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第十章 冒険編 反撃の狼煙

真緒パーティー VS 天災竜(後編)

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 『シュオオオオオン!!!』



 天災竜の周りを漂う黒い雨雲から、真緒達目掛けて一筋の光が放たれる。



 「避けるんだ!!」



 フォルスが叫ぶ。その声に従い、ドラゴンは急旋回し、放たれた光を避ける。



 「あんなのに当たったら、あっという間に黒焦げになってしまうぞ!!」



 「それなら放たれる前に、懐に潜り込んじゃいましょう!!」



 そう言うと真緒はドラゴンを操縦しながら、天災竜へと一気に間合いを詰めて行く。が、天災竜の側に近寄った次の瞬間、ビリリと真緒達の全身を電流が流れる。



 「こ、これは!?」



 慌てて離れ、よく目を凝らして見ると雨雲全てに電流が流れていた。



 「どうやら天災竜が漂わせている雨雲は、自己防衛も出来るらしい」



 「これじゃあ不用意に近付けません」



 「いったいどうしたら……危ない!!」



 『シュオオオオオン!!!』



 思案を巡らせていると、天災竜が雄叫びを上げる。そして真緒達目掛けて複数本の雷が打ち込まれる。



 何とか紙一重で避けているが、雷が真横を通り過ぎる度、肌に痛みが一瞬だけほとばしる。



 「助かった……けど、いったいどうしたら良いの……」



 「……離れれば雷に打たれて黒焦げ。近付けば雷で痺れ、身動きが取れなくなってしまい、結局雷に打たれて黒焦げになってしまう」



 「八方塞がりですね……」



 「……そうだ!!」



 万事休すかと思われたその時、真緒の頭に妙案が思い浮かぶ。



 「ドラゴンにはドラゴンだよ!! 近付いて攻撃が出来ないのなら、離れた位置からドラゴンに炎を吐いて貰えば良いんだよ!!」



 「成る程、確かに一理ある。それだけで本当に上手く行くのか?」



 「信じましょう。このドラゴンだって、私達の仲間なんですから」



 真緒が優しく頭を撫でる。ドラゴンは気持ち良さそうに目を細め、喉を鳴らす。



 「分かった、やろう。危険は元々だ」



 「ドラゴン……お願い」



 『グォオオオオオ!!!』



 真緒の言葉に応える様に、ドラゴンは天災竜の周りを一定の距離を保ちつつ、大きく旋回し始める。



 「まだだ……絶好の機会を狙え……」



 相手の出方を伺う真緒達。緊張の汗が流れる。そして遂にその時がやって来た。



 『シュオオオオオン!!!』



 「来るぞ!!」



 「…………あれ?」



 飛んで来るであろう雷に警戒する真緒達。しかしいつまで経っても、雷が放たれる気配は無い。



 「……いったいどういう事だ? 何故、雷が飛んで来ない?」



 「もしかして、只雄叫びを上げただけ?」



 「いや、何か妙だ……っ!! 上だ!!」



 「「「!!?」」」



 見上げるとそこには、先の尖った無数の雹が真緒達目掛けて降って来ていた。



 「急いで避けて……」



 「駄目だ、間に合わない!!」



 当たると思われた次の瞬間、ドラゴンが降り注ぐ雹目掛けて炎を吐いた。いくら尖っていようが、所詮は氷。炎に触れた瞬間、溶けて水に戻った。



 「た、助かった……」



 「凄い……凄いよドラゴン!!」



 『シュオオオオオン!!!』



 喜ぶのも束の間、再び天災竜の雄叫びが響き渡る。



 「くそっ、今度は何だ!?」



 すると天災竜の周りを漂っていた雨雲が、一つに固まり始めた。そして次の瞬間、猛烈な吹雪が真緒達目掛けて吹き荒れた。



 「吹雪か!!!」



 「只の吹雪じゃない。微妙に雨も混じってる。そのせいか、通常よりも早く固まっちゃう!!」



 凍てつく様な寒さに襲われ、徐々に体力を奪われる真緒達。



 「オラ……何だが眠ぐなっで来だだぁ……ZZZ……」



 「寝るな!! 寝たら死ぬぞ!!」



 中には急激な睡魔に襲われる者までいた。



 「このままじゃ、全員凍え死ぬ!! 急いで吹雪の間合いから離れるんだ!!」



 「それが……さっきからやっているんですが、どうやらあの雨雲……追い掛けて来ているみたいなんです!!」



 「な、何だと!?」



 気が付けば、既にドラゴンは吹雪から逃れようと上下、前後左右と動き回っていた。にも関わらず吹雪を避ける事が出来ない。それは天災竜がまるで指揮者の様に雨雲を自由自在に操っているからだ。



