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第三章 冒険編 私の理想郷

衝撃の事実

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 「こっちだよ!!」



 真緒はメユに腕を引っ張られながら、祖母である“レーヴ”の下まで案内されていた。そんな二人の後を追い掛ける様にハナコ、リーマ、フォルスの三人も付いて行く。



 「ちょ、ちょっとメユちゃん……そんなに強く引っ張らないで……」



 子供とは思えない強い力で引っ張られる真緒は、何とか転ばない様にするので精一杯だった。



 「この階段を上がった二階にいるんだよ!!」



 そう言いながらメユは、エントランスホールの目の前にあった階段を指差す。



 「わ、分かったから!! ちゃんと付いて行くから!! 一旦、腕を離してくれないかな?」



 「…………分かった」



 真緒に説得されたメユは、少し残念そうな表情を浮かべるも、真緒の腕から離れた。



 「あ、ありがとう……それでお婆ちゃんはどっちにいるの?」



 「こっちだよ!!」



 元気良く指で指し示しながら、メユは二階へと駆け上がり、廊下の右側へと走って行った。



 「はぁー……」



 「流石の勇者も、子供相手には形無しか?」



 「フォルスさん……はい、元気があって良いんですけど……ちょっと元気があり過ぎるというか……」



 「そう思う位、私達も歳を取っている……という事ですかね?」



 「ぞうだなぁ。子供は疲れ知らずだがらなぁ」



 メユの元気一杯の姿に、真緒達は自分達の歳を比較していた。しかし忘れてはいけないがフォルスは兎も角として、真緒、ハナコ、リーマの三人は未だに二十歳を越えてはいない。



 「歳を取るのは避けられない事だけど……やっぱりちょっと羨ましいな……」



 真緒の言葉に、三人は共感する様に頷いた。約三名は、二十歳も越えていない若造である。



 「……追い掛けましょうか」



 「そうだね。いつまでも若者に負けてはいられないよ!!」



 そう言いながら真緒達は、メユの後を追い掛けるのであった。







***







 「ここがお婆ちゃんの部屋だよ」



 メユの後を追い掛け、辿り着いた場所には扉があった。これまでの扉と比べると少し古ぼけており、色が剥げていた。



 「お婆ちゃん、メユだよ」



 メユは乱暴に扉をノックする。しかし、返事は返って来なかった。



 「入るね」



 するとメユは返事の有無関係無く、部屋の扉を開けた。



 「……ここが、お婆ちゃんの部屋?」



 「うん、そうだよ」



 部屋の中は質素。というよりも家具と呼べる代物がベッドしか無く、唯一壁に額縁が飾られていた。額縁の中には何か入っている様に見えるが、部屋の明かりが暗い為、入口付近からではよく見えなかった。



 「お婆ちゃん、お客さんを連れて来たよ」



 「…………」



 メユは、部屋に置かれている唯一の家具であるベッドへと近付く。真緒達もその後を追い掛けるが、次第にベッドの上に誰かが寝ているのが見えて来た。



 「この人が……?」



 「うん、“レーヴ”お婆ちゃん!!」



 そこにいたのは、シワだらけの老婆だった。髪の色素はすっかり抜け落ち、残らず白髪になっていた。寝ているのか目を瞑っており、メユが真緒達を紹介するも、一向に起きる気配は無かった。



 「あ、あの……レーヴさんって……」



 「お婆ちゃん、一年前程から突然寝た切りになっちゃって……聡明なお医者さんに診て貰っても、原因は分からなかったんだって……」



 「そ、そっか……それは辛かったよね……」



 「うん……でも大丈夫!! 死んではいないみたいだから、起きるまで待ち続ける事にしたんだ!!」



 一瞬、悲しそうな顔を見せたメユだったが、直ぐ様笑顔を振る舞う。



 「しかし……本当に何にも無いんだな……ん? お、お、おい!! こ、これを見てみろ!!」



 部屋の中を見回していたフォルスだったが、壁に飾られている額縁に目を向けた途端、慌てて真緒達を呼び寄せる。



 「どうしたんですかフォルスさ……えっ!!?」



 「ど、どうなっでいるだぁ!!?」



 「そ、そんな……まさか……あれって……」



 真緒達が目にした物……それは、額縁の中に収められたエジタスが被っていた仮面その物だった。常に間近で見ていた真緒達だからこそ、見間違える筈が無かった。そこに飾られていたのは、紛れも無いエジタスの被っていた仮面だった。



