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第六章 冒険編 記憶の森

真緒パーティー VS ユグジィ

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 「“炎の槍”!!」



 リーマの右手に、赤々と燃え上がる炎の槍が生成された。



 「ほぅ、火属性魔法を武器の形に変えるとは……出来るな」



 「私はユグジィと同じ魔法使いです!! だからこそ、弱点も知り尽くしている!!」



 手にした炎の槍を構えながら、間合いを一気に詰める。



 「魔法は遠距離でこそ、その真価を発揮する!! 逆を言えば、ここまで接近されれば、何も出来ない!! ユグジィ、あなたとはもっと仲良くしていたかった……でも、私達の行く手を邪魔するのなら、容赦はしません!!」



 流れる様に、炎の槍を広範囲に薙ぎ払う。



 「貰ったぁあああああ!!!」



 「…………」



 ユグジィは動く素振りを見せない。只、じっとリーマの顔を見つめるだけだった。これは決まった。ここにいる誰もがそう思った。



 「!!?」



 しかし次の瞬間、炎の槍がピクリとも動かなくなった。それもその筈、ユグジィが“素手”で掴んだのだから。



 「ほ、炎の槍を素手で掴んだだと!!?」



 「ユグジィ!! な、何を考えているんですか!!? 離して下さい!! 火傷しますよ!!」



 「この程度の炎……生温いわ」



 するとユグジィは、炎の槍を掴んだまま、リーマの腹目掛けて蹴りを放った。



 「うっ!!?」



 「「「リーマ!!!」」」



 重たい一撃。思わず炎の槍から手を離してしまったリーマは、数メートル後方まで吹き飛ばされた。



 「リーマぢゃん、大丈夫だがぁ!?」



 「げほっ!! げほっ!! え、えぇ……私なら大丈夫です……」



 「あいつ……炎を手で掴むなんて……正気の沙汰とは思えん」



 「……ハナちゃん、今度は私達二人で一斉に攻撃しよう」



 「分がっだだぁ」



 「リーマ、フォルスさんの二人は、後方から援護して下さい」



 「「了解」」



 静かに、純白の剣を鞘から引き抜く真緒。両手に装備しているガントレッドを互いにぶつけ、音を鳴らすハナコ。地面に引き摺る程、伸びきった髭を撫でるユグジィ。互いに睨み合う中、緊張が高まる。



 「……行くよ!!」



 「「「おぅ!!!」」」



 真緒とハナコの二人が一斉に走り出した。後方のリーマは魔導書を開き、フォルスは翼を広げて空中に舞い上がった。



 「成る程、互いが互いを庇い合う。実に良いフォーメーションだ」



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 ユグジィは、その場から一歩も動こうとしなかった。真緒とハナコ、二人のスキルがユグジィ目掛けて、勢い良く放たれる。



