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第十章 冒険編 反撃の狼煙

成れの果て

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 「“エンドレス・ブリザード”」



 「「!!!」」



 その瞬間、部屋全体が激しい吹雪に包まれ、瞬く間に床や壁が凍り付いていく。このままでは自分達も凍り付いてしまうと、二代目魔王は両手を広げて魔法を唱える。



 「“カオスフレイム”!!!」



 すると今度は部屋全体が激しい熱風に包まれ、吹き荒れていた吹雪とぶつかり合い、相殺した。その様子に初代魔王は感心していた。



 「ほぅ、マジックアイテムを取り込んだ事で、以前とは比べ物にならない程、魔法の威力が上がっているな。だが……“カース・スカル”」



 そう言うと初代魔王の背後に、巨大な紫色の頭蓋骨が出現する。そして次の瞬間、真緒達目掛けて紫色の頭蓋骨が放たれる。しかしその動きは遅く、それこそあくびが出る程であった。拍子抜けの攻撃に、真緒が安堵していると、二代目魔王が声を荒げる。



 「それに触れちゃいけない!! それは即死攻撃だ!!」



 「えっ!!?」



 二代目魔王の言葉に、真緒は慌てて避けようとするが、紫色の頭蓋骨は真緒の後を追い掛けて来る。真緒が右に動けば、紫色の頭蓋骨も右に動き、真緒が左に動けば、紫色の頭蓋骨も左に動く。必要以上にしつこく追っ掛けて来る。



 「駄目だ!! それは追尾式で対象に当たるまで追い掛けて来る!!」



 「それじゃあ、いったいどうしたらいいんですか!?」



 「そいつは光が弱点なんだ!! 光属性魔法で応戦するんだ!!」



 「っ!!!」



 足を止めて振り返る。触れたら最後。異様な緊張の中、真緒は魔法を唱えた。



 「“ホーリーソード”!!」



 二本の剣に光属性魔法を付与し、迫り来る紫色の頭蓋骨目掛けて勢い良く振り下ろした。すると手応え無く、まるで煙の様にフワッと、消えてしまった。



 「ふぅ……何とかなりましたね……」



 「危ない!! 後ろだ!!」



 「!!?」



 「スキル“ヘルブラスト”」



 安心したのも束の間、そのすぐ後ろに初代魔王が近付いていた。急いで振り返る真緒だったが、振り返った瞬間、初代魔王の燃え盛る拳によって、吹き飛ばされる。



 「ぐふっ!!!」



 咄嗟に二本の剣でガードした事により、何とか軽傷で済んだ。



 「その剣……貴様がそれを持っているという事は、どうやら我が最大の宿敵は破れ去ってしまった様だな。しかしその様子じゃ、まだ使いこなせていないか」



 「……っ!!!」



 図星を突かれ、顔を強張らせる真緒。



 「それにしても情けない奴だ。まさかこんな小娘なんかに遅れを取るとは、所詮は人間という下劣な種族の一人にしか過ぎなかった訳か……」



 初代勇者であるコウスケが殺られた事を察した初代魔王。これでもかと言わんばかりに蔑んだ。するとその言葉に真緒は言い知れぬ怒りが湧いた。それは同じ人間として種族を馬鹿にされた事に対しての怒りなのか、それともコウスケと直接渡り歩いた真緒だからこそ、その故人を馬鹿にされる事が許せなかったのか。



 「どうして……どうしてそこまで人間を蔑むんですか!?」



 「知れた事を。人間など、我ら魔族と比べても数倍劣っている。そんな奴らを蔑むのはごく自然な事なのだよ」



 「それは間違っている!! あなただって知っている筈です!! 人間の中には、コウスケさんの様に優秀な存在がいる事を!! 現にコウスケさんは、あなたと互角に戦っている!!」



 「確かに……そうした側面もあるかもしれない。だが、それを差し引いても人間は愚かで下劣な種族だ!! 我ら魔族が人間達にどんな仕打ちを受けて来たのか、貴様は知っているのか!!?」



 「そ、それは……」



 「では教えてやろう。我が魔王として君臨する以前、魔族は人間、亜人からずっと迫害され続けていたのだ」



 「え?」



 信じられない話に、二代目魔王の方に目線を送ると、悲しそうにわざと真緒との目線を反らした。その瞬間、真緒はこの話が事実である事を確信した。



 「理由は単純明快。人間とは異なる見た目と獣に近い知性。そう、先に見下したのは貴様ら人間の方だ」



 「…………」



 「何の罪も無い魔族を殺し、それを遊戯感覚で楽しんでいた。あの時の人間達の姿は、悪魔よりも悪魔らしい姿だった」



 「…………」



 「だから我が魔王として立ち上がったのだ。この不条理な世界に復讐する為に。我ら魔族が生物界の頂点に立ち、他種族を支配してやるのだ。そして、魔族にとって幸せな世界を作り上げる」



