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最終章 少女と道化師の物語

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 「この喋り方はもしかして……!?」



 真緒とサタニア、二人による一撃は僅かながらロストの命までは届かなかった。しかし、深傷を負わせる事には成功し、それにより三人目のエジタスが目を覚まし、真緒達の前に現れた。



 『二人のお陰で他のエジタスみたいに、僕も表に出る事が出来たよ』



 主人格。道化師のエジタスや化物のエジタスの元であり、エジタスという存在が生まれる切っ掛けとなった人物。それまで真緒達の敵だったのだが、こうして改めて声を聞くと何故か分からないが、とても穏やかな気分になった。



 「そ、それでさっきの……“君達の行動は無駄じゃない”って言うのは……?」



 『あぁ、確かに君達の攻撃は届かなかった。だけど、そのお陰で僕が表に出る事が出来た。これで内に眠っていた三人のエジタス全員が目を覚ました事になる』



 「そ、それが……?」



 『つまり君達の勝ちは確定したって事なのさ』



 「……世迷い言を……」



 「「!!!」」



 二人が主人格のエジタスの話を聞いている中、それまで黙り込んでいたロストが呆れた様子で口を開いた。



 「主人格だからと警戒していましたが、“エジタス全員が目を覚ましたから、勝ちは確定している?” 冗談も休み休み言うべきですね」



 「「…………」」



 主人格のエジタスに申し訳無いが、真緒達も今回ばかりはロストの言葉に同意であった。道化師のエジタスや化物のエジタスが手を貸しても苦戦していたというのに、主人格のエジタスたった一人が加勢した所で、この状況が好転するとは思えなかった。



