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最終章 少女と道化師の物語

暴走

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 「はぁ……はぁ……もう駄目だ。これ以上、動けそうに無い……」



 そう言いながらシーラは、両手を広げて仰向けに倒れた。そして龍覚醒の効果が切れ、ドラゴンの姿から徐々に戻り始めた。



 「そうだ、早く死者復活の紙を手に入れないと……」



 「リーマ達も、あの世で待ちくたびれているかもしれないな」



 終わって早々、リーマ達を蘇らせる為に死者復活の紙を手に入れようとする真緒とフォルス。エジタスが埋まっている土塊の山へと向かった。



 「……という事は、あの土塊に埋もれているエジタスを掘り起こさないといけない訳か……ちょっと面倒臭いな……」



 一方、元の姿に戻ったばかりのシーラは、あんなに苦労して埋めたエジタスをもう掘り起こさなくてはいけないのかと、作業に非協力的だった。 



 「そんな事、言っちゃ駄目だよシーラ。僕達しか、あの土塊の山を掘り起こせる人がいないんだから、もう少しだけ頑張ろう?」



 「……分かりましたよ!! 分かりました!! やります!! やれば良いんでしょう!!」



 魔王であるサタニアの頼みを断る訳にもいかず、シーラは嫌々ながらも真緒達と一緒に土塊の山を掘り起こそうと体を起こした。



 その時だった。真緒達が掘り起こそうと近付いた土塊の山が、大きく揺れ動いた。



 「「「「!!?」」」」



 更に土塊の底から、獣の様な低くどす黒いうめき声が響き渡って来た。その声に合わせて、土塊の山も激しく揺れ動く。この光景を目にした一同は、一斉に嫌な予感が脳裏を過る。



 「お、おい……嘘だろ……」



 そう呟いた次の瞬間、土塊の山がまるで生き物の様に動き始めた。土塊に覆われた超巨大な腕が二本、超巨大な足が二本、四つん這いの体制で立ち上がった。そして覆われた土塊の隙間から赤く光る二個の目玉があった。土塊の中から獣の声が鳴り響く。



 「いったい何がどうなってるの!!?」



 「もしかして……ロストマジックアイテムの暴走……?」



 「どう言う事だ?」



 真緒には一つ心当たりがあった。それは前に一度、二代目魔王サタニア・クラウン・ヘラトス二世に起こった現象。



 「取り込んだマジックアイテムに体が堪えきれず、正常な形と思考を保てなくなってしまう……つまりエジタスは、ロストマジックアイテムに取り込まれたという事になります」



 「ちょ、ちょっと待ってよ!! そもそもエジタスがロストマジックアイテムを取り込んだのは、適応した体だったからじゃないの!?」



 「適応したと言っても、取り込まれないという訳じゃない。体の調子によっては、取り込まれても不思議じゃない」



 「じゃあつまりなんだ……私達がエジタスを瀕死の状況に追い詰めたから、こんな事態になった……そう言う事か!!?」



 「恐らくは……」



 などと、真緒達が考察を重ねている内に、暴走したエジタスはその場を離れ、海を渡って行ってしまった。



 「不味い、どっかに行ってしまうぞ!! どうする!!?」



 「分かりませんよ!! でも、とにかく止めないと!! あれがもし本土に降り立ったら、村や国がめちゃくちゃになっちゃう!!」



 「シーラ!! もう一度、龍覚醒でドラゴンに変身出来る!!?」



 「申し訳ありません魔王様……もう殆ど魔力が残っていません……」



 「じゃあフォルスさんとサタニアの二人で私達を持ち上げて……」



 「悪い……実は体が言う事をきかないんだ……」



 「ごめん……僕も誰かを持ち上げられる程、体力は残ってない……」



 「そんな……」



 頼みの綱であるシーラは、もうドラゴンになれない。フォルスとサタニアも、誰かを持ち上げられる程の体力は残っていない。こうしている間にも、エジタスは海を渡っている。完全なる詰みの状態。真緒達に残された道は無くなっていた。



