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「京都は忍者がいるんだったか」
「……映画村はあったと思いますけど、忍者がいるとしたら滋賀県か三重県……」
 急に外国人になったようで、笑ってしまった。まるでテレビのインタビューに答える外国人みたいだったのだ。まぁ、親が日本人でもそこまで教えることはないだろうからきっと感覚は本当に外国人なのだ。そう思って対応しよう。
「そうか、ならそれはまた今度行こう」
 篠崎がとても楽しそうで、こちらもわくわくしてしまう。二人でそそくさと着替え、朝食を食べる間も旅行の話で持ちきりだった。
 食器を片付け、外に出た。久しぶりの休日の朝の外出。
「涼しくなりましたね」
「あぁ、もうすっかり秋だ」
 午後は少し暑く感じるけれど、朝はもう長袖が必要な時期。それでも少し肌寒いなと思うけれど歩いていれば暑くなる。
「歩いて行きませんか」
 都心では駐車場を探す方が面倒くさい。駅まではそれほど遠くないし、駅周辺にはいくつも書店があるのだ。でも時間はまだ九時。もしかしたら駅ナカの書店じゃないと営業時間になっていない可能性もあった。
「あぁ、そうしようか」
 二人で歩く。住宅地を抜けて大通りに出ると人がたくさん歩いていた。
「結構人がいますね」
「みんな遊びに行くんだろう」
「そういえば篠崎って、遊びと言えばなんです?」
「……投資はゲーム感覚だな」
 話し出す前の間から、恐らく篠崎も「答えとしてこれは違う」と思っていたのだろう。けれどきっと何も浮かばなかったに違いない。それでも律儀に返してくれるところが好きだ。
「……学生時代は?」
「学生時代か……起業していたからな。仕事が遊びのようなものだった。けれどビリヤードはよくやったよ」
「ビリヤード!」
 手足が長いから構えはとても様になるだろう。見てみたい。
「諒は?どんな学生時代だった」
「僕は……」
 奨学金で大学を出た。だから授業のない時間はほとんどアルバイトだった。とても大変な生活だったけれどそれでも頑張れたのはゆうくんの遺志を継ぎたかったからだ。親のいない子供でも、立派に生活をできると証明したかった。
「バイトしてました」
「そうか。どんなバイトだった?」
「家庭教師と塾の講師とコンビニです」
「……大変だったな」
 そんなに働いていたのか、と普通の人は言う。けれど篠崎は生い立ちを知っているので働かざるを得なかったことを理解してくれているのだろう。言葉選びの一つ一つに篠崎の気持ちがこもっていて、嬉しい。
「いえ……施設にいたときから小さい子の勉強を見てあげていたので、同じような感覚で」
「そうか」
 懐かしい。生徒たちはみんな元気だろうか。
 家庭教師も塾の講師も、時給はとてもいい。けれどコマ数がないのだ。一コマ三千円でも週一コマ二コマではまともな収入にはならない。それに時間も限られていた。子供たちが学校から帰ってくる夕方の時間から夜にかけてのみ。週末の昼のようにがっつり時間が空いてる時間、子供たちは受験生でもない限り塾へは来ない。部活だってある。そういう時間にコンビニで働き、当時は緩かった廃棄弁当を貰って生活していたのだ。いい時代だったな、と思う。無駄もないし、生活もとても助かった。
「今度俺にも勉強を教えてくれ」
「え……」
 篠崎に教えられることなど何一つない。どう考えても安西より篠崎の方が博識なのだ。
「諒に教わってみたい」
「教えられることなんて何もないですよ!」
 確かにごくたまに変な日本語を使うことはあるけれど、可愛らしい程度なのだ。訂正してしまって改善されると寂しくなる。
「そんなことはない。あぁそうだ、京都の歴史を教えてくれ。妖怪がいるんだろう」
「……」
 やはり、教えられることはたくさんあるかもしれない。
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