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しおりを挟むそれから一週間。頬と額へのキスの回数は大きく増えた。篠崎は仕事が落ち着いたのか、安西が帰宅する時間になると書斎から出てきてくれるようになったし、すれ違うだけでもキスをしてくれる。十回に一回くらいの割合でキスをし返すと額と右、左の頬と三か所へキスを一度に返してくれたりもした。
「あの、篠崎」
明日は休みの金曜の夜。そうは言っても家で仕事をしている篠崎には週末なんて関係ないのだけれど安西はどうしても心が穏やかになる。篠崎もそれに合わせソファで酒を飲んでくれる。時折髪を撫でられ、可愛いと突然褒められる。幸せの時間。一週間仕事を頑張ったご褒美を与えられているような。
「どうした」
「……口、キスして……」
自分でもそんなことを言ってしまうなんて思わなかった。優しい空気に包まれて、流されているだけなのかもしれない。けれど篠崎なら――。
「……いいのか」
篠崎がゆっくりと訊く。少し強ばった声。篠崎も緊張しているのだと気付く。安西のおねだりを叶えて、それでもし安西がパニックになったら、ときっと慎重になってくれているのだ。
「はい、してほしい……」
「……ファーストキスだな?」
言葉にするのは恥ずかしくて小さく頷くことで返す。
「嬉しい。これからも沢山諒くんの初めてが欲しい」
「……恋人同士がすることは全部初めてです」
デートも、手を繋ぐのも、キスもハグも、きっとそのうち訪れるそれ以上のことも、全て。
「あぁ……色々しような」
「はい……」
篠崎に身体を離される。篠崎の目がこちらを見ている。恥ずかしい。やっぱりやめたい。でもそれは羞恥だけだ。嫌なわけじゃない。どうしたらいいか分からなくて目を閉じた。あぁでもこれじゃキスを待ってるみた――……
「……」
ふに、と知っている感触。いや、頬や額で受けるよりも柔らかく感じた。
あぁ、キスをされたのだ。唇に。
「……諒」
「あ、はい……その、えと」
「大丈夫か。気分が悪くなったりは」
「いえ、その……幸せ……」
どうしよう、唇の触れ合うキスがこんなにも幸せなものだなんて知らなかった。額も頬も嬉しかったけれど、こんなに幸せを感じるなんて――。
「あ……どうしよう……」
「諒?」
「もっとしたい……やだ、なんで……」
キスでさえあんなに嫌悪感があったのに。あったはずだったのに。
「嬉しいよ。もう一度してもいいかな」
「……してほしい……」
恥ずかしくてぎゅっと篠崎のシャツを握りしめて顔を埋める。これじゃキスはできないのに。でも自分から顔を上げるなんて恥ずかしくてできそうになかった。
「諒、怖くないからこちらを向いて」
「や、はずかしっ……」
「大丈夫。ほら……」
篠崎が肩を持つ。引き剥がされてしまう。でもそれに抗おうとは思えず、素直に離れる。
「うん、いいこ……」
声が甘い。こんなに甘い声は聞いたことがない。大人の声だ。大人の、夜の声。
「諒……」
顎に手が触れた。持ち上げられる。視線を上にやるとすぐ近くに篠崎の顔があった。目が合ったまま近付いてくる。もう触れてしまうギリギリなのに目が離せない――。
ふに――
「ぁ……」
触れてすぐに離れた唇。でもまだ感触が残っている。唇を指でなぞってしまったのは無意識だった。篠崎の唇の再現のような。けれど硬い指で感触は似ても似つかない。
気持ち良かった、と素直に思った。途端身体に感じた違和感。
「ぁっ……」
勃起していた。まじまじと感じる懐かしい感覚。
「や、うそ、なんでっ」
目敏い篠崎はすぐに異変に気付いた。気付かれてしまった。嫌だ、恥ずかしい。ソファに足を上げ、隠すように膝を抱える。
「……可愛い、諒、可愛い……」
囁くような声は一層の甘さを纏う。
「や、やだぁっ」
「大丈夫、怖くないよ」
「や、だってっ、なんでっ」
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