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第十章 冒険編 反撃の狼煙

道化師の願い

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 「ど、どうして……道化師のエジタスがここに!!?」



 真緒達は目の前で起こった出来事に、驚きの表情を隠せなかった。それもその筈、道化師のエジタスは真緒とリーマがその手で直接倒したのだから。



 主人格のエジタスの話から、道化師のエジタスと化物のエジタスの二人は死者復活の紙を使っても、蘇る事は出来ない。にも関わらず、平然と目の前にいるので、頭が混乱していた。



 「主人格の方が嘘を付いていた……そういう事か?」



 「にしては……本人も驚いているみたいだけど?」



 顔が無い為分かりづらいが、真緒達と同様に主人格のエジタスも驚いている様子だった。更に道化師のエジタスの手によって付けられた、赤黒い物体が徐々に全身へと侵食していき、今にも取り込まれてしまいそうになっていた。



 「ど、どういう事だい? 確かに君は……剣で貫かれた筈……」



 「あぁ、もしかして……これの事ですか~?」



 そう言うと道化師のエジタスは、指をパチンと鳴らした。すると真緒達の目の前に、首が無く胴体に穴が空いた奇妙な死体が現れた。



 「これは……?」



 「この死体に見覚えありませんか~?」



 「首の無い死体……まさか!!?」



 その時、真緒は気が付いた。これまでの戦いの中、首が無くなった哀れな死体が存在していた事に。その人物は死者復活の紙を燃やしてしまった事で、道化師のエジタスによって殺されてしまった間抜け……。



 「えぇ、“マントン”さんですよ~」



 「「「「「!!!」」」」」



 「ほんと、皆さん単純ですよね~。この死体に、着ている服と仮面を着けただけで、私だと勘違いしてしまうんですから~」



 「じゃあ……最後の……上からの攻撃……あれは……?」



 「死体に無理矢理ナイフを握らせ、重力に任せて落下させただけですけど~?」



 「っ!!! だからあんな簡単にカウンターを決められたんだ……」



 道化師のエジタスによる、転移を使ったすり替えトリック。真緒達はまんまと引っ掛かってしまった。



 道化師のエジタスが生きていたという事は、自ずと“もう一人のエジタス”についても気になり始める。



 「お前が生きているという事は、まさか化物のエジタスの方も生きているのか!!?」



 「おやおや~、どうやら皆さんの目は節穴の様ですね~」



 「どういう意味!!?」



 「生きているも何も……既に皆さんの目の前にいるじゃないですか~」



 「「「「「!!?」」」」」



 道化師のエジタスから告げられた衝撃の言葉。真緒達は慌てて辺りを見回すが、それらしい人影は見当たらなかった。すると道化師のエジタスが深い溜め息を漏らす。



 「もぉ~、皆さん何処に目をやっているんですか~? 目の前だって言ってるじゃありませんか~」



 そう言う道化師のエジタスが向けた目線の先には主人格のエジタスと、その体を侵食している“赤黒い物体”しかなかった。



 「目の前って……まさか嘘だろ……?」



 「そのまさかですよ~。この赤黒い物体こそ、あなた達が探している化物の方のエジタスなんですよ~」



 「「「「!!!」」」」



 「ぐぐっ……やっぱりそうか……何となくそんな気はしてたけど……こんな小さくなってしまうなんてね……」



 「彼なりに考えた偽装工作なんだと思いますよ~。体の一部だけを切り離し、残りは自爆。時間は掛かりますが、確りと再生出来ますからね~」



 「骨肉魔法が禁じられた理由が分かった気がするよ……」



 「全くです。まぁ、そのお陰で存分に利用する事が出来たんですけどね~」



 「利用……いったい何をするつもりなんですか!?」



 「少なくとも主人格を助けに来た様には見えないな」



 「いえいえ、助けに来たんですよ~。但し、皆さんが思っている様な助け方では無いのは確かですけどね~」



 「そうか……君の狙いは……“同化”か……」



 腹の探り合いの中、主人格のエジタスが答えに辿り着いた。すると道化師のエジタスは主人格のエジタスの顔を覗き込みながら口を開く。



 「大正解~」



 「同化って……どういう事ですか?」



 「言葉……通りの意味さ。元々、僕達は三人で一人だった。それを無理矢理離したから、戦力としては強くなったけど……個人としては弱くなってしまった……」



 「つまり、今一度バラバラになってしまった三人を一人に戻し、真のエジタスに戻るんですよ~」



 「「「「!!!」」」」



 「まぁ、最も……表に出るのは私一人だけですけどね~」



 「それってつまり……?」



 「彼は……自分が主人格に成り代わろうとしているんだよ……」



 「主人格に!!? で、でもそれに何の意味が?」



 元の一人に戻れば、一年前の強さを取り戻せる他、取り込んだロストマジックアイテムの力によって、神にも等しい強さになる。しかし、そこで道化師のエジタスが主人格となり、他の二人を表に出さない理由が分からなかった。