 「でも大丈夫です!! 相手が吹雪ならもう一度、ドラゴンの炎で……「それは駄目だ」……えっ?」



 ドラゴンに炎を吐いて貰い、この窮地を脱しようとする真緒。しかしそれをフォルスが止めた。



 「ドラゴンにこれ以上、炎を吐かせては駄目だ」



 「そんな!? いったいどうしてですか!?」



 「分かったんだよ。奴の狙いが」



 「奴の狙い?」



 「奴はわざとドラゴンに炎を吐かせて、体力を消耗させるのが目的だ」



 「「「!!!」」」



 「炎を吐くのだって体力がいる。無限に吐き続けられる訳じゃない。それにさっきの雹や、この吹雪はどちらも炎が弱点の攻撃だ。どう考えても炎を吐かせるのが狙いだ」



 「けどこのままじゃ……」



 「…………」



 真緒の言う通り、このままでは凍死してしまう。例え敵の狙いが明白だとしても、それ以外助かる道が無いのなら、敵の誘いに乗らなくてはならない。



 「……分かった、俺が何とかする」



 「フォルスさんが!? いや、でもこの悪天候じゃ、飛べないんじゃ……」



 「誰も飛べないとは言っていない。悪いが少しの間、囮になってくれ。その間に俺があの雨雲を対処しよう」



 「フォルスさん、きっと無事に帰って来て下さい」



 「当たり前だ」



 必ず戻ると約束し、フォルスは翼を広げて大空へと羽ばたいた。しかし吹き荒れる強風に巻き込まれ、上手く飛べない。



 「くっ……!!」



 「フォルスさん!!」



 それでも何とか体制を立て直し、嵐の中でも飛び続ける事には成功した。



 「やった!!」



 「でもあそこからどうするんでしょうか?」



 「……はぁあああああ!!!」



 するとフォルスは、その場で回転し始めた。次第に回転の勢いは増していき、遂には小規模な竜巻を発生させた。



 「あれは確か、魔王サタニアとの戦いで使った技!?」



 「でも、この突風が吹き荒れる中では矢を放っても意味がありませんよ!?」



 「行くぞ!! “サイクロン”!!」



 真緒達が不安に思う中、フォルスは自身の回転に風属性魔法を加え、竜巻の規模を更に大きくした。そしてそのまま天災竜目掛けて突っ込んでいく。



 「うぉおおおおお!!!」



 「ま、まさか!? あのまま正面衝突するつもりじゃ!?」



 「嘘!? そんな事をしたら、フォルスさん自身も危ないのに!! フォルスさん!! 止めて下さい!!」



 真緒が必死に制止の声を呼び掛けるも、フォルスは聞く耳を持たなかった。



 「(どうやら俺のやろうとしている事に気が付いたみたいだな。悪いが止めるつもりは無い。この戦い、俺は何の役にも立てないと思っていた。けどそうじゃなかった。仲間の危機を救う事が出来るのなら命の一つや二つ、安いもんだ!!)」



 『シュオオオオオン!!!』



 だがその時、天災竜が雄叫びを上げる。するとそれまで吹雪を吹き荒らしていた雨雲がピタリと活動を止め、天災竜の下へと戻った。



 「(何をするつもりだ!?)」



 『シュオオオオオン!!』



 再び、天災竜が雄叫びを上げる。すると今度はそれまで吹き荒れていた突風がピタリと止んだ。



 「(突風が止んで少し飛びやすくなったが……いったい何をする気なんだ!?)」



 『シュオオオオオン!!!』



 三回目。次の瞬間、天災竜の両手に巨大な竜巻が生成されていた。その二つの竜巻はフォルスのよりも、遥かに大きかった。



 「「フォルスさん!!」」



 「(まさかここまでとは……だが、負けてたまるか!!!)」



 今さら退く事は出来ない。天災竜が二つの竜巻をフォルス目掛けて投げ飛ばす。



 「うぉおおおおお!!!」



 竜巻となったフォルス。二つの巨大な竜巻。両者が遂にぶつかり合った。その瞬間、周囲に爆発的な衝撃波が響き渡る。



 「「うっ……!!」」



 「ZZZ…………」



 それは目が開けられない程の衝撃だった。やがて衝撃は緩和され、真緒達は閉じていた目をそっと開いた。



 「「……!!!」」



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 そこに広がるのは雲一つ無い晴天だった。太陽が照り付ける中、立っていたのは二人。無傷の天災竜と血だらけのフォルスだ。羽はボロボロ、くちばしの先は欠けてしまい、鉤爪は完全に折れてしまっていた。飛べているのが奇跡と言えた。



 「フォルスさん!!」



 「マオ……どうだ? 雨雲……消えただろう……」



 「フォルスさん!! 今、助けに行きますから!!」



 「マオ……ハナコ……リーマ……お前達と知り合えて……本当に良かっ……!!」



 「「!!!」」



 現実はいつも無情である。満身創痍のフォルスに一本の矢が突き刺さった。そしてフォルスは力無く海面へと落下し、海の中へと沈んで行くのであった。



 「「フォルスさん!!」」



 「おっと、動くでない。少しでも動けば、我の矢が貴様らを貫くであろう」



 「あ、あなたは……」



 声のした方向に顔を向けると、そこには見覚えのある人物がいた。それはフォルスと同じ鳥人であり、伝説の英雄と呼ばれた存在。



 「「フェニクス!!」」



 「…………ふん」
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