38 / 75
3-16
しおりを挟む
「これを」
篠崎が携帯を取り出し、何やら操作してこちらに向けた。画面には日本大手の銀行画面。
「……これ」
「日本に来てから作った金だ。言っておくが他国の銀行にもマイナスはない」
言葉が出なかった。確かに忙しそうとは思っていたけれど、これほどの利益を生み出していたとは。
「まぁ、日本で始めた仕事とアメリカで起業した若者投資のはまだそれほど利益は出ていない。これはほとんど株で儲けた金だ」
これなら「家庭に入ってほしい」と簡単に言えてしまうのも納得だった。恐らく株も、使えるお金が多いから動く額も莫大なのだろう。安西には怖くて動かせない額。
「不自由をさせるつもりはない」
「……あの、よくわかりましたので、しまってください……」
画面そのものが現金ではないのだけれど、テレビの中でしか見ることのないような額に怖くなってしまった。
「諒。すぐにじゃなくていい。退職のことも考えてくれ。早く諒を独占したい」
「……わかりました」
仕事をしていないと自分がダメになってしまいそうな気がしていた。そして、ゆうくんのこともあった。けれど安西とて篠崎とずっと一緒にいられるのなら嬉しい。それに貯蓄額を見て、何かあったら自分が養う、という意気込みが消えた気がした。
「諒。嬉しいよ。考えてもらえるだけでも嬉しい」
篠崎の腕の中にすっぽりと納まる。そういえば飲み物はもう温くなってしまっている。
「せっかくプロポーズしてくれた日なのに、暗いことばかり考えてしまってごめんなさい」
「いいんだ。それだけこれからのことを真剣に考えてくれたということだろう」
あぁ、やはり優しい。篠崎はどこまでも優しい。
「……篠崎の匂いじゃない」
恥ずかしくて、話を変えるために言ったつもりだったけれど、言った直後に後悔した。匂いを嗅いだってバレてしまう。でも篠崎の腕の中にいるときはいつでも首筋の匂いを嗅いでしまうのだ。
「あぁ、石鹸が違うからな。でも諒と同じ匂いだよ」
「ン……」
ジュースを溢さないように気を付けながらぎゅうと抱きつく。安心する。でもドキドキもする。
「……篠崎、僕、やっぱり抱いて欲しいです。気持ちよくなりたいんじゃなくて、触れて欲しい」
数瞬の間。
「……本気か」
その声は少しだけ鋭かった。
「はい」
心がふわふわしているな、と思った。気持ちが安定していない。プロポーズに浮かれて、現実を考えて落ち込んで、そして篠崎の腕の中に閉じ込められてドキドキしている。
「触れ合いたいです……」
今はとにかく篠崎の肌を感じたかった。
篠崎が携帯を取り出し、何やら操作してこちらに向けた。画面には日本大手の銀行画面。
「……これ」
「日本に来てから作った金だ。言っておくが他国の銀行にもマイナスはない」
言葉が出なかった。確かに忙しそうとは思っていたけれど、これほどの利益を生み出していたとは。
「まぁ、日本で始めた仕事とアメリカで起業した若者投資のはまだそれほど利益は出ていない。これはほとんど株で儲けた金だ」
これなら「家庭に入ってほしい」と簡単に言えてしまうのも納得だった。恐らく株も、使えるお金が多いから動く額も莫大なのだろう。安西には怖くて動かせない額。
「不自由をさせるつもりはない」
「……あの、よくわかりましたので、しまってください……」
画面そのものが現金ではないのだけれど、テレビの中でしか見ることのないような額に怖くなってしまった。
「諒。すぐにじゃなくていい。退職のことも考えてくれ。早く諒を独占したい」
「……わかりました」
仕事をしていないと自分がダメになってしまいそうな気がしていた。そして、ゆうくんのこともあった。けれど安西とて篠崎とずっと一緒にいられるのなら嬉しい。それに貯蓄額を見て、何かあったら自分が養う、という意気込みが消えた気がした。
「諒。嬉しいよ。考えてもらえるだけでも嬉しい」
篠崎の腕の中にすっぽりと納まる。そういえば飲み物はもう温くなってしまっている。
「せっかくプロポーズしてくれた日なのに、暗いことばかり考えてしまってごめんなさい」
「いいんだ。それだけこれからのことを真剣に考えてくれたということだろう」
あぁ、やはり優しい。篠崎はどこまでも優しい。
「……篠崎の匂いじゃない」
恥ずかしくて、話を変えるために言ったつもりだったけれど、言った直後に後悔した。匂いを嗅いだってバレてしまう。でも篠崎の腕の中にいるときはいつでも首筋の匂いを嗅いでしまうのだ。
「あぁ、石鹸が違うからな。でも諒と同じ匂いだよ」
「ン……」
ジュースを溢さないように気を付けながらぎゅうと抱きつく。安心する。でもドキドキもする。
「……篠崎、僕、やっぱり抱いて欲しいです。気持ちよくなりたいんじゃなくて、触れて欲しい」
数瞬の間。
「……本気か」
その声は少しだけ鋭かった。
「はい」
心がふわふわしているな、と思った。気持ちが安定していない。プロポーズに浮かれて、現実を考えて落ち込んで、そして篠崎の腕の中に閉じ込められてドキドキしている。
「触れ合いたいです……」
今はとにかく篠崎の肌を感じたかった。
1
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる