篠崎×安西(旧カルーアミルク2)(R-18)

gooneone(ごーわんわん)

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「仕事に行って、毎日食事を作って、休日だって作り置きを用意してくれている」
「負担じゃないですよ。だって嬉しいから。篠崎のために何かができるのが嬉しいんです」
 もしかして、それを気にして家庭に入ってほしいと言ってくれたのだろうか。
 でも今日みたいに疲れたら寝てしまう。休日だって昼寝をすることはあるし、それにその度に寝かしつけをしてもらってむしろ篠崎の方が負担は大きそうなのに。
「……仕事、辞めた方がいいですか」
 自分が養うと景山に言い切ったことも気になっていた。まぁ結局、生活が脅かされるようなことにはなっていないけれど、でももし本当にアメリカに行くとなったら。それが短期のものならいい。でも本格的にアメリカに戻るとなれば、遠距離になるか別れるか――どちらも無理だ。もう篠崎がいない生活なんて考えられない。
 あぁ、どうしてこんなことを考えてしまうのだろう。プロポーズをしてもらった直後で幸せいっぱいのはずなのに、どうしてこんな「もし」で悩んでしまうのだろう。
「諒を独占したいからな」
「え?」
 さっきみたいにアメリカの話を――現実的な、具体的な何かを言われるのかと思っていたら違った。
「誰にも見せたくない。京都に来る前にも言っただろう。みんなに見せたくないからタクシー移動がいいと」
「……え、あれ、本気だったんですか?」
「本気?嘘だと思ったのか」
(……金銭感覚の差を誤魔化そうとしたんじゃなかったのか)
「……僕、別にモテませんよ」
「そんなことない。最高に可愛い」
(ありがとうと言うべきなんだろうか……)
「一度、アメリカに連れて行きたいと思っている」
「え」
 突然切り出された話。空気ががらりと変わった。
「俺の家は篠崎グループという大きな会社を持っている」
「え……篠崎グループって、あの……?」
 医療品から車まで何でも研究して何でも作っている大きな会社だ。
「ケリをつけなければいけないというのは本当のことだ。親にも諒を紹介する」
「え……」
 紹介してもらえるのは嬉しいことだけれど、正直その先には別れしか見えない。
「何を言われようと俺は絶対に諒と離れない。別れない。篠崎の名前なんて俺はいらない」
「……本当に?」
「本当だ」
 真剣な目だった。それに、これは確かに付き合い始めの頃から言っていた。家業に興味がなくて自分で起業したと。
「でも……」
 例え篠崎がそう思っていても周りは許さないだろう。
「弟がいる。そいつが継げばいい」
「そんなに継ぐの嫌なんですか」
「あんなでかい会社を継いだらどうなると思う。仕事仕事で諒との時間がなくなってしまう。諒が専属秘書をしてくれたとしても、秘書は一人じゃ足りないし、二人の時間なんて皆無になる」
「……はぁ……」
 世界が違いすぎて、全く分からない。安西が務めている会社だって株式会社だ。とはいっても上場はしていない。そんなレベルでも社長や会長は遠い人なのだ。篠崎の実家のことを言われてもピンとこなかった。
「とにかく俺は諒と静かにゆっくり生活をしたいんだ。毎日諒の手料理を食べて、諒の寝顔を見て過ごすんだ」
 まるで子供のような発言だけれど、篠崎は本当にそれを望んでいるのだろう。もしかしたら敢えてそうやって深刻じゃないように見せているだけで、本当は幼少期に思うところでもあったのかもしれない。
 だってご両親は忙しかったはずだ。特に篠崎が子供の頃なんて、跡を継げるようにと日々様々なことを教え込まれていたに違いない。親が多忙なら子供は寂しい。もしくは親の多忙さを見て嫌になったのか。
「……僕も篠崎と会えないなんて嫌です。疲れて一緒に寝るだけなんて寂しい。ゆっくり手を繋いで過ごせる時間がないのは嫌です」
「そうだろう。よかった。だから俺は一度アメリカに行く。諒と生きていくと宣言してくる」
「けど、その、いいんですか?僕男ですけど」
「関係ないだろう?むしろ子供を作れと攻撃されなくて済む」
 このうっすらと感覚が違うところはやはり育った環境の違いなのだろう。アメリカはLGBTへの差別がきっと日本より少ない。それでも跡継ぎを必要とする家が、安西をすんなり許してくれるとも思えなかった。もちろん異性愛でも事情があって子供を作れない人はいるだろうけれど、そういう人たちは養子を迎えることだってできる。少なくとも今の日本では同性愛での養子は難しい。
 でもそこで篠崎が安西との関係を強引に押したら……考えたくはないけれど、本当に勘当されてしまう可能性は否定できなかった。
「じゃあ、やっぱり僕仕事は辞めません。篠崎に何があっても僕が養えるようにしておきたいです」
「俺の稼ぎだけじゃ不安か」
「いえ、そういうわけじゃなくて」
 実際、どうなっているのかは全く分からない。困窮しているのを隠すようなタイプの人ではないから問題はないのだろうけれど。
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