 「「「「…………」」」」



 遂には黙り込んでしまった真緒達。数分前までは喜びの絶頂だったのが一変、絶望のどん底に叩き落とされてしまった。もう真緒達に打つ手は残されていなかった。



 「……?」



 その時、フォルスが顔を上げて辺りを見回し始める。



 「フォルスさん? どうかしたん「しっ!! 静かに!!」……えっ?」



 「…………」



 真緒に静かにする様、声を掛けたフォルスは、意識を両耳に集中させる。すると微かに、何かが波を掻き分けて近付いて来る音が聞こえて来た。



 「何かこっちに近付いて来るぞ!!」



 「もしかしてエジタスが戻って来た!?」



 「いや、エジタスの足音じゃない。もっと人工的な……そうこれは……“船”だ!!」



 地平線の彼方から、こちらに近付いて来る一隻の船。その速さは尋常では無く、明らかに別の動力で加速していた。



 『……ーい……』



 「今、何か聞こえなかった!?」



 『……おーい……』



 「船だ!! 船の上から誰かがこっちに手を振ってるぞ!!」



 『おーい!!』



 「あ、あれはまさか……!!?」



 その人物に真緒達は見覚えがあった。エジタスの館において、土壇場で裏切った人物。復讐よりも愛情を取った男、てっきり島が吹き飛ばされた際、一緒に死んだとばかり思っていた。海を愛する海賊。



 「「ジェド!!!」」



 「お前ら、助けに来たぞ!! さぁ、乗り込め!!」







***







 大海原。現在、真緒達は船の上にいる。船は海の向こうへと消えたエジタスを追い掛けていた。



 甲板には真緒達四人とジェド、それに作業している船員達がいた。そんな中、真緒とジェドの間には気まずい空気が流れていた。



 「「…………」」



 「お、おいフォルス。あんた、声掛けて来たらどうなんだよ?」



 「無茶言うなよ。マオから事情は聞いているが、それでもこれは当人達の問題。部外者が口出す訳にはいかない」



 「けどさ、このままじゃ……」



 「信じようよ、あの二人を……」



 「魔王様……」



 「きっと何とかなるよ」



 真緒とジェドの二人を信じて見守る三人。一方、真緒とジェドの二人は……。



 「(どうしよう……何て声を掛けたら良いか分からない!! あんな事があった手前、前みたいな感じで接する事が出来ない!!)」



 「(やっちまった……なんだよ“助けに来たぞ”って……真緒達を裏切った俺が助けに来たって……どんな皮肉だよ……ヤバい……今すぐ海に飛び込みたい……頭を冷やしたい……)」



 互いに意識してしまって、話すに話せなかった。そんな時、真緒は作業している船員達に注目した。



 「……気になるか?」



 「えっ、あっ、はい……」



 「……真緒達の事を裏切った後……俺は自責の念に駆られて……飛び出す様に島を出たんだ……」



 「島を出ていたんですか?」



 「あぁ、幸いにも岬に船が何隻か停まっていたから、一隻だけ拝借した。けど一人じゃ動かせなかったから、マイハニーに頼んで後押しして貰ったんだ。今だって、この船はハニーの水属性魔法で加速しているんだぜ」



 そう言いながら後ろの方を指差すジェド。そこには人魚の女王と他の人魚達が、水属性魔法を使って船を後押ししていた。



 「そうだったんですか……無事で良かったです」



 「……俺は後悔した……自分の愛する人をもう一度抱き締める為とはいえ、お前達を裏切ってしまった……」



 「ジェドさん……」



 「だから俺なりの償いとして、仲間を集めたんだ。お前達の足跡を辿ってな」



 「足跡を辿った?」



 「気づかないか、ここにいる船員は全員……マオ、お前達と面識がある奴らなんだぜ」



 「!!!」



 真緒は漸く理解した。何故、船員達の事が妙に気になったのか、それは一度会った事があるからだ。ロストマジックアイテムを巡る旅で、これまで真緒達が会って来た村人達や街の人々が皆、真緒達の為に動いてくれた。



 「マオ……本当にすまなかった!!」



 頭を下げるジェド。



 「許してくれなんて図々しい事は言わない。だけどこれだけは言わせてくれ、俺はお前の為だったら何だってする覚悟だ。命だって張ってやる!!」



 「ジェドさん……ありがとうございます」



 そう言うと真緒はジェドに握手を求める。そしてジェドはその手を取って、握手を返した。



 「どうやら丸く収まったみたいだな」



 「み、皆……見てたの?」



 「このまま無言で、エジタスの所まで行くのかと思ったよ」



 「でも、無事に仲直りが出来て良かったね」



 「……うん」



 「さてと、そろそろ見えて来る筈だ。確り準備しておけよ。これから俺らが相手するのは、一年前とは比べ物にならない化物なんだからな」



 「行こう……今度こそ、エジタスとの決着を付けるんだ!!」



 そうして真緒達は、エジタスとの決着を付ける為、闘志を高まらせるのであった。
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