上 下
117 / 275
第六章 冒険編 記憶の森

一人で抱え込まないで

しおりを挟む
 俺が生まれた当時、エルフ達の間では魔法が絶対であり、扱える自分達は特別な存在だという考えを持っていた。



 そんな中、魔法の才能を持たずに生まれて来た俺は、里の者達は愚か親からも白い目で見られていた。



 「ファイア!! ファイア!! ファイア!!」



 当然、努力はした。毎日、魔法を唱えていたが、一向に扱える様にはならなかった。



 「はぁ……はぁ……はぁ……どうして俺だけ……」



 「頑張ってるな」



 声のした方向に顔を向けると、一人の男性エルフが立っていた。



 「誰だ、お前?」



 「俺は“トレディ”、よろしく」



 そう言って、トレディと名乗るその男は右手を差し出し、握手を求めた。



 「…………それで? わざわざ笑いに来たのか、トレディ?」



 俺はその手を払い除け、トレディに対して悪態をついた。



 「おいおい、折角心配して来てやったのに、そう冷たくあしらうなよ」



 「冷たく? 事実を述べただけだ」



 「事実だって? 俺はお前の事を笑ったりしないけどな」



 「随分と嘘が下手みたいだな」



 「そんな事無いぜ。こう見ても、人を騙すのは得意な方だ」



 「そうかい」



 トレディの言葉をまともに取り合わず、そそくさと家に帰ろうとした。



 「おいおい、ちょっと待てよ。何処に行くつもりだ?」



 「帰るんだよ、家にな」



 「練習はもういいのか?」



 「もう諦めた。これだけやっても扱う事が出来ないんだ。俺には、魔法の才能が無かったんだよ」



 「そう悲観的になるなよ。諦めなければきっと……あっ、おい!!」



 結局、最後まで聞かず、足早にその場を離れた。



 「(明日は別の場所で練習しないといけないな)」



 俺は嘘をついた。諦めきれなかった。魔法を扱える様になって、皆から認められたい。その為には、気の散る存在が側にいてはいけないのだ。







***







 「よっ、今日も頑張ってるな」



 「…………」



 次の日、場所を変えて魔法の練習をしていると、トレディが軽い挨拶を交わしながらやって来た。



 「上手く撒いたつもりだったかもしれないが、俺は信じていたぜ。お前は決して諦めない男だってな」



 「…………何が目的だ?」



 「え?」



 「エルフなのに魔法が扱えない俺を、嘲笑いたいのか!? それとも、日頃のストレス解消として利用したいのか!?」



 四六時中、周囲から迫害を受け、ストレスが溜まっていた俺は、二日連続で付きまとって来たトレディに向かって、怒りをぶつけた。



 「俺は只、お前の力になりたいんだ」



 「力になりたい!? なら、二度と関わらないでくれ!! 魔法が扱えるお前には分からないかもしれないが、扱えない俺からしたら、お前が側にいるだけで劣等感を感じて、集中する事が出来ないんだよ!!」



 「…………」



 「……そ、そう言う訳だから、もう関わって来るなよ……」



 大声を上げた事で、気まずい雰囲気になってしまい、居た堪れなくなった俺は逃げる様に、その場を去った。



 「ちょっと言い過ぎたか? いや、面白半分で来たあいつの方が悪いんだ。そうさ、俺は悪くなっ……!!?」



 などと、歩きながら自問自答で罪悪感を払拭しようすると、道中で擦れ違ったエルフ達の一人と肩がぶつかってしまった。



 「何すんだって……お前、確か魔法が扱えない……」



 「…………」



 「あっ、おい!! 待ちやがれ!!」



 関わり合いを持ちたくなかった俺は、その場を走り出して逃げようとした。



 「待てって言ってんだよ!! “ファイア”!!」



 必死で逃げる中、追い掛けるエルフ達の一人が魔法を唱えた。赤々と燃える炎が生成され、そのまま俺目掛けて放たれた。



 「ああああああ!!!」



 背中に直撃した炎は、やがて全身を包み込んだ。急いで消火を試みるが、魔法で生成された炎は、詠唱した者より高い実力が無ければ、消す事が出来ない。つまり、魔法が扱えない俺はその命燃え尽きるまで、もがき苦しむしかなかった。



