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第八章 冒険編 血の繋がり

権利

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 亡くなったマクラノおばさんの遺体を前にして、涙を流す真緒。そんな真緒を思ってか、仲間達は声を掛けたりせず静かに見守っていた。



 「マオ……そろそろ行かないと……」



 だが、ずっとこうしている訳にもいかない。ここが敵陣の真っ只中だという事を忘れてはいけない。



 代表としてフォルスが声を掛けて、真緒を動かそうとした。



 「……年……」



 「え?」



 か細い声で何かを呟いた。泣いていた為か、鼻声で上手く聞き取れず、思わず聞き返してしまった。



 すると今度は、ハッキリと聞き取れる声で口を開いた。



 「たった一年だけでしたけど……それでも一つ屋根の下で一緒に過ごして来た……家族だったんです……血は繋がっていない……でも私にとっては本当の親と変わらなかったんです」



 真緒はマクラノに対して、元の世界で亡くした母親の面影を見ていた。例え一年だけだとしても、例え血の繋がりが無かったとしても、例え偽りの愛情であったとしても、真緒からすれば大切な家族だったのだ。



 二度目となる母親の死。真緒の精神は既にボロボロだった。それだけ真緒にとって家族という支えは重要であった。せめてマクラノがジョージの様な外道だったら、ここまで打ちのめされる事は無かっただろう。下手な愛情は時として、痛みや憎しみよりも深く根付いてしまう。



 「もっと……もっと早く出会っていれば……こんな事にはならなかったのかな……」



 ヘッラアーデが結成されたのが一年前、そしてジョージとマクラノが真緒の身元引き受け人になったのも丁度一年前。もし、二人がヘッラアーデに加入するよりも早く、真緒に出会っていれば一つの家族として、幸せな生活を送れていたのかもしれない。



 しかし、それはあくまでも可能性の話。もしかしたら、何も変わらなかったかもしれない。寧ろ、関係はより酷くなっていたかもしれない。



 どんなに過ぎてしまった事を考えても意味は無い。後戻りする事は許されない。振り返って、昔を懐かしむ他無いのだ。



 「マオさん……その……何と言ったら良いか……」



 「……何てね!!」



 落ち込む真緒に、何と声を掛ければ良いか悩んでいると、先程の鼻声がまるで嘘であったかの様に笑顔を見せる真緒。



 「悲しいのは確かだけど、それよりも今はヘッラアーデの野望を食い止めるのが先だからね。泣いてる暇があったら、さっさと先へ進もう!!」



 「そ、そうですよね!! 止められるのは、私達しかいませんものね!!」



 「そういう事。ほら、ぐずぐずしてないで急ぐよ!!」



 そう言いながら真緒は、一度もマクラノの遺体に振り返る事無く、中央の祭壇へと走り出した。



 「あっ、マオさん!! 待って下さいよ!!」



 「置いで行がないでぐれだぁ!!」



 その後を慌てて追い掛けるリーマとハナコの二人。そんな様子を見守っていたフォルス、エレット、ゴルガの三人。



 「……強いね……」



 「あいつはこの一年、無我夢中で走り続けて来たからな。そう易々と折れたりはしないさ」



 「タノモシイカギリダ」



 「それでも限界はある……でしょ?」



 「気丈に振る舞ってはいるが、少しでも油断すればあっという間に崩れてしまう。だから、俺達が支えてやるんだ。一人で抱え込まない様に」



 「成る程……どうして魔王軍四天王が追い詰められたのか、何となく分かった気がするよ」



 「フフッ……」



 「あっ!! 今、ゴルガさん笑いましたよね!?」



 「……ワラッテナイ」



 「いや、絶対笑いましたよ!! ね!? ゴルガさん笑ったよね!?」



 「あぁ、笑ってたな」



 「ほら、笑ってましたって!!」



 「……ワラッテナイ」



 「いや、笑ってましたって……」



 などと、三人は少し和みながら先に向かった真緒達を追い掛けるのであった。







***







 「とうとう……追い詰めましたよ!! エイリス!!」



 数多くの難所を乗り越え、失った物も多かった。しかし、漸く元凶たるヘッラアーデ大司教エイリスの下まで辿り着いた。側にはロージェを除く、ノーフェイス、フェスタス、そしてリップの三人がいた。



