エフ --俺と妹を巡る物語の後--(仮)

夜の雨

文字の大きさ
上 下
5 / 35

挑発 《有栖》

しおりを挟む
兄たちに話せていないことがある。

私の通う学校は、通信制高校ということでいろいろな事情のある生徒が通っている。
私のように、普通高校を途中で退学して、改めて通い直している子もいるし、訳があって高校に通えず大人になってから通っている人もいる。
そしてみんな口にしないだけで、大抵が過去になにか傷を負っている。

そんなクラスメイトの中に少し対応に困っている人がいるのだ。

「立花サーン、今日今からカラオケとか行かない?お茶でもいいけど?」
学校を出るタイミングで声をかけてきた彼が、兄たちに話せていない例のクラスメイトだ。

年齢は私より少し年上くらいだろうか。
兄と同じくらいなのかな……
猫背で痩せていて、いつも少し青白い顔をした彼は、渋川直哉さんという。
通信制で登校日も少ないせいか、クラスメイトと言ってもあまり声をかけあったりせず、それぞれが黙々と自分の課題をこなして時間になったら帰宅する人が多いのだけれど、彼は私を見かけると、いつも声を掛けくる。
正直少し苦手だな……と思う。

「立花サン、たまにはつきあってよ
…」
「ごめんなさい。あの…今日は弟が迎えに来ているから……」
私が言葉を濁すと、彼は食い下がる。
「また弟かよ、いつも立花サンそういうよね。いつならいいの?弟が迎えにくるとかブラコン?」
誘ってくれているのに失礼だとは思うのだけど、彼のそういうしつこいところや、なんとなくトゲのある物言いが苦手だった。

ブラコン。
そう。
図星だから嫌な気持ちになるのかもしれない。

血はつながっていないとは言え、私はたぶん紛れもなくブラザーコンプレックスだ。
私の返事に機嫌を損ねたらしい彼が吐き捨てるように言う。
私は困り果てた。
どんなふうに断ればわかってくれるのだろう。

「もしかして…ブラコン過ぎて、ファーストキスも兄弟とか?なーんてな……ハハッ……」
彼が冗談めかして言った言葉に、私はかっと顔が赤くなる。

私が固まっているのを見て、彼は、あれー?と意地悪な表情をして私の顔を覗きこむ。
彼の顔が近づき、頬に息がかかる。
「ま・さ・か、マジ、で~??」
思わず肩をすくめて目をつぶった瞬間、誰かに後ろにぐいと腕を引かれた。

竜之介の手だった。
私の肩を抱くように引き寄せて、竜之介は私を自分の後ろに隠すようにして言う。

「あんた、いい加減にしろよ」

彼のこんな声をきいたのは初めてかもしれない。
表情は見えないけれどかなり怒っている。

渋川さんは一瞬ひるんだものの、すぐににやっと笑う。
「やー、君が弟クン?初めて見たけど、すっげーイケメンだねえ…こりゃブラコンにもなるか。ん?あまり似てないねえ、ひょっとして血の繋がらないきょうだいってやつ?なんかエロいなー」
渋川さんはにやにやしている。
竜之介の手が私の肩から外されて、ぎゅっと握り拳になるのが見えた。
「ははっ……まさか図星?弟クン、お姉さんにヨコシマなこと考えちゃったりするの?過保護もほどほどにねー……お姉さん、こんなにきれいなのに彼氏作れないじゃん」
渋川さんはへらへらと笑っている。
「……!」
「リュウ、帰ろう。渋川さん、ごめんなさい、さようなら」
私は竜之介の袖をひっぱる。
竜之介はぎりぎりのところで思いとどまってくれたようで私の手をとって渋川さんに背を向けた。
「またね、立花サン。きょうだいでイチャイチャしてるより、俺と遊ぶほうが健全ダヨ~」
渋川さんの声が後ろから聞こえてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

優しい手に守られたい

水守真子
恋愛
相馬可南子二十五歳。大学時代の彼氏に理不尽に叩かれ、男を避けるようになる。全てに蓋をして仕事に没頭する日々。ある日、会社の先輩の結婚式で会った、志波亮一に酒酔いの介抱をされる。その流れ一晩を共に過ごしてしまった。 逞しい亮一の優しさと強引さに戸惑い、トラウマに邪魔をされながも、恋心を思い出していく。 ※小説家になろうにも投稿しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

処理中です...