 『そう思うのなら試して見ると良い。君は必ず敗北する』



 「言われなくても、もう攻撃していますよ」



 「「!!!」」



 その時、真緒達の背後に超巨大なエジタスの体から伸びた複数の触手が現れ、真緒達目掛けて口から赤い液体を勢い良く発射した。



 しかし次の瞬間、真緒達はそれぞれ転移魔法で一瞬にしてその場から姿を消し、少し離れた場所へと姿を現した。



 「無駄ですよ。私にはあなた方が何をしようとしているのか、手に取る様に分かります」



 『…………』



 安心したのも束の間、超巨大なエジタスの体から鋭く尖った無数の骨が皮膚を突き破り、真緒達目掛けて飛んで来た。



 だが真緒達に当たる直前、超巨大なエジタスの体から肉の一部が伸び、盾となって真緒達を守った。



 「……しぶといですが、これを避けるのは不可能ですよ。“天からの雷”」



 そう言うとロストは、右手の人差し指を空に向けて突き上げる。すると指先から電気の様な物が迸り、空の彼方へと消えて行った。そして次の瞬間、空一面が暗雲に包まれた。



 「こ、今度はいったい何が起こるの!?」



 「さぁ、裁きを受けなさい!!」



 ロストが天高く突き上げていた人差し指を、真緒達に向けて指差した。その時、一瞬暗雲が光輝き、中から細長い一筋の光が真緒達目掛けて勢い良く落下して来た。



 「「!!!」」



 持ち前の危機感から、真緒達は咄嗟にその場から離れた。すると真緒達がいた場所に凄まじい爆音が鳴り響く。目を向けるとそこには、真新しい焦げ跡と炎が立ち上がっていた。



 「これってまさか落雷!!?」



 「あんなのをまともに食らったら、全身が丸焦げになっちゃう!!」



 真緒達が落雷に気を取られていると、ロストが透かさず真緒達に向けて人差し指で指差した。暗雲が光輝き、真緒達目掛けて落雷が襲い掛かる。



 「「!!!」」



 間に合わない。そう思った次の瞬間、再び真緒達は道化師のエジタスによる転移魔法でその場から姿を消した。



 するとロストは何を思ったか、誰もいない場所に向けて人差し指で指差した。暗雲が光輝き、雷が勢い良く落ちる。



 その瞬間、転移で姿を消した真緒達が姿を現した。しかしそこはあろう事か、つい先程ロストが雷を落とした場所であった。



 「言いましたよね。私はあなた方の動きが手に取る様に分かる。何処に転移させるかなど、朝飯前なのです。そして、これで終わりです!!」



 更にロストは真緒達が避けられない様に、真緒達の足下にある超巨大なエジタスの体を伸ばし、真緒達の足を拘束した。



 動きを封じられた真緒達。そして遂に落雷が真緒達に命中した。凄まじい爆音が鳴り響く。音が収まるとそこには、全身丸焦げの真緒とサタニアの姿があった。



 「所詮は浅ましい生命体の考え。私がちょっと本気になれば、造作もありません」



 真緒達を討ち滅ぼしたロスト。勝利の優越感に浸っていた。



 「……がふっ!!?」



 突然、口から血を吹き出した。いったい何が起こったのか、原因を探る。すると背後にロストの体を剣で突き刺す真緒とサタニアの姿があった。



 「な、何故……!? 確かにこの目で死んだのを確認した筈なのに……」



 『一度ならず二度も引っ掛かるとはな。情けないぞ?』



 「その口調は……そう……そう言う事ですか……」



 ロストは全てを理解した。すると種明かしをするかの様に、丸焦げになった真緒とサタニアの体が崩れ始め、只の肉の塊へと変わった。



 「私が殺ったと思ったのは、あなたが作り出した偽物……転移した直後に現れた為、すっかり騙されました……」



 『見事なコンビプレーだっただろ。伊達に二千年も一緒にいないという訳だ』



 『いや~ん、そんな事を言われると照れてしまいますよ~』



 『同じ声なんだから気持ち悪い喋り方をするな』



 「しかし分かりません。あの偽物を作るにしても、私がどんな攻撃を仕掛けるのか分かっていないとすり替える事は出来ません。何故、あなた方は私が落雷攻撃を仕掛けると分かったのですか?」



 『おいおい、もう忘れたのか?』



 『私達は二人じゃないんですよね~』



 「まさか……」



 『そうだよ。僕が二人に伝えたんだ。次、ロストは落雷攻撃を仕掛けて来るって……』



 「主人格……いえ、だとしても答えになっていません。何故、あなたは私の攻撃が分かったのですか?」



 『勿論、聞いたからさ』



 「聞いた……? いったい誰に?」



 『それは……君だよ』



 「え?」



 『僕はね、君自身から次の攻撃を何にするのか聞いたのさ』



 「何を言っているんですか……? そんなのあり得ません。私があなたに教えるなど……」



 『教えただなんて一言も言ってないよ。僕は“聞いた”と言ったんだ。そう、君の心の声をね』



 「!!?」



 『魂を持たない存在と言っても、考える頭が無いという訳じゃない。どんな猛者であろうと攻撃に転ずる前は、必ずどう攻撃しようか考える。僕はそれを聞いただけに過ぎないよ』



 「……私があなた方の動きを読み取れる様に……あなたも私の考えを読み取れていた……そう言う訳ですか……」



 『残念だけどそう言う事だね』



 「この二人を倒そうにも転移魔法で妨害され、動こうにも体の半分は自由を奪われ、更には思考も勝手に読み取られてしまう……何と不便な“器”なのでしょうか……」



 『気持ちは分かるけど、もう諦めた方が良いよ。所詮は魂を持たない存在。出来損ないなんだよ、君は……』



 「!!!」



 『さてと……お別れは済んだ事だし、殺っちゃって良いよ二人供』



 「ぐがぁああああ!!!」



 主人格のエジタスの言葉を切っ掛けに、真緒とサタニアは突き刺していた剣を動かす。



 「少し……可愛そうな気もしますが……皆の仇、取らせて貰います!!」



 「それじゃあ、さようなら!!」



 「こ、この糞生命体どもがぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 痛みを振り切り、ロストが真緒達に襲い掛かろうとする。しかし、それよりも早く真緒達がロストを細切れにした。バラバラになった肉片が次々と海面に落下していく。



 『この……まま……黙って終わってたまるかぁあああああ!!!』



 「!!!」



 その時、バラバラになったロストの一部がトゲの様に鋭く尖り、真緒目掛けて飛んで来た。



 「しまっ……!!!」



 完全に油断してしまった。倒したと思い込んでしまった。その僅か数秒の遅れが仇となり、ロストの放ったトゲを避ける事が出来なかった。



 「マオ!!!」



 「!!!」



 そんな真緒をサタニアが体当たりし、強制的に真緒をその場から退かした。しかし代わりにサタニアがロストの放ったトゲを食らってしまう形になった。



 「サタニア!!!」



 「あっ……がぁ……あぁ……マ……オ……」



 真緒はサタニアと目が合う。何かを訴えかけている様だが、それが何なのか真緒には分からなかった。もがき苦しんでいたサタニアだが、やがて静かになった。しかし先程までとは違い、俯いた状態でボーッと立ち尽くしており、妙に不気味な雰囲気を醸し出していた。



 「サタ……ニア……?」



 真緒が声を掛けると、サタニアは俯いていた顔をゆっくりと上げた。しかしその瞳は紫色に妖しく輝いていた。
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