 「久し振りだねリップ。少し見ない間に立派になっちゃって……」



 「それはこちらの台詞だよエレット。君こそ、魔王軍の新四天王に選ばれているだなんて、大出世じゃないか」



 睨み合うエレットとリップ。かつての友が、この様な形で再会するとは、何とも悲しい事である。



 そんな中、ハナコ、リーマ、フォルスの三人は一人の人物に注目していた。



 「お、おい……まさかあれはフェスタスか?」



 「何だか……覇気が……」



 「怖いだぁ……」



 変わり果てた様子のフェスタスに酷く困惑していた。あの狂気に満ちていた表情はすっかりと消え、そこら辺にいるおっさんにしか見えなかった。



 更に真緒達を目の前にしても上の空。全く気が付いていなかった。



 「フェスタス、フェスタス」



 「……あっ、何だよ」



 「みっともない姿を見せるのは止めなさい。皆さん、もう既に来ているんですよ」



 「……サトウ……マオ……」



 この時、初めてフェスタスの目線が真緒に向けられた。真緒の存在を確認したフェスタスは大きく目を見開き、眉間にシワを寄せ、歯茎を剥き出しにする。そして突然、片腕を骨肉魔法で巨大化させて襲い掛かって来た。



 「サトウマオォオオオオ!!!」



 「「「「「「!!!」」」」」」



 「…………」



 が、ノーフェイスによって阻まれてしまった。引き抜かれた剣の黒い刀身が、フェスタスの首筋に当たる。一切ぶれない太刀筋から、もし後一歩動いていたら容赦無く殺される事が分かった。



 「さすがね、ノーフェイス」



 そんなノーフェイスの行動を褒めるエイリス。下手に動く事が出来ないフェスタスの下に歩み寄ると、頬を優しく撫でる。



 「これ以上、ヘッラアーデの品格を下げるのは止めてくれないかしら。エジタスが蘇ったら、全指揮権はあの子に譲るんだから……少しでも綺麗に残さないと……」



 「……わ、悪かった……ちょっと頭に血が上っちまって……」



 「興奮するのも分かるけど、冷静に……心配しなくても後でたっぷりと働いて貰うわ」



 「あ、あぁ……」



 心臓の鼓動が早くなる。生死を握られている以上、黙って従うしか無い。フェスタスは巨大化させた右腕を元に戻した。



 するとノーフェイスも、当てていた刀身を離し、鞘に戻した。



 「はぁ……はぁ……」



 フェスタスは、慌ててその場から数歩後ろへと下がった。少しでもノーフェイスの側から離れたかったのだ。



 「……さて、よくぞここまで辿り着きました……勇者よ……」



 「エイリス……あなたの野望もここまでです!!」



 「あらあら、やる気充分みたいですね。でも本当によろしいですか? 私のやろうとしている事は、あなただってご存知の筈でしょう?」



 「師匠を……エジタスを蘇らせる……それがあなたの計画だった」



 「そう、私はあなたが惨たらしく殺したエジタスを蘇らせたいだけ!! それを……殺したあなたが止める権利など無い!!」



 「それを言うのなら、あなたにだって師匠を蘇らせる権利なんてありません!!」



 「ふっ、ふふふふふ……」



 「な、何が可笑しいんですか!?」



 突然笑い出したエイリス。まるでその言葉を待っていたかの様に、不適な笑みを浮かべていた。その笑みは何処となく、エジタスに酷似していた。



 「権利……権利ね……あなたにエジタスを蘇らせる権利は無いけど、私にはあるのよ!! 何故か!!? それは私が!! あの子の!! “家族”だからよ!!」



 「「「「「「!!?」」」」」」



 「私は“エイリス”!! エジタスの名付け親にして、あの子の“姉”なのよ!!」



 「な、何だと……!!?」



 「まさかそんな……!!?」



 「ごんな事っで……!!?」



 「……う、嘘です!! 嘘に決まってます!! 師匠は骨肉魔法の力で二千年生きていた人なんですよ!! 骨肉魔法を持たないあなたが、師匠の身内な訳が無い!!」



 エジタスは二千年の時を生きた。その秘密は骨肉魔法にあった。年を重ねる毎に古くなっていく臓器や骨を取り替え、擬似的な不老不死を実現させていた。しかしエイリスは違う、骨肉魔法を持たない彼女が二千年も生きていられる筈が無いのだ。だが、エイリスは余裕の表情を浮かべていた。



 「いつの時代も愛は奇跡を引き起こすのです」



 「……え?」



 「それではお話しましょう。私が辿った素晴らしいメモリーを!!!」
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