 「……魔族が辛い人生を送って来たのは分かりました。でも、あなたは間違っている」



 「何だと?」



 初代魔王の話を聞き終えた真緒。同情しつつも、その考え方を否定した。



 「見下されたから見下し返すんじゃ、永遠に負の連鎖は終わりません。それにあなたは魔族の為と言っていながは、自分の家族ですら大切にしていないじゃないですか」



 「マオ君……」



 「一人の父親として、息子と孫を幸せに出来ないのに、魔族にとって幸せな世界だなんて、そんなの絵空事ですよ!! へそで茶が沸かせちゃいますよ!!」



 「黙れ!! 他人が人の家庭に口を出すんじゃない!!」



 「その他人に言われてしまう程、あなたの言っているとやっている事は矛盾しているんですよ!!」



 「黙れと言っているだろうが!!」



 「!!!」



 真緒に正論を叩き付けられ、逆ギレした初代魔王は、真緒との距離を一瞬で縮め、殴り掛かる。咄嗟にガードする真緒だが、初代魔王の猛攻に防戦一方で、反撃に出られなかった。



 「くっ……!!!」



 「人間の分際で、この我に説教とはな!! せいぜいあの世で後悔するが良い!!」



 「うぉおおおおおおお!!!」



 「ヘラトスさん!?」



 「僕が相手だ!!」



 すると二代目魔王が、二人の間に割り込んで来た。



 「出来損ないが……調子に乗るなよ!!」



 初代と二代目の激しいぶつかり合い。物理、魔法による攻防が続く中、真緒が初代魔王目掛けて一撃を叩き込む。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「がふっ!!!」



 その一撃は初代魔王に片膝を付かせる程、強力だった。ブレイブソードによるパワーアップを実感している中、初代魔王は攻撃を受けた脇腹を押さえていた。



 「やるではないか……そうこなくては面白くない。“ダークソード”」



 すると初代魔王は闇属性魔法から、紫の剣を生成した。が、問題はその大きさにあった。



 「デ、デカイ……」



 部屋の半分以上はあるであろう大きさ。そして、それを軽々と持ち上げる初代魔王も凄い。



 「だ、大丈夫……あんなの大きいだけさ。第一、振り回せるかも怪しいよ」



 「消し飛べ」



 そう言うと初代魔王は、超巨大な剣を軽々と振り回した。真緒達は、慌ててその場にしゃがみ込む事でこれを何とか回避した。そんな中、初代魔王は指をパチンと鳴らした。



 「い、今のいったい?」



 「気にする事は無い。とにかく今はあの剣に当たらない様に動くしかない」



 「果たしてそう上手く行くかな?」



 「何だって?」



 「ヘラトスさん!!」



 真緒の声に反応して振り返ったその時、二代目魔王の体に黒い槍が突き刺さる。そこに立っていたのは、首輪で操られているサタニアだった。



 「ぐっ……」



 「哀れだな。一度ならず二度までも自分の息子に刺されるとは」



 致命傷は避けられたが、思わぬ伏兵に真緒達は危機的状況を迎えていた。



 「(初代魔王を狙えば、サタニアに後ろから攻撃される。かと言って、操られているサタニアに攻撃なんて出来ない。いったいどうしたら……)」



 「マオ君……心配しなくても……大丈夫だよ……」



 真緒がどうすれば良いか悩んでいると、二代目魔王が優しく声を掛けた。



 「全部僕に任せて……」



 「でもその怪我じゃ!!?」



 「まだ僕には奥の手がある……!!」



 そう言うと二代目魔王は突然走り出し、床に置いてあった煙を出し続けるマジックアイテムの壺を手にする。そして次の瞬間、それを体の中に取り込んだ。



 「「!!?」」



 このあまりに予想だにしない行動に真緒と初代魔王は、驚きの表情を浮かべる。そんな中、二代目魔王の体は異形へと更に変化し始める。



 両腕はまるで甲殻類のハサミの様に硬くなり、頭は脳ミソの様にぶよぶよとした弾力を持ち、そして体はアメーバの様にどろどろになった。



 「き、貴様正気か!!?」



 さすがの初代魔王も、二代目魔王の奇行に恐怖を感じていた。



 「おぶ……ぶぁ……ぶぅ……」



 「マジックアイテムを取り込んだ成れの果てか……最早、知性すら無くしたか。だが返って好都合!! このまま消し飛ばしてくれるわ!!」



 「ヘラトスさん!!」



 すると初代魔王は、化物になった二代目魔王目掛けて超巨大な剣を勢い良く薙ぎ払った。そして……。



 「ぷぅ」



 「!!?」



 次の瞬間、初代魔王の体に大きな風穴が空くのであった。
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