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しおりを挟むホテルに戻ったのは十四時だった。そういえば昼を食べていなかったな、と気付く。けれど空腹は感じない。ソフトクリームと試食でお腹がいっぱいだったのだ。篠崎に訊くと篠崎もそれほど空腹ではないという。それなら夕食を早めにして、そのあと居酒屋にでも行こうか、という話になった。
「疲れただろう。少し休んだ方がいい」
「……そうですね、そうします」
昨日は普通に仕事をしていたのだ。それからこちらへの移動。そしてさっきの気分の高低。確かに少し疲労を感じていた。
「冷蔵庫に入れておくものはないな?」
「はい、全部常温で大丈夫です」
篠崎は本当に面倒見がいい。こうして甘やかされて、自分がダメになっていくんじゃないかと不安になることさえあるのに、そう言うと篠崎は嬉しそうな顔を見せるのだ。
「寝るか」
「……ちょびっと寝てもいいですか」
ちょびっと、なんて以前はそんな言葉使わなかった。今だって篠崎以外には絶対に使わない。篠崎にだけ、見せる子供の顔。
「あぁ、じゃあ楽な恰好に着替えた方がいい」
そう言って渡されたのは篠崎がたまに寝るときに着ているTシャツだった。
「これ」
「いやか」
「いえ……いいんですか」
「諒に着てもらおうと思って持ってきた」
(……?)
家でだって言われれば着るのに。それとも京都だから何かあるのだろうか。最近不思議なところが多いよな、と思いつつ篠崎の服を着れるのは嬉しいのでその場で着替える。想像していた通り、それは大きかった。
「大きい……」
指輪のサイズの話といい、服のサイズといい、体型が違うのだからサイズだって違うのは仕方がないことなのだけれどちょっと悔しくなってしまう。
「可愛いよ。ズボンも脱いだらどうだ」
でもそんな気持ちだって篠崎に可愛いと言われるだけでまぁいいかと思えてしまう。そういえば身体が同じサイズだったら気軽に抱っこしてもらえなくなってしまうのだし。
「そうします」
シャワーを浴びてないから少し気になったものの、寝るときに着ていたズボンを取り出して穿き替える。
「穿くのか」
「え?穿きますよね?」
脱いだらいいと言ってくれたのは篠崎なのに。外出用のズボンはベルトもしているし、やはり寝にくい。寝れたとしても余計に疲れてしまいそうだったのだ。
「……まぁ、穿く……かな」
よくわからないな、と思いながらベッドに転がる。篠崎もすぐに横になってくれた。
「篠崎はお昼寝しないんですか」
「諒くんの寝顔を眺めておくよ」
きっと仕事があるのだろう。パソコンは持ってきていないようだけれど、最近は携帯でもある程度打ち込みはできるし、もしかしたら電話のやりとりでもあるのかもしれない。せっかくの旅行なのに、と思うけれど、忙しい中わざわざこうして時間を作って連れ出してくれたのだ。怒るところでも拗ねるところでもない。感謝すべきところなのだ。
「……わかりました。でも恥ずかしいからあまり見ないでくださいね」
「あぁ、おやすみ」
篠崎の腕の中は温かくて、匂いも安心感があって、睡魔はすぐに訪れた。案の定、腕枕から頭を下ろされたことにも気付かないまま気持ち良く眠った。
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