《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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甦る記憶 《有栖》

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私は生まれた時から母と二人暮らしで、いつか家族ができたらいいなって幼心に思っていた。
ある日、その夢が叶った。

それまで時折淋しそうだった母が、頬をバラ色に染めて私に言ったのだ。
「有栖ちゃん、あなたに家族ができるのよ。優しいパパと、お兄ちゃん。そして同い年の弟も。あたらしい広いお家に引っ越すわよ」
私の家族。
私のあたらしいおうち。

***

どうしてこんな大切なこと、忘れていたのだろう。

目を開くと、私はいつもの竜之介のベッドに横たわっていた。
「有栖…っ」
心配そうに覗き込んでいるのは竜之介だった。兄の顔も見える。
あれ…私…学校で…
「おまえ…気を失って倒れたんだ…さっき医者にも見てもらったよ」
「……私、倒れたの?」
「ああ……竜之介が大慌てで電話くれて…でも大したことないみたいでよかった…」
私は安心したように微笑む兄と、心配そうに見つめる竜之介の顔をぼんやりと見た。 
(お兄ちゃん、今日お仕事の日だったはずなのに帰ってきてくれたんだ…)

まだ頭がぼうっとする。
「有栖…なにか…思い出したのか…」
少しこわばった声で兄が尋ねてくる。 

ああ…そうだった…

私は先ほどまでみていた夢を思い出した。
いつもは忘れてしまう夢。
今日は忘れなかった。
「初めてお兄ちゃんや竜之介に会った日のこと…竜之介の誕生日も思い出したよ…」
私の言葉を聞き、一呼吸置いて
「…そうか…」
兄が押し殺したような声で言う。
どんな感情なのか推しはかることができない。
「ねえ…どうして…どうして…リュウの誕生日のこと…嘘をついてまで…隠していたの…?」
---私たちが血が繋がっていないこと。
さっと竜之介がバツがわるそうに視線を背けた。
兄は少し改まったようにベッドのそばに腰をおろして私の手をとった。
「有栖…すまない…俺が決めたことなんだ…竜之介は反対した…おまえに嘘をつくこと…」
兄が辛そうにつぶやく。
「おまえは……母さんたちが…いなくなってから心が少し壊れてしまって……その……記憶が曖昧になってしまっただろ…? 
医者は思い出せる準備ができたら自然に思い出すからと言った…」
兄は私の髪をやさしく撫でてくれた。
あたたかくて大きい手のひらだった。
「でも、記憶があやふやな状態で、たとえきょうだいとは言え、血のつながらない男たちと暮らすのはキツイかと思って…
だから……俺が決めたことなんだ……嘘をついて…すまない」
兄は頭を下げた。
そうか…兄たちは私が気づかいせず暮らせるように考えて…そうしてくれていたんだ……。
まだ頭は混乱しているけれど、兄たちの優しさが身に沁みた。
「だけど…血がつながっていないからって何もかわらない……有栖、おまえは大切な妹だし…大切な俺たちの家族だ……何も心配しなくていい……」
兄はじっと私の目をみつめて、きっぱり言ってくれた。
私はぎゅっと兄の手を強く握った。
「有栖…ずっと嘘ついててごめん…」
竜之介もベッドのそばで跪いて言った。声が震えている。
そうだ……私なんかより、ずっと嘘をつき続けている2人のがつらかったに違いない。
私は胸が熱くなった。
「ううん……私のほうこそ…つらい思いをさせてしまってごめんなさい…忘れていたことも…許して…」
竜之介は小さく首を横にふるふると降った。
「なにも…なにも今までと変わらないんだよ…」
竜之介が言うので、私はコクリと頷く。
「ふふ……華ちゃんと話していたらね…すこしずつ思い出したの……どおりで、私たち似てない……」
笑おうとしたのに、なぜか涙が溢れてしまって私はあわてて目元を抑える。
「ありす……!」
兄と竜之介の声がかぶった。
「ごめんなさい……ふたりを困らせるつもりじゃないの……おかしいな……なんで涙でてくるんだろ…」
お兄ちゃんと竜之介とほんとのきょうだいでありたかったから……?
思い出したくなかった…?
説明のつかない涙が溢れてしまってうまくとめられない。
兄が涙をぬぐってくれる。
「有栖、ごめんな……でも…何も心配しなくていいんだよ」
兄の声が優しくてまた涙が止まらなくなる。
「お兄ちゃん……」
私が鼻をぐずぐずさせていると、どう言い出そうか迷うような口ぶりで竜之介が私の目のらなかを探るように聞いてくる。
すごく言いづらそうな口ぶりで。
「有栖……過去のこと…みんな思い出したの……?」
「竜之介!」
その質問を遮りように兄が竜之介を見る。どこか咎めるような声だった。
竜之介は黙りこんで唇を噛んだ。
私は混乱した重い頭を少し振った。
まだ曖昧で断片的な過去の記憶。
「パパとママ……」
私の言葉に竜之介の肩が動揺したようにピクっと動いたような気がした。
「パパとママのことがまだあまりうまく思い出せない…」
仲良しの家族だったことは覚えている。
ママは新しい家族ができること、本当にうれしそうだったな…
あれ…パパとママはどうしていなくなってしまったの……
ズキン!と激しく頭が痛んだ
「痛っ…」
思わずこめかみを押さえる。 

ズキンズキンと信号が点滅するように激痛が走る。目の奥に閃光が走る。
「ありす…っ!だめだ……無理に思い出そうとしたらいけない……!」
思わず身を起こそうとする私を兄が制しながら言う。
「今日はずっと兄ちゃんがそばにいるからゆっくり休むんだ……眠くなるお薬も注射してもらってるから、ぐっすり眠れるはずだよ…今はもう何も考えないで……」
ぐいっと布団をかけ直してくれる。
兄の優しい手が額に触れる。あたたかい……。
「兄貴がいるなら安心だな…俺は今日はソファで休むよ…。兄貴、途中で代わる…」
竜之介はそっと立ち上がり部屋を出て行った。

私は、瞼が重くなっていくのを止められなかった。



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