 そんな中、主人格のエジタスだけがその理由に気が付いていた。



 「……まだ諦めていなかったんだね……」



 「諦める? そんな事、出来る訳が無いじゃないですか……」



 それは初めて見せる姿。いつも間延びした口調だった道化師のエジタスが、確りとした口調で喋っていた。



 「いったい何を諦めてないんですか……?」



 「……いい機会ですね。特別に教えてあげましょう。私の真の目的についてね……」



 張り詰める緊張感。真緒達は思わず唾を飲み込んだ。



 「皆さんには“生きる目的”はありますか?」



 「生きる目的?」



 「世界を旅したい。美味しい物を食べたい。大魔法使いになりたい。大空へと羽ばたきたい。どんな生き物にも、生きる目的というのは存在します」



 「は、はぁ……?」



 「そして当然、私達にも生きる目的がありました。それは……“笑顔の絶えない世界”を作り上げる事……しかし一年前、その目的は見事に打ち崩されてしまいました。そんな中、主人格は自分の生きる目的を思い出した……」



 そう言いながら道化師のエジタスは、主人格のエジタスと肩を組む。



 「“誰かに側にいて欲しい”。それこそが主人格である彼の生きる目的だった。一方、道化師の私と化物の彼はというと……何も無かった」



 主人格のエジタスの体を侵食している赤黒い物体を優しく撫でる。



 「私達は本来生まれる筈の無かった存在。生きる目的など持ち合わせてはいませんでした。そんなこんなで一年後、死者復活の紙で蘇った訳ですが……ここで思わぬ出来事が起こってしまった……」



 道化師のエジタスはナイフを取り出し、化物のエジタスである赤黒い物体に切れ目を入れる。その瞬間、傷は瞬く間に治って閉じた。



 「何故だが分かりませんが、彼は生きる目的を見出だしたのです。そう、それが“理想国家”の実現……」



 「それじゃあ、理想国家の話は……」



 「彼が独断で始めた事ですよ。私はそれを手伝っただけ……」



 明かされる新事実に、真緒達の頭はパンク寸前だった。



 「そもそもが“笑顔の絶えない世界”は、育ての親である“オモト”の生きる目的だった。私達はそれを叶えようとしただけに過ぎない。つまり、私達自身の生きる目的では無かった。そんな中、主人格、そして化物の二人は自分だけの生きる目的を見つけ、行動し始めた……そして私はというと……」



 すると仮面を外し、自分の顔と見合わせる。



 「……何も無かった」



 「「「「「…………」」」」」



 「私なりに見つけようと思いました。でも、どれもしっくりと来ない。その度に感じるのは疎外感。三人で一人の筈なのに……どうしてこうも違うのか……からっぽ……私の中には何も無い……お笑い草ですよね。人々を笑わせる筈の道化師が……人々に笑われる……これじゃあ道化師じゃなくてピエロだ……」



 「エジタス……」



 「だから考えた。どうすれば生きる目的を見つけられるか。その為にまず、バラバラになってしまった私達を元に戻し、そして私が真のエジタスとして活動する。そうすれば、自然と生きる目的が見つけられるのでは!?」



 「生きる目的……それを見つける為に……?」



 「えぇ、それが……道化師である私の願いなのですよ。そして今、私の願いは叶えられる!! 見なさい!!」



 「「「「!!!」」」」



 道化師のエジタスが見つめる視線の先には、化物のエジタスによって完全に取り込まれてしまった主人格のエジタスの姿があった。



 「そしてこれが最後の仕上げです!!」



 そう言うと道化師のエジタスは、自らの両手を主人格を取り込んだ化物のエジタスに突っ込んだ。すると化物のエジタスである赤黒い物体は、主人格のエジタスだけで無く、道化師のエジタスも一緒に取り込み始めた。



 「さぁ、特と見なさい!! “エジタス”の復活です!!」



 道化師のエジタスも取り込まれ、赤黒い物体は小さく凝縮し始める。極限まで小さくなった次の瞬間、全体にヒビが入り、中から赤黒い液体が止めどなく溢れ出して来た。



 「こ、これは!!?」



 そして遂に赤黒い物体は完全に砕け、中の物が姿を見せた。



 人なのか、それとも亜人なのか、はたまた魔族なのか、ほっそりとした体型に全身紫色で肌の所々が割れており、中から赤い閃光がまるで血管の様に脈打っていた。腕が四本あり、それぞれ人の様な手であったり、鋭い爪を持った亜人の様な手など、異なっていた。背中には鳥人の様な翼と虫の様な羽が生え、下半身には足が無く、タコの様に触手が何本も生えていた。そして顔には仮面が付けられていた。笑顔ではあるが、いつも見ている様な物では無く、酷く歪な笑みを浮かべていた。



 「改めて自己紹介しよう。私こそが全知全能にして、生物の頂点に君臨する存在……道楽の道化師……“エジタス”と申しま~す……」
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