかしい身体じゃないからなのか。
「慣れてる」
だって、脱がせる手付きが本当に手慣れていたのだ。もし安西だったら緊張で手が震えるし、脱がしやすいように身体を誘導することだってできない。
「……謝るところか?」
「……慰めるところ」
顔を背けて言えば、ぎゅうと抱きしめられた。触れる肌。すでに篠崎も全裸だった。
うざがられるだろうか、と今更思ったけれどもう撤回はできない。
「……俺も初めてなんだ」
分かりやすい嘘に、思わず笑ってしまった。
「ふふ、篠崎っ……ふふ」
けれど篠崎は笑わなかった。
「初めてならいいと思ったよ」
真剣な声。
「俺も諒が初めてならよかった」
「……篠崎……」
「愛してる」
篠崎の腕の中はとにかく心地よかった。篠崎の過去なんて、もうどうでもよかった。今篠崎が愛しているのは自分だけ。そう思うことができた。安西も篠崎の背に腕を回してぎゅうと抱きつく。
幸せな時間。
けれど、それだけだった。
「……あの、篠崎?」
セックスがこれではないということはさすがに分かる。けれど篠崎は横に寝転がり、寝るときのようにぎゅうと抱きしめてくれるだけだった。
「篠崎……?」
「触れ合うだけならこれで十分だろう」
勃起していないな、とは思っていた。けれどまさかセックスをする気がなかったなんて。
「……僕としたくない?」
迷惑だったのだろうか。でも、プロポーズをしてくれたくらいなのだからそういう目でも見てくれていると思うのだけれど。それとも先ほど面倒臭いことを言ってしまったからだろうか。昔の相手を思い出させるようなことを。
「したいよ、したい。けれど大変だよ」
「え?」
大変とはどういうことなのだろう。一から教えるのが厄介だということだろうか。
「……男同士のセックスではアナルを使う。だから腸内洗浄をして、それからじっくりと解す。これだけで一時間はかかる」
「……そんなに?」
知らなかった。何も知らずに、ただ篠崎に任せておけば大丈夫だろうなんて安易に考えて「抱いてほしい」なんて言ってしまっていた。
「そもそもゲイカップルはそれほど挿入はしない。オーラルセックスが多い」
「オーラル?」
「口で性器を愛することだよ」
「ぁ……」
「挿入は準備が大変だし、受け身のリスクも高い。怪我をさせてしまうこともあるし、アナルが緩んで排泄物が垂れ流しになるのは嫌だろう?だからこうして触れ合っているだけでも俺は十分セックスだと思ってるよ」
そう言って篠崎は抱きしめる腕に力を入れてくれる。腰も引き寄せられ、恥ずかしいところもしっかりと触れ合う。胸が高鳴る。優しさが嬉しくて、そして触れ合う体温が恥ずかしくて。
でも、それだけじゃいけない。
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