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第六章 冒険編 記憶の森

消火活動

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 燃え盛るニンフェの森。突然の火災に野生の動物や魔物達が慌てて逃げ惑う中、真緒達はエルフ達と供に消火活動に赴いた。



 「水属性魔法が扱える者は火を消火しろ!! それ以外の者は湖から水を運んで来るんだ!!」



 「マオさん達はここに残って下さい!! 消火活動中に興奮して襲い掛かって来る野生の動物や魔物から守って下さい!!」



 「分かったよ!!」



 水属性魔法が扱える数人のエルフ達とリーマがその場に留まり、扱えないエルフ達は湖まで走って行く。そして真緒達はその場に留まり、リーマ達の身辺を警護する。



 「よし、火の進行を食い止めるぞ!! “ウォーターボール”!!」



 「“ウォーター”!!」



 「“アクアスプラッシュ”!!」



 「“ウォーターピラー”!!」



 エルフ達は両手を前に突き出しながら魔法を唱えた。すると瞬く間に燃え広がる火の手目掛けて水属性の魔法が放たれる。



 「私も!! “ウォーターキャノン”!!」



 水属性魔法を唱えるエルフ達に続こうとリーマも魔導書を開き、魔法を唱える。するとリーマの目の前に水の塊が生成され、そのまま火の手目掛けて勢い良く放たれた。



 リーマが放った水の塊によって、火が一気に消火される。



 「人間の癖にやるじゃないか!!」



 「えへへ、それ程でもあります!!」



 「リーマ!! 避けろ!!」



 「えっ!!?」



 リーマが自慢気に胸を張ったその時、火災によって興奮した野生の動物が、死角を突いて襲い掛かって来た。



 「スキル“乱激斬”!!」



 「!!!」



 咄嗟に気が付いた真緒はリーマを守る為にリーマの前に走り出し、迫り来る野生の動物に目掛けて目にも止まらぬ早業で、野生の動物を追い返した。



 「大丈夫、リーマ?」



 「はい、ありがとうございます」



 「中々その奴隷も使えるみたいだし、これならすぐにでも消火出来そう……ん?」



 と、思われた次の瞬間、消火された部分に火が燃え広がった。



 「くそっ!! また燃え広がった!! “ウォーターボール”!!」



 「“ウォーター”!!」



 「“アクアスプラッシュ”!!」



 「“ウォーターピラー”!!」



 「“ウォーターキャノン”!!」



 再び水属性魔法を唱え、消火するリーマとエルフ達。燃え広がった火は急速に小さくなりつつあった。



 「よし、これだけやれば……っ!!?」



 安心したのもつかの間、小さくなった火は瞬く間に大きくなり、森に燃え広がり始めた。



 「くそっ!! いったいどうなってやがる!! 消しても消しても切りが無いぞ!!」



 「諦めるな!! この森が焼けてしまったら、俺達に未来は無い!!」



 「掛け続けろ!! もうすぐ湖からの救援も来る筈だ!! それまで少しでも火を小さくするんだ!!」



 「だがそろそろMPも底を尽きるぞ!?」



 「……私に任せて下さい」



 「リーマ……?」



 リーマは一人燃え盛る火の前に立ち、魔導書のページをパラパラと捲る。そしてあるページの箇所で止まると、魔法を唱える。



 「私が全てを押し流します!! “ウェイブ”!!」



 リーマが魔法を唱えた瞬間、目の前に津波が現れ、火の手目掛けて勢い良く流れ始めた。押し寄せる津波に燃え盛っていた火は瞬く間に消火される。そして遂には鎮火を迎えた。



 「す、凄い……人間がこれ程までやるとは……」



 「人間如きと侮っていたが……これはもしかしたら考えを改めないといけないかもしれないな」



 「リーマ、やったな!! お前は里の救世主だ!!」



 「いや、そんな大した事は…………えっ?」



 素直に褒められ、思わず照れるリーマだったが次の瞬間、鎮火した筈の火が再び着火し、瞬く間に燃え広がり始めた。



 「な、何だと!!? いったいどうなっているんだ!!?」



 慌てるエルフ達を他所に火は何と分裂し、四方八方に飛び散った。まるで意志があるかの様に。



 「これは只の火じゃない!! 何者かが意思を持たせて放った火だ!!」



 その言葉通り、分裂して四方八方に飛び散った火は更に分裂を繰り返し、最早手が付けられない状態になってしまった。



 「これじゃあ、消しても消しても切りが無い!!」



 「いったいどうしたら……」



 「おーい!! 水を持って来たぞ!!」



 リーマとエルフ達が絶望している中、湖まで水を取りに行ったエルフ達が水の入った木製のバケツを抱えながら戻って来た。



 「早く消火するぞ……って、いったいどうした?」



 「無理だよ……」



 「えっ?」



 「無理だって言ってんだよ!! この火は普通の火じゃねぇ!! 何者かが意思を持たせて放った火だ!! この火を消すには放った本人が消すか、放った奴以上の魔力をぶつけるしか方法が無い……」



