篠崎×安西(旧カルーアミルク)

gooneone(ごーわんわん)

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「諒くん、夜ご飯は何がいいかな」
「夜ご飯?」
「そう。オムライスは好きかな」
「オムライス……」
「知らないか?」
「知らない」
 オムライスを知らない……まさか和食で健康的に育ったというわけではないだろう。
「俺が大好きな食べ物なんだ。一緒に食べてくれるか」
 そうやって訊くと諒は笑顔で頷いた。
 
 オムライスなら、諒が普段からチキンライスを冷凍保存してくれている。諒が仕事の時、温めて昼食に食べれるようにだ。それを解凍して卵だけ焼けば問題はない。
「じゃあそれまで何をしようか。テレビでも観るか」
「観る!」
 リモコンを渡すと器用に操作した。どうやらテレビは観させてもらっていたらしいと安堵する。
「わあ!すごい!」
 教育番組を見ながら諒は一人ではしゃいでいる。
 それにしても「ママ」が出てこない。最初にママはいるのかと確認しただけだ。家に入って居ないと分かったからそれでいいということなのだろうか。
 不安が過る。今はもう大人の諒なのだと分かりつつ、諒の過去を知ってしまうのが怖い。もしかしたら知られたくない過去かもしれない。それを暴いてしまうかもしれない。
 けれどできれば――可能ならば少しでも子供の頃の諒を癒してやりたかった。何があったのか、どんな環境で育ったのかは分からない。けれど少しでも――。
「しのざき」
「あ、あぁ」
 先ほどと同じだ。諒はクッキーやテレビに夢中だったはずなのにこちらの意識が他に向くと声を掛けてくる。それもこちらを見てほしいという感じではなく、心配そうな声掛けなのだ。夢中になりながらも大人の顔色を窺っている。
 そう言えば声掛けの後はもう先ほどみたいにはしゃいでいない。篠崎が黙ってしまったからはしゃぐのはいけないことなのだと思ったのだろうか。
「これは面白いな」
「しのざき、」
「このキャラクターは何だ?ねこか?」
「違うよしのざき、これはアライグマのあらいさんだよ」
「あらいさんか」
「あらいさんはいつもお手てが真っ赤なんだよ」
「どうして?」
 いつも、と言った。やはりいつも観ている番組なのだろう。
「いつもお手てを洗ってるからだよ」
「あぁ、そうか。ならお手てが痛いかもしれないな」
「うん……可哀想」
「諒くんは痛いところはないかな」
「ない!」
 どうやらもうたんこぶの痛みも引いたらしい。よかったと胸を撫で下ろす。あとは諒が大人の諒に戻れば――いや、今は子供の諒を癒してやりたい。
「しのざき?」
 まただ。テレビを観ながらこちらを観ていたのだ。
「諒くんが元気でよかったなって考えていたんだよ」
「しのざきは元気?」
「元気だよ」
「よかった」
 そう言って諒は再びあらいさんを観始めた。


「美味しい!」
 卵は少し破けてしまったが、諒はオムライスをどんどん食べた。食欲があることにまた安堵し、篠崎も食べ進める。
「食べ終わったらお風呂だよ」
「お風呂?」
「そう。身体を綺麗にしよう」
「はい!」
 まさかお風呂が分からないのだろうか。少しだけ不安な気持ちに蓋をして諒の頬についたケチャップを拭った。

「諒くん、服を脱ごうか」
「はい」
 諒の裸はまだほとんど見たことがない。けれど緊急事態だし、中身は幼児でそういう欲求も起きそうにないので目を瞑ることにした。
「いいこ。上手に脱げるな」
「うん」
「さあお風呂だ」
 自らも全裸になり浴室のドアを開けた。
「あ……」
「諒?」
 怯えている、とすぐに分かった。何に怯えた?危険なものは何もない。
「どうした?怖くないよ」
「あ……」
 何があったのだろう。子供の頃の諒に何が。
「諒くん、大丈夫怖くないよ。頭を洗うのが怖いかな。それなら今日は身体だけ洗おう」
「あ……しのざき……」
「うん、一緒に入るし洗ってあげるから大丈夫だよ」
 諒は何も言わなかった。けれど怯えながら、促されるまま浴室に足を踏み入れた。
「シャワーをかけるよ」
 温度を確認し、手を取って指先からかけてやる。何が怖いのか分からないのでゆっくり探りながら進めるしかなかった。
「怖い?」
 首が横に振られた。シャワーが大丈夫なのか、手なら大丈夫なのかはまだ分からない。
「椅子に座ろうか」
 諒の椅子を出してやると大人しく座った。けれど背中が震えている。一体何に怯えているのか。まさか寒いわけではないだろう。
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