 「メ、メ、メユちゃん!! あ、あ、あの壁に飾られている仮面って!!?」



 「ん? あぁ、あの仮面? あの仮面は、“ひいおじいちゃん”の仮面だよ」



 「「「“ひいおじいちゃん”!!?」」」



 「ひ、ひ、ひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」



 「どわぁあああ!!! マオぢゃんが壊れだだぁ!!」



 “ひいおじいちゃん”というまさかの言葉に、真緒はバグってしまったかの様に、同じ言葉を連呼し始めた。



 「マオさん、確りして下さい!!」



 「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」



 「駄目だ……完全に狂ってしまっている……」



 「そんな!? もうマオさん!! 確りして下さい!!」



 リーマは左手で真緒の肩を掴み、右手で真緒の両頬を何度もひっぱたいた。



 「………………はっ!!?」



 「マオさん!? 良かった!! 正気を取り戻したんですね!!」



 「あ、あれ私今……」



 「マオぢゃん、良がっだだぁ!!」



 「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったぞ……」



 リーマの頬叩きのお陰で、何とか正気を取り戻した真緒。



 「そ、そうだ私……師匠の仮面を見つけて……それでその仮面が……メ、メユちゃん……」



 「何?」



 記憶を思い起こした真緒は念の為、再確認の為にもう一度、メユに問い掛けようとする。



 「そ、その“ひいおじいちゃん”って、名前は……」



 「うーんとね……“エジタス”!!」



 「やっぱりそうなるのか……」



 「まさか……エジタスさんが既に結婚して、子供まで設けていただなんて……はっ、もしかして……この前の“フェスタス”とか言う人も、実は本当にエジタスさんの息子なんじゃ……」



 「マオぢゃん……残念だげど……」



 「…………」



 「……マオぢゃん?」



 「マオさん?」



 「マオ、どうした?」



 メユの口から発せられたひいおじいちゃんの名前“エジタス”。各々が反応を示す中、肝心の真緒だけが無反応だった。その事に一同疑問を浮かべ、真緒に声を掛ける。しかし、返事は返って来なかった。