 「そんな……嘘だろ……じゃあこのまま森が……俺達の里が燃やされるのを黙って見るしか無いのかよ……」



 「私の魔法でも完全に消す事は出来ませんでした……力不足でごめんなさい……」



 「リーマ……」



 最早打つ手は残されていない。言い知れぬ絶望感に、エルフ達は思わず抱えていた木製のバケツを手放す。中に入っていた水が零れ、土の地面に吸収され、ほんのり湿らせる。しかしそれすらも燃え盛る火の熱によって、あっという間に蒸発してしまった。



 「全く……これからの時代を担う若者がそう簡単に諦めてどうする」



 そんな中、真緒達の前に族長であるユグジィが姿を現した。



 「ユグジィ……」



 「族長……申し訳ありません……我々の実力では消火する事は出来ませんでした……」



 「里が燃え尽きるのを黙って見る事しか出来ない我々をお許し下さい」



 不甲斐ない結果となってしまった事を反省するエルフ達は、ユグジィに対して頭を下げる。さすがのユグジィも眉間にシワが寄っていると思ったが、意外にも笑顔であった。



 「そんなに気にする必要は無い。皆の命が無事だっただけで大満足じゃ。後の始末はわしに任せてくれ」



 そう言うとユグジィは一人、燃え盛る火の前に歩み出る。そんなユグジィに里の者達は心配を寄せる。



 「族長!! 危険ですよ!!」



 「……うぅん、そいや!!」



 次の瞬間、突風が吹き荒れる。



 「「「「!!!」」」」



 ユグジィが持っていた杖を振るうと、それまで燃え盛っていた火は一瞬にして鎮火し、そして二度と着火する事は無かった。



 「…………えっ?」



 「消え……た……?」



 「どうじゃ? わしもまだまだ捨てたもんじゃないだろう?」



 「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」



 まさかのユグジィの活躍により、火の手は完全に食い止められた。消火に成功した事で興奮が抑え切れない若いエルフ達が大声を上げる。



 「ユグジィ……凄い……私達があれだけ苦労しても消す事が出来なかった火をたった一振りで消し去ってしまうだなんて……」



 「皆、大袈裟じゃのぉ。だがまぁ、こんな老いぼれが少しでも里に貢献出来たかと思うと嬉しいぞ」



 「……そう言えば、あの火は誰が放った物だったんだろう?」



 「「「「「「……………」」」」」」



 真緒の何気無い一言に、エルフ達は一斉に口を閉じた。そして真緒達の周辺を取り囲んだ。



 「えっ!? 何!?」



 「これはいったいどう言う事だ!!?」



 「どう言う事も何も……お前達が火を放ったんだろう!?」



 「「「「……えぇ!!?」」」」



 そのあまりに突然の出来事に真緒達は驚きの表情を隠せなかった。



 「お前達がやって来たその日に火災が起こるだなんて都合が良過ぎる!! お前達が森に火を放ったんだ!!」



 「ぞんな言い掛がりだぁ!!」



 「そうですよ!! さっきまで一緒に消火活動をしていたじゃないですか!!?」



 「リーマちゃんの言う通りじゃ。もし本当に火を放ったと言うのなら、何故わざわざ一緒になって火を消すんじゃ?」



 「それは勿論、気兼ね無く里に出入りする為ですよ」



 その理由を答えたのは、真緒達の滞在を反対していたエルフだった。



 「お主……まだリーマちゃんの事が信用出来ないのか?」



 「出来ません。元々、我々エルフは高貴な存在……そんな我々が何故こんな下等生物の言う事など信用しなくてはいけないのですか?」



 「だからと言って、リーマちゃん達が火を放ったとは言えないじゃろ?」



 「じゃあ他にいったい誰が放ったと言うんですか!!?」



 「それは…………ん?」



 ユグジィが答えようとしたその時、焼け焦げた森の方からこちらに近付いて来る何者かの足音が聞こえて来た。足音から察するに人数は二人。微かに鎧の擦れる音が聞こえる。そして一分も経たぬ内に足音の主達が目の前に現れた。



 「んー、何だ何だ? 森が燃えてたからチャンスと思って入ったが……仲間割れか?」



 「…………」



 「う、嘘だろ……」



 それは数日前から森に入ろうと試みていたヘッラアーデの幹部、“フェスタス”と“ノーフェイス”であった。
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