 「……ここで下手に避ければ、リーマちゃんの魔法と鳥人の矢が飛んで来る。かと言って、避けなければスキルが直撃する……それなら……ふん!!」



 「「!!?」」



 ユグジィは両足に力を込めた。そして次の瞬間、真緒とハナコそれぞれの首に、ユグジィの右腕と左腕が叩き付けられた。俗に言う“ラリアット”だ。



 「「おげぇ……!!!」」



 「「マオ!! ハナコ!!」」



 首が強く圧迫され、一時的な呼吸困難に陥った真緒とハナコは、押されるがまま仰向けに倒れ、痛みと苦しさから両手を首に添えた。



 「他愛ない」



 そんなもがき苦しむ真緒達の様子を、見下ろしながら、鼻で笑った。



 「スキルよりも早く動くだなんて……どんな身体能力してるんだ……」



 「そんなあり得ません。エルフは魔法に長けた種族。その為、運動機能は他の種族よりも劣っている筈です!!」



 「だが、現にああして早く動いたんだぞ!!」



 「そ、それは……今は取り敢えず、マオさん達を助け出す事に専念しましょう!!」



 「っ……そうだな……“ブースト”!!」



 「“ウインドカッター”!!」



 考えるのは後にしたリーマとフォルス。各々、風属性魔法を用いて、攻撃を仕掛ける。



 「…………」



 二人の攻撃は当たりこそしなかったが、真緒とハナコの側から、離れさせる事は出来た。その隙を突き、リーマとフォルスは倒れている二人へと駆け寄る。



 「ごほっ!! げほっ!! はぁ……はぁ……ありがとう……」



 「だ、助がっだだぁ……」



 真緒とハナコは、何とか落ち着きを取り戻し、呼吸を整える。



 「……なぁ、やっぱり変だ」



 「何がですか?」



 「リーマの言う通り、エルフは魔法に長けた種族だ。だが、あいつは……さっきから全く魔法を使わず、肉体能力で戦ってる」



 「確かに……」



 「使わない理由として考えられるのは、魔法なんて扱わなくても、俺達を倒せるという自信からか、もくしは……“魔法を扱えない”か……だ」



 「あ、あり得ませんよ!! だって皆さんだって見ていたでしょ!? この森に火を放ったのは、ユグジィ本人だったんですよ!!」



 「あぁ、だから俺もずっと魔法を扱うんだと思っていた。さっきまではな」



 「どう言う意味ですか?」



 「さっきまでここには、エルフの里があった。しかし俺達が再び訪れた時には、火に包まれていた」



 「でもそれは、ユグジィの記憶から作り出した存在で……ま、まさか……!!?」



 「あぁ……そのまさかだ……」



 フォルスは、ユグジィの方に目線を向ける。



 「お前は魔法を扱えない。今までの放火は、お前の火属性魔法による物では無く、お前の“記憶”から作り出した物だ!!」



 「だからリーマ、エルフ達の水属性魔法じゃ、消化する事が出来なかった。あれは、放火した人物の魔法が強かった訳じゃない。記憶の産物だったから、消す事が出来なかった!!」



 「ユグジィ……本当なんですか?」



 魔法使いとして、リーマはエルフという種族に対して、尊敬の念を抱いていた。そんな種族の長であるユグジィが、魔法を扱えないなど、にわかには信じられなかった。



 「……ふふふ……ふははははは!!!」



 真緒達の言葉に、高笑いを浮かべるユグジィ。



 「大正解……わしはな、エルフ一族始まって以来の恥晒しなのだ……」



 「そ、そんな……」



 魔法の扱いに長けている筈のエルフ。しかし、ユグジィはエルフでありながら、魔法を扱う事が出来なかった。



 「……そんなわしにも、得意な事があった……拳や蹴りを用いた格闘戦じゃ」



 「あの蹴りや、ラリアットがそうですね」



 「だがな……やはり年を重ねる毎に、筋力が衰え始めた。今では、全盛期の十分の一も発揮出来ないのだよ……」



 「気の毒に……だが、俺達にとっては好都合だ。種が分かればどうって事は無い。悪いが、決着を付けさせて貰うぞ」



 「待て待て、そう急ぐな。若者はせっかちでいかん。この話には続きがあってな……わしが持っている“記憶の杖”、能力は対象の記憶に自我を持たせる事だが……実はもう一つ、隠された能力があるのだよ」



 「隠された能力!!?」



 「それを今からお見せしよう……」



 そう言うとユグジィは、杖を自身の頭に強く押し付けた。すると、杖から眩い光が放たれる。



 「ま、眩しい!!」



 「こ、これは!!?」



 「またですか!!?」



 「何も見えないだぁ!!」



 突然の光に、思わず目を瞑ってしまった真緒達。光は次第に収まり、再び目を開けると、そこにユグジィの姿は無かった。



 「あ、あれ?」



 「いったい何処に……?」



 「こっちだ」



 「「「「!!?」」」」



 背後から声が聞こえ、真緒達は慌てて距離を取りながら、振り返った。



 「ふふふ……初めまして……かな?」



 「そ、そんなまさか……!!?」



 そこに立っていたのは、地面に引き摺る程の髭を生やした老人では無く、短髪で筋骨粒々としたバランスが非常に悪いガチムチの若者だった。



 「これが“記憶の杖”に隠された能力……“過去の姿を投影”する能力だ」



 「こ、こんな事って……」



 「さぁ、再開しようじゃないか。今度はフルパワーで……」
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