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第十章 冒険編 反撃の狼煙

悪夢

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 “僕”は真っ暗な空間に一人、佇んでいた。何故、自分がこんな所にいるのか、ここがいったい何処なのか。そんな事、今の僕にはどうでも良かった。



 この真っ暗な空間にいると、これまでの自分を見つめ直す事が出来た。同姓で道化師である男を心の底から愛した結果、裏切られ、見捨てられた。だが、それでもその男の事を愛し続けた。そして遂には、自分と同じ人を愛する者と一緒に、自らの手で愛する男を死に追いやった。



 男は世界をめちゃくちゃにしようとしていた。だから阻止する為に手を掛けた。それが正しい行いだと信じて。



 それから一年、大切な仲間を失いながらも、何とか前に進んで暮らしていた。けど、いつも考えてしまう。あの楽しかった日々に戻れたらと……。そんな時、男を神として崇める集団が良からぬ事をしていると耳にした。



 掴み取った平和を守る為か、はたまた自分が愛した男をもっと深く知りたかったのか、きっと両方なのだろう。気が付けば、率先して調査に赴いていた。



 調査の果てに、人を蘇らせるマジックアイテムが存在する事が分かった。当初こそ、一度きりの人生に無理矢理二度目の命を与えるというのは、倫理的にどうかと思った。けど、もし本当にそんなマジックアイテムが存在するのなら、使ってみたいと思ったのも事実だ。



 そして……その想いが最悪の結果を生む事になった。



 見つめ直せば直す程、世界を殺戮と恐怖に陥れる原因を生み出してしまった罪悪感に、押し潰されそうになっていた。



 出来る事なら、過去に戻ってあの日の自分を殺してでも止めてやりたい。だが、そんな事を言っても意味は無い。



 自分には最早、この状況を素直に受け入れる他、道は残されていない。



 そう何度も何度も同じ自問自答を繰り返し、その度に自己嫌悪に苛まれていた。するとその時……。



 「…………?」



 真っ暗な空間に光が差し込んだ。眩しい、けど暖かい。もっとこの光を浴びていたい。もっと、もっと側へ。差し込んでいる光の方へと手を伸ばした。すると、声が聞こえて来た。何て言ってるのかは分からない。だけど心地好い、ずっと聞いていたい、そして何処か懐かしい声だった。



 やがて光が全身を包み込んだ。







***







 「……タ……ア……サタ……ア……サタニア……サタニア、目を覚まして!!」



 二代目魔王によって、見事初代魔王に打ち勝った真緒。更に避難した先で、ハナコとリーマの二人と偶然再会する事が出来た。



 しかし、戦いが無事に終わったというのに、サタニアの意識は戻らなかった。もう縛り付ける首輪は無い。にも関わらず、目覚めない。真緒は、必死にサタニアの体を揺すって、何度も呼び掛ける。



 「サタニア、お願い!! 目を覚まして!!」



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……」



 ハナコとリーマの二人が見守る中、真緒が懸命に意識を呼び戻そうとするが、一向に反応は無かった。



 「サタニア……」



 もしかして死んでしまったのでは。最悪の展開が脳裏を過り、悲しさのあまり涙が頬を伝って、サタニアの顔に落ちる。その瞬間、サタニアの瞼がピクピクと反応した。



 「ん……んん……」



 「サタニア!!? サタニア!!」



 「「!!!」」



 サタニアが無事に目を覚ました事に歓喜する三人。真緒は目覚めたばかりのサタニアを強く抱き締める。



 「マオ? どうして泣いてるの?」



 「何でも無い。本当に無事で良かった……」



 目が覚めてからの突然の状況に困惑するサタニア。その一方で、今度は嬉しさのあまり涙を流す真緒であった。







***







 “私”は真っ暗な空間に一人、佇んでいた。そして瞬時にこれが夢である事を理解した。何故なら、今の私は子供の姿になっているからだ。それにこの夢を見るのは、何も初めてという訳じゃない。



