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ひみつの2LDK 《竜之介》
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僕は5番目の停留所で有栖の手を取って降りた。
念のためあたりを見渡したが、父の車も姿も見当たらなかった。
「行こう…」
なおも有栖の手を引いて道を進む。
僕はリュックの横ポケットから鍵を出すと、あるマンションのオートロックを解除して、エントランスに入る。
マンションのエレベーターで6階へ、鍵を開けて有栖と一緒に玄関に入ると、僕は鍵を内側から閉めた。
ようやく僕はほっとして、息をつく。
「あ、あの……リュウ……ここは……?」
有栖は不安げな瞳で見つめてくる。
そりゃそうだろう、説明もなしに引っ張ってこられたのだから。
「兄貴のマンション」
僕は制服のネクタイをシュッと緩めた。
とりあえずひと安心だ。
「お…お兄ちゃんの…?」
「ごめんな…不安な気持ちにさせて。とりあえず中に入ろう…」
少し身を屈めて有栖の目線に合わせて、ゆっくり瞳を見て謝る。軽く手をまわして背中をとんとんと優しく叩く。
小さめの玄関で靴を脱ぎ、扉を開いてリビングダイニングに入る。
飾り気はなく閑散としているが、掃除は行き届いていてこざっぱりとしている。
僕は借りた当初しか来たことはなかったけれど、兄がきちんと管理してくれていたのだろう。
「兄貴がこんなときのために借りておいてくれたんだ…」
家賃などは聞いたことはないけれど、まだ学生の兄がオートロックつきのこの2LDKの部屋を借り、ずっと維持することが並大抵ではないことくらい僕にだってわかる。
でも兄はしてのけた。
すべては有栖のために。
そして兄はちゃんと予想していたのだ。
近い将来、必ず父が戻ってくることを。
僕は兄には敵わない。
「な…んで…?」
理解が追いつかない有栖は不安そうに僕の制服の袖をぎゅっと握っている。
僕はリビングテーブルのそばにリュックを置く。有栖のジャケットを脱がしてやる。
「パパ…パパに会ってはいけないの…?」
ああ…やっぱり有栖は父に会いたいのだ。
その事実に改めて胸が苦しくなる。
なんて答えたらわからないままに、僕はうなずく。
「ごめん……今は有栖を親父に会わせたくないんだ……」
ますます戸惑う様子の彼女に、僕は必死で言葉を探す。
「…もう何年も前に兄貴と話し合って決めたことなんだ。俺たちが有栖を守るって……」
有栖は混乱しているようだった。
当たり前だろう、自分が何からどうしてこうまでして守られなければいけないのか全くわからないのだから。
傷だらけの指、剥がれかけた爪…有栖の絶叫。
身体に残る無数の痣。
ああ…
思い出したくなくても思い出してしまう。
家族を守るために彼女が極限まで我慢した結果起きてしまった最悪の悲劇を。
念のためあたりを見渡したが、父の車も姿も見当たらなかった。
「行こう…」
なおも有栖の手を引いて道を進む。
僕はリュックの横ポケットから鍵を出すと、あるマンションのオートロックを解除して、エントランスに入る。
マンションのエレベーターで6階へ、鍵を開けて有栖と一緒に玄関に入ると、僕は鍵を内側から閉めた。
ようやく僕はほっとして、息をつく。
「あ、あの……リュウ……ここは……?」
有栖は不安げな瞳で見つめてくる。
そりゃそうだろう、説明もなしに引っ張ってこられたのだから。
「兄貴のマンション」
僕は制服のネクタイをシュッと緩めた。
とりあえずひと安心だ。
「お…お兄ちゃんの…?」
「ごめんな…不安な気持ちにさせて。とりあえず中に入ろう…」
少し身を屈めて有栖の目線に合わせて、ゆっくり瞳を見て謝る。軽く手をまわして背中をとんとんと優しく叩く。
小さめの玄関で靴を脱ぎ、扉を開いてリビングダイニングに入る。
飾り気はなく閑散としているが、掃除は行き届いていてこざっぱりとしている。
僕は借りた当初しか来たことはなかったけれど、兄がきちんと管理してくれていたのだろう。
「兄貴がこんなときのために借りておいてくれたんだ…」
家賃などは聞いたことはないけれど、まだ学生の兄がオートロックつきのこの2LDKの部屋を借り、ずっと維持することが並大抵ではないことくらい僕にだってわかる。
でも兄はしてのけた。
すべては有栖のために。
そして兄はちゃんと予想していたのだ。
近い将来、必ず父が戻ってくることを。
僕は兄には敵わない。
「な…んで…?」
理解が追いつかない有栖は不安そうに僕の制服の袖をぎゅっと握っている。
僕はリビングテーブルのそばにリュックを置く。有栖のジャケットを脱がしてやる。
「パパ…パパに会ってはいけないの…?」
ああ…やっぱり有栖は父に会いたいのだ。
その事実に改めて胸が苦しくなる。
なんて答えたらわからないままに、僕はうなずく。
「ごめん……今は有栖を親父に会わせたくないんだ……」
ますます戸惑う様子の彼女に、僕は必死で言葉を探す。
「…もう何年も前に兄貴と話し合って決めたことなんだ。俺たちが有栖を守るって……」
有栖は混乱しているようだった。
当たり前だろう、自分が何からどうしてこうまでして守られなければいけないのか全くわからないのだから。
傷だらけの指、剥がれかけた爪…有栖の絶叫。
身体に残る無数の痣。
ああ…
思い出したくなくても思い出してしまう。
家族を守るために彼女が極限まで我慢した結果起きてしまった最悪の悲劇を。
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