33 / 275
第二章 冒険編 不治の村
鳴き声
しおりを挟む 「よし、何とかここまで来れた……」
ハナコ、リーマ、フォルス達の協力によって、真緒は何とかミルドラの角に飛び付く事が出来た。
『くそっ!! 僕の角から離れろ!!』
「(やっぱり……何故だかは分からないけど、触れているとミルドラの考えている事が分かる)」
まるで正面にいるかの様に、触れている間はミルドラの声が鮮明に聞こえて来る。
「(ミルドラの考えている事が聞こえるのなら……こっちの考えている事もミルドラに伝えられる筈……っ!!?)」
そう思ったのも束の間、ミルドラが頭を激しく上下左右に揺らし始めた。振り落とされない様、必死になって角にしがみ付く。
『離れろ!! 離れろ!!』
「うっ……くっ……!!」
激しく揺れるミルドラの頭。風の抵抗が、角にしがみついている真緒に襲い掛かる。少しでも気を緩めれば、あっという間に吹き飛ばされてしまうであろう。
「マオさん、大丈夫ですか……うわぁ!!?」
ミルドラの舌を掴み、動きを制限しているリーマも、激しく揺れる頭に連動して動く舌に翻弄されていた。掴んでいた舌を離してしまうのも、時間の問題だった。そうなれば、真緒はミルドラの“執着する舌”によって、殺られてしまうだろう。
「大丈夫か、リーマ!!」
「フォルスさん!!」
「オラ達も手伝うだぁ!!」
「ハナコさん、ありがとうございます!!」
そんな激しく揺れ動く舌を必死に押さえるリーマに、ハナコとフォルスが協力に駆け付けてくれた。舌を直接触れば、疫病に感染してしまう為、ハナコとフォルスはリーマの両腕を通して、ミルドラの舌を押さえ付けた。
「何とか……マオの説得が終わるまで耐え抜くんだ!!」
「勿論です!! この舌は死んでも離しません!!」
「マオぢゃん、頼むだよぉ!!」
真緒が説得するまで……そんな三人の願いとは裏腹に、真緒は声を掛ける事すら出来ていなかった。
「(う、動きが激し過ぎる!! これじゃあ、しがみつくのがやっとだ……)」
三人係で舌を押さえ込み、動きを制限する事は出来たが、それでも激しく揺れ動く頭に真緒はしがみつくのがやっとであり、とても自身の考えを伝える事は出来なかった。
「(一瞬で良い……どうにか……して……動きを止めて……声を掛けるチャンスを……そ、そうだ……!!)」
何か思い付いたのか、ミルドラに振り回されながら真緒は左腕だけで角にしがみ付き、外した右手を徐に突き出した。
「……“ライト”!!」
『!!?』
薄暗い炭鉱内、ミルドラの目の前が突然真っ白になる。徐に突き出した真緒の右手の掌から、炭鉱内に入った際に唱えた“ライト”よりも、数段光の強い“ライト”が発せられた。そのあまりの眩しさと、突然の出来事にミルドラの動きが一瞬固まる。
「(今なら!!……ミルドラ……ミルドラ……聞こえる?)」
『!? 誰!?』
さすがのミルドラも、突然頭の中から直接声が聞こえる事に、驚きと戸惑いが隠せなかった。思わず左右を確認してしまう程であった。
「(ここです……今、角にしがみついています……)」
『お前……!! 勝手に僕の思い出を覗き見ただけでは飽きたらず、頭の中から直接話し掛けるだなんて……絶対に殺してやる!!』
「(それについてはすみません。不可抗力とは言え、勝手に覗き見てしまった事は反省しています……)」
『煩い!! そんな上部だけの言葉に騙される僕じゃない!! お前達は、僕とエジタスの大切な家に土足で入り込んだ!! 死んで償え!!』
「(待って下さい!! 殺す前に話だけでも聞いて下さい!!)」
『黙れ黙れ!! お前の話なんか聞きたく無い!!』
「(なら、勝手に喋ります。聞き逃してくれても構いません……残念ですが、師匠は……いえ、あなたが帰りを待ち望んでいるエジタスさんは……もう二度と帰って来ません)」
『…………嘘だ!!』
「(嘘じゃありません……本当なんです……師匠……エジタスさんは、一年前に亡くなりました……)」
『嘘だ……嘘だ……エジタスが……エジタスが僕を置いて死ぬ訳が無い!! お前は嘘をついている!!』
「(証拠だってあります……あなたが付けているこの“腕輪”……これはエジタスさんが遺したとされる“ロストマジックアイテム”というアイテムです。作成者が生きている間は、何の変哲も無い只のアイテムですが……作成者が死ぬ事で、初めてそのアイテムに込められた能力が発動されるんです……これはあくまで私の考えですが……ミルドラ……あなたが使用している疫病を含んだ攻撃は、この腕輪による能力じゃないんですか? それまで疫病に関する攻撃なんて使えなかった……それが一年程前から、急に扱える様になった……違いますか?)」
『はぁ……はぁ……はぁ……違う……違う……そんな訳が無い……』
その瞬間、ミルドラの脳内でフラッシュバックが起こった。遠い記憶……エジタスに何かを手渡された記憶……。
“いいか、ミルドラ。お前にこの“腕輪”を託す……今は何の変哲も無い只の腕輪だが……いつの日か、そう……万が一俺の計画が失敗して亡くなった時、腕輪に秘められた本来の力が目覚める。そして世界中の奴等が腕輪を狙ってやって来るだろう。その時は、腕輪を全力で守れ……だが、もしその中に……………………………………………………分かったな?”