 冷静に状況を分析していると、こちらに近付いて来る足音が聞こえて来た。何の気なしに音のする方に顔を向けると、そこには血塗れの状態で、手を伸ばして来る男の姿があった。



 普通の女性であれば、悲鳴なりを上げるのだろうが、残念ながらそうはならなかった。何故ならその男に見覚えがあったからだ。



 「……お父さん……」



 「逃げろ……逃げるんだ……」



 そう言うと父は足下に倒れ、事切れてしまった。その瞬間、真っ暗な空間は炎に包まれる村の光景へと様変わりした。



 勿論、夢の中である為、直接火に触れても全く熱くない。が、その見た目と燃える音は間違いなく本物だった。



 すると近くで燃えていた家の柱がバランスを崩し、こちらに目掛けて倒れて来た。慌てて避ける所なのだろうが、わざと避けずにじっとした。もうこの後の展開を知っている。



 柱に押し潰されそうになった次の瞬間、一人の女性が突き飛ばして身代わりとなった。この女性にも見覚えがあった。



 「……お母さん……」



 「生きて……生きるのよ……」



 柱に挟まれて動けない母。やがて炎に包まれ、苦しみながら絶命した。父と母の死体を前に、呆然と立ち尽くした。悲しみからか、それとも何度も見て見飽きてしまったからなのか、もしくはその両方か。



 しばらくすると、一人の男が近付いて来た。こんな放心状態の子供を見て不憫に思ったのか、男は自分が面倒を見て上げようと言った。当初こそ、この申し出に喜んだ。しかし、今となっては悪手だったとも言える。が、今更後悔した所で意味は無い。



 忘れない。絶対に忘れない。この光景。受けた痛みと苦しみ。失った父と母の恨み。そして果たすべき目的。



 燃え盛る村は消え、再び真っ暗な空間に一人、佇んでいた。光が差す事は無く、深い闇へと沈んでいく。いつも完全に沈みきった所で目が覚める為、恐らく今日もそうなるだろう。



 やがて闇が全身を包み込んだ。







***







 目が覚めるとソファの上で横になっていた。気分が悪い。悪夢から目覚めた時はいつもこうだ。こめかみを強く押しながら深呼吸をする。



 「お目覚めですか~?」



 目の前にはエジタスが立っていた。こいつの仮面を見ると、頭痛がして来る。人の事を小馬鹿にした表情が、気分を更に悪くする。



 「人の寝顔を盗み見るとは、悪趣味だな」



 「いや~、あんまりに可愛らしい寝顔だったので、ついつい見入ってしまって~」



 心にも無い言葉。照れ臭そうに頭を掻くのが、よりわざとらしく感じた。が、今更気にしても仕方がない。



 「それで? いったい何の用だ?」



 「そうそう、マオさん達が侵入してから約二時間が経過しているじゃないですか~? ちょっと様子を見に行って下さいませんかね~?」



 「人使いが荒いな。自分で行けば良いじゃないか。何の為の転移魔法だ」



 「いや~、そうしたいのは山々なんですけど~。今、ちょっとここを離れられない事情がありまして~」



 「事情って?」



 「それは秘密ですよ~。兎に角、見回りの件は任せましたよ~、“ロージェ”さん」



 「あっ、ちょ、待て……」



 そう言うとエジタスは、制止する声を無視して、その場を去って行った。深い溜め息を漏らし、重い腰を上げながら立ち上がった。



 「仕方ない。行くか……」



 嫌々ながらも、屋敷の見回りへと向かった。エジタスの魔法によって、迷宮と化してはいるが、特定の部屋はいつでも戻れる様に固定されている。だから正しい順番で部屋を開けて行けば、迷わずに屋敷内を回る事も可能。



 「ここは確か……初代勇者達の担当だった筈だけど……」



 部屋を開けると、そこには初代勇者であるコウスケと、そのパートナーであるアーメイデの死体があった。



 「…………」



 どうやら状況はロージェが思った以上の様だった。二人の死を確認すると、静かに部屋を後にするのであった。
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