 「お、おい……これヤバいんじゃないか?」



 「し、知らね!! 俺、知らね!!」



 「俺も!!」



 想像以上に苦しむ俺の姿を目の当たりにしたエルフ達は、責任逃れの如く慌ててその場を去った。



 「(せめて……消してから逃げろよな……あぁ、このまま死ぬのかな……結局、俺は誰にも認められず、死ぬんだな……)」



 意識が遠退く。惨めな日々を過ごした俺の人生は、惨めなラストを迎えるのだった。



 「“ウォーター”!!」



 が、その直後何処から途もなく放たれた水によって、全身を覆っていた炎が消火された。



 「大丈夫か!!? おい、しっかりしろ!!」



 すると目の前に、トレディが現れた。どうやら先程の水は、トレディの唱えた魔法だったらしい。



 「うぅ……」



 「火傷が酷い……急いで薬剤師の所に連れて行かないと!!」



 そこで俺の意識は途絶えた。覚えているのは断片的な記憶で、重症の俺をトレディが担ぎ上げ、治癒用のポーションなどを作っている里の薬剤師の下へ、運んだ。







***







 「…………んっ……」



 目を覚ますと、そこは薬剤師が経営する診療所のベッドの上だった。



 「おっ、目が覚めたか?」



 「お前…………」



 側にはトレディがいた。俺が目を覚ましたのを確認するとあいつは、いつもと同じ態度で気さくに話掛けた。



 「いやー、ポーションって効くんだな。あんなに酷かった火傷が、綺麗さっぱり無くなってるんだからな」



 「……何で……」



 「ん?」



 「何で俺なんかを助けたんだよ……知ってるだろ、里中から迫害されているの……」



 「あぁ、知ってるよ」



 「なら、どうして助けたんだ? こんな事をすれば、お前だって立場が悪くなるぞ」



 「……俺はさ、常々この里の考え方は間違っていると思ってるんだ。ユグジィも、そう思うだろ?」



 「それは……」



 「魔法は便利だ、それは認める。でも優れているかと問われれば、そうとは言い切れない。魔法にだって、得意不得意がある。それは生き物にも同じ事が言える。エルフだからと言って、必ずしも魔法が扱える訳じゃない。皆、それぞれ個性があり、その個性を尊重する事が大切なんだ」



 ずっと思っていた。もしかしたら俺は、エルフ達の中で異物なんじゃないかと。間違っているのは、周りの連中では無く、エルフなのに魔法を扱えない俺の方なのでは。だけど今、目の前に俺と同じ想いのエルフがいた。



 「ユグジィ、俺いつか里の長になろうと思っているんだ」



 「えっ?」



 「長になれば、皆の考え方を変えられるかもしれないだろ?」



 「そうかもしれないな……」



 「それでさ、お前には俺の補佐をして貰いたいんだ」



 「補佐?」



 「あぁ、俺一人だけじゃ、どうしても力不足だ。でも、俺達二人が力を合わせれば、きっと里を変えられる!!」



 「……い、いやいや、無理だよ!! だって俺、魔法扱えないし……」



 「それが何だ!? 俺達が目指すのは、魔法が全てじゃないという柔軟な考えを持った里だ」



 「いやでも、俺なんかが関わったら、迷惑になるし……」



 「ユグジィ……“一人で抱え込まないでくれ”!!」



 「!!!」



 「俺達、同じ想いを抱く仲間だろ!? それぞれが辛い想いをしていたら、その気持ちを分かち合って、少しでも負担を減らすんだ!! お前の気持ちの半分は俺が背負う。だから、俺の気持ちの半分はお前が背負ってくれ!!」



 「トレディ……わかった、わかったよ。お前には負けたよ」



 「そうこなくっちゃ!!」



 根負けした俺に、トレディは嬉しそうに笑みを浮かべた。



 「けど真面目な話、魔法が扱えないエルフを背負うのは、足枷になるぞ? どうするつもりなんだ?」



 「そうだな……魔法が扱えないのなら、肉体面を鍛えるってのはどうだ?」



 「肉体? 体を鍛えるのか?」



 「そうだ、丁度良い事にここの薬剤師が取り扱っている薬草が、お前の治療で底をついた。どうやら里からかなり離れた位置に、自生しているらしい。それを毎日ダッシュで取りに行ったらどうだ? 代金の代わりにもなるし」



 「うーん、それは別に構わないけど、筋肉ムキムキなエルフって気持ち悪くないか?」



 「そうか? 俺は強そうで良いと思うけどな」



 「……まぁ、それならやってみるかな」



 「よし!! ここからが俺達の伝説の第一歩だ!! やるぞぉおおおおお!!!」



 「全く……大袈裟だな……」



 だけど、悪い気はしなかった。そうして俺とトレディによる、里の長になる為の戦いが始まった。







 「さてさて~、エルフの里は何処にあるのでしょうかね~?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

処理中です...