 「マオ? おいマオ!! お……!!? き、気絶している……」



 「えっ、嘘!!?」



 「マオぢゃん!!?」



 「…………」



 見てみると白目を向き、立ったまま気絶していた。必死に揺さぶるも、全く起きる気配は無かった。







***







 「…………う、うーん……」



 目を覚ますと、そこは先程までいたレーヴの部屋では無く、リビングルームだった。側にはハナコ、リーマ、フォルスの三人。ソーニョ、メユ、ソンジュの三人がいた。



 「あっ、目が覚めたみたいですよ!!」



 「こ、ここは……」



 「マオぢゃん、良がっだ……無事で本当に良がっだだぁ!!」



 「ハナちゃん……」



 起き上がる真緒に対して、泣きながら抱き付くハナコ。そんな状況に、いまいちピンと来ていなかった。



 「い、いったい何があったんですか?」



 「覚えていないのか? お前は、この家族の祖母であるレーヴに挨拶しようと、メユに案内された。しかしその部屋で偶然にも、エジタスさんの仮面を発見した」



 「…………あっ……」



 フォルスの説明で、記憶が鮮明に甦る真緒。そのあまりの恥ずかしさから、頬を真っ赤に染める。



 「す、すみません……ご厄介になっているというのに……ご迷惑をお掛けしてしまって……」



 「いえ、気にしないで下さい。それよりも皆さん……ひいおじいちゃん……いえ、“エジタス”とはどう言うご関係で?」



 「「「「…………」」」」



 当然の疑問。ひいおじいちゃんの名前を聞いた途端、気絶してしまうなど、いったいどんな関係だったのか。ソーニョは真緒達に問い掛ける。



 「……これはもう……全て話した方が良いかもしれないね……」



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……マオさんがそれで良いのなら、私に異論はありません」



 「俺もだ。お前の決断に従おう」



 「……実は私達…………」



 仲間達の意見も聞きつつ、真緒は一年前の事、ロストマジックアイテムの事、エジタスとの関係を洗いざらい全て話した。







***







 「成る程、そんな事が……」



 「色々大変だったんですね……」



 「ひいおじいちゃん、すごーい!!」



 真緒の説明に対して、ソーニョとソンジュは重々しく受け取る中、メユだけがエジタスの事を称賛する。



 「それで私達は、ヘッラアーデよりも先に師匠の遺したロストマジックアイテムを回収しなければならないんです。何か師匠から聞いていませんか?」



 「ごめんなさい……曾祖父……私にとっては祖父だけど……そう言った個人的な話は聞いた事が無いわ……」



 「そうですか……ち、因みに何ですが……そ、曾祖母は……いらっしゃらないんでしょうか?」



 曾祖母。それはつまり、エジタスの奥さん。真緒にとって、聞きたいけど聞きたく無い究極の問い掛けである。



 「…………曾祖母は亡くなりました……」



 「ご、ごめんなさい……気に障る様な質問をしてしまって……」



 「気にしないで下さい、元々話すつもりでしたから……曾祖母の遺体は、館の裏庭に埋葬しています。宜しければ、後で墓参りに行ってあげて下さい……」



 「は、はい……」



 一気に空気の悪い雰囲気になってしまった。何とか話題を変えようと、リーマが口を開く。



 「ほ、他に知ってそうな人に心当たりはありませんか?」



 「それなら……やっぱり娘であるレーヴお婆ちゃんではないでしょうか?」



 「そうですよね!? 実の娘さんなら、何か聞いて……あっ、でもレーヴさんって確か……」



 「はい、一年程前から昏睡状態が続いています……」



 「す、すみません……」



 「いえ、気にしないで下さい……」



 「「…………」」



 余計空気が悪くなってしまった。これ以上の回復は望めないのか。そう思った矢先、メユがとんでも無言葉を発した。



 「ねぇねぇ、そんなに悩む位なら……“本人”に直接聞けば良いんじゃ無いかな?」



 「…………えっ?」



 先程の説明を聞いていなかったのか。メユは的外れな言葉を口にする。そんなメユに、真緒達は戸惑いを隠せなかった。



 「あ、あのメユちゃん? 話を聞いていなかったのかな? 師匠はもう……「そうだよね。おかーさん、おねーちゃん?」……ちょっと!?」



 改めて説明しようとするも、メユは全く聞き耳を持たず、母であるソンジュと姉であるソーニョに同意を求める。



 「そうね……その方がマオさん達も楽だと思うわ」



 「それにその方が、手間が省けて良いかもね」



 「あ、あのちょっと……お二人供、何を言っているんですか?」



 突然訳の分からない事を口走る三人に、真緒達は酷く困惑する。



 「ねぇねぇ」



 「えっ、な、何?」



 「マオおねーちゃんって……本当にエジタスの事が好きだったの?」



 「えっ!? ちょっと!? 急に何を言ってるの!?」



 頭の整理が追い付かない。予想だにしない言葉が次から次へと飛び交う。



 「ねぇ、本当に好きだったの?」



 「えっと…………う、うん……大好き……今でも師匠の事を考えると、胸が苦しくなる……」



 「ふーん………………チッ」



 「あれ? メユちゃん……今……」







           ドンドン!!!







 その時、リビングの扉が激しくノックされ、思わず全員扉の方に顔を向ける。



 「あっ、丁度良かった。きっとひいおじいちゃんだわ」



 「「「「えっ!!?」」」」



 ソーニョの口からまさかの言葉を聞いた真緒達は、一斉に驚きの声を上げる。



 「ひいおじいちゃん、入って良いわよ」



 すると、リビングの扉がゆっくりと開かれて行く。真緒達は破裂寸前まで鳴り続ける胸の鼓動を抑え、部屋に入って来る人物を確かめる。



 「そ、そんな……嘘……」



 「ま、まざが…………」



 「こ、こんな事が本当に……」



 あり得ない。絶対にあり得ない。あの時、確かに見届けた。二千年という長い歴史の幕を閉じたその瞬間を。だが、そんな過去を全否定する存在が目の前にいた。忘れられない。忘れる筈が無い。心の底から愛した人。



 「皆さ~ん、ただいま戻りましたよ~」



 「し、師匠…………」



 いやらしく細みがかった目に、口角を限界まで伸ばしたにやけた口をした仮面を被り、仮装パーティーの様な派手な服装を着た人物が陽気な声を出しながら部屋に入って来る。それは紛れも無い、道楽の道化師“エジタス”だった。
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