篠崎×安西(旧カルーアミルク2)(R-18)

gooneone(ごーわんわん)

文字の大きさ
上 下
27 / 75

3-5

しおりを挟む

「…………何がいい」
 篠崎の、間。そこに何か含むものがあるような気がしてしまった。
「あ……いえ、」
 特にこれといって何か具体的なものを考えていたわけではないし、指輪の遠回しなおねだりというものでもない。けれどただ、何となくはしゃいでしまっただけだ。それに篠崎を見る女の子たちを見て、少し不安になってしまっただけ。
「何か旅行に来た記念にキーホルダーでもと思ったんですが、考えてみたらキーホルダーなんてつけるところもないですよね。あ、あれ美味しそう!」
 篠崎の気持ちを信じられないわけではない。だってまた京都に来ようという言葉一つ、お願いという言葉一つであんなにも嬉しそうな顔をしてくれるからだ。だから好かれている、愛してもらえているという自信はあった。けれど、どうしても先ほどの間が気になってしまった。やはりいい年してお揃いなんて嫌だっただろうか。でも嫌ならそう言ってくれれば無理強いなんてしないし、家の中に飾っておくとかしまっておいたって構わなかったのだけれど。
「諒」
 後ろからの呼びかけを無視して歩を進め、店先を覗き込む。日本酒ソフトクリーム。話を逸らすために寄ったつもりだったけれど、本当に美味しそうだった。
「……諒」
 列に並んでいると篠崎が隣に立った。その声には少しだけ怒りが滲んでいて怖くなってしまう。
 でも怒るのも当然だ。呼び掛けを無視したのだから。もし自分が篠崎に無視をされたらーー想像するだけでも嫌だった。
「しの……」
 でも何と言ったらいいのだろう。複雑な気持ちが入り乱れ、言葉の整理がつかなかった。
「……諒、美味しそうだな」
 篠崎はがらりと空気を変えて言った。
「日本酒か。諒は食べたことがあるのか」
「い、いえ……」
 どうしたのだろう。お揃いのものがほしいと言ったときの間。そして僅かに怒りを含んだ呼び声。それから明るい今。
「あの、」
「はい、お待たせしましたー!」
 何でもいいから話しかけようと思ったときに間が悪く順番が回って来てしまった。ひどく場違いに聞こえる明るいお姉さんの声。でも急がないと。後ろにはたくさんの人が並んでいる。
「日本酒ソフトを一つ」
「あ」
 注文したのは篠崎だった。いつの間に出していたのか、代金まで支払ってしまう。
「おおきに!」
 ソフトクリームを受け取り、混雑した店先から離れた。
「あの、篠崎」
「うん?」
 篠崎の様子はいつもと変わらない。どういうことなのだろう。
「……いえ、買ってもらってすみません。いただきます」
「あぁ」
 篠崎は歩調を普段より緩めて歩いてくれた。食べ歩きへの配慮だろう。でもどうやらどこかに向かっているような足取りだった。お土産屋さんがたくさん並んでいるのにどこも見ようとせず、しっかりとした足取りで歩いている。
「篠崎?」
 どこか目当ての店でもあるのだろうか。京都旅行は楽しみにしていたようだし、自分で気になる店を調べていた可能性もあるのだけれど、なんとなく違う気がした。篠崎なら「行きたい店がある」と言ってくれる気がしたのだ。
 それにどんどん人気がなくなっていく。歩いて五分程度なのに、もう周りに観光客は見えなくなった。道の先、行き止まりになったところで向かい合う。
「篠崎、あの」
 ソフトクリームは味を楽しむ間もなく食べ終えてしまった。せっかく買ってもらったのにもったいない。そう思うのに、味を気にする余裕なんて全くなかったのだ。無駄にしないようにと思うだけで精一杯。
「諒、見たのか」
「え?」
 突然どうしたのだろう。篠崎は真剣な様子だった。
「見たのか」
「え?あの、何を?」
 一体何を言っているのだろう。話が全く見えなかった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...