「(……私達はエジタスさんの仲間……親友でした。実は、エジタスさんが遺した“ロストマジックアイテム”を悪用しようとしている人達がいるんです……そんな人達の手に渡る前に、私達が回収しに来ました。エジタスさんが遺した物を、汚されたく無い……お願いです。どうか私達に、その腕輪を譲って頂けませんか?)」
『…………嘘だ……』
「(ミルドラ……?)」
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ………』
「(ミルドラ!?)」
まるで壊れたレコードの様に、同じ言葉を連呼する。それと同時に、ミルドラの両目が左右それぞれ不規則に、激しく動いていた。
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……エジタスが死ぬ訳が無い……僕を置いて……死ぬ訳が無い……お前達がエジタスの親友? この“大嘘付き”がぁあああああ!!!』
「!!?」
怒り。頭の中から直接聞こえる真緒にとって、鼓膜が破れても可笑しく無い程の至近距離による大声だった。その瞬間、真緒は酷い頭痛に襲われる。
『殺す!! エジタスの親友だなんて大嘘をついて、エジタスから貰った大切な腕輪を奪おうとする薄汚い詐欺師達……絶対に殺してやる!!』
「(ま、待って!! 話を……!!)」
「キィイイイイイイイイイ!!!」
「「「「!!?」」」」
真緒が話し掛けようとしたその時、ミルドラから甲高い“奇声”が発せられた。それは遠くで舌を押さえ込んでいるハナコ、リーマ、フォルスの三人にも聞こえて来た。
「……今のは……いったい何だったんでしょうか?」
「分からない……説得は成功したのか……それとも……っ!!?」
その時、フォルスが倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「フォルスさん!? 大丈夫ですか!?」
「な、何だこれは……急に気分が……」
「いったい何が……ハナコさん!! フォルスさんが……ハナコさん?」
フォルスが突然倒れた事にリーマは驚きながら、隣にいるハナコに目線を向ける。そこで目にしたのは、目が虚ろで上半身がふらふらしているハナコだった。
「リーマぢゃん……オラ……何だが急に……気分が……悪ぐ……っ!!」
「ハナコさん!!」
その瞬間、ハナコもフォルス同様倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「何が……どうなって……あれ……何だか急に息苦しく……それに吐き気も……あれ……め、目眩がする……ま、まさか……さっきの“奇声”が……!?」
倒れた二人を心配する中、リーマ自身も体調が急激に悪くなり始めた。
「駄目……今倒れたら、押さえ込んでいた舌が……戻って……マオさん……絶対に……離しちゃ……いけ……っ!!」
倒れてはいけないと、何とか意識を保とうとするリーマ。しかし、そのあまりの辛さに耐えきれず、最後には他の二人と同様、倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「キィイイイイイ!!!」
「フォルスさん……ハナちゃん……リーマ……」
最後の要であったリーマが倒れた事で、ミルドラの舌が解放された。舌が自由になったのに気が付くと、ミルドラは素早く口内へと舌を戻した。
「そんなまさか……“声”にまで、疫病が含まれているだなんて……不味い……このままじゃ……」
他の疫病を含んだ攻撃とは違い、即死では無いが、それでも声を聞いただけで体調が悪くなってしまうなど、エジタスの遺したロストマジックアイテムを甘く見ていた。
『押し付けられていた舌も戻った。これでお前達は終わりだ!!』
するとミルドラは、角にしがみ付いていた真緒を地面に振り落とした。
「うぐっ!!!」
勢い良く叩き付けられた真緒。意識が朦朧とする中、ミルドラの足を掴んで、必死に訴え掛ける。
「(……し、信じて……私達は……本当に……ししょう……の……)」
『まだ言うか!! 僕のブレスで、あの世に送ってやる!!』
そう言うとミルドラは大きく口を開き、足下にいる真緒目掛けて疫病を含んだブレスを吐こうと構える。ミルドラの口内では、深い霧状の疫病が蠢いていた。
「(し……しょ……う……)」
『死ねぇえええええええええええええええええええええええ!!! っ!?』
その時だった。ミルドラの脳内で見慣れない光景が広がった。広大な草原で熊人、魔法使い、鳥人、そして仮面を被った道化師の四人と一緒に歩いている。
『これは……!?』
すると突然場面は切り替わり、今度は海の上にいた。海賊船に乗って、楽しそうに旅している四人の光景。
『まるで誰かの目線……まさか……』
ミルドラは、足下で倒れる真緒をじっと見つめる。その間にも、場面は切り替わって行く。火山、氷の洞窟、不気味な城、巨大な樹木。それは今まで真緒が仲間達と供に、冒険して来た思い出の数々だった。そしていつも側には、仮面を被った道化師がいた。ミルドラはその姿に見覚えがあった。忘れる筈が無い。ずっと待ち続けている存在。
『そんな……この子が言っていた事が本当なら……エジタスは……エジタスはもう……』
陽気に振る舞うエジタスの姿。心が締め付けられる。悲しみが広がり、目から涙が流れ落ちる。ミルドラはゆっくりと口を閉じる。そして少し上を向き、再び大きく口を開いた。
「ミー……ミー……ミー……」
「……ミル……ドラ……?」
それは今までの声からは想像出来ない程、愛らしく弱々しい鳴き声だった。まるで病弱な子猫が最後の力を振り絞って泣く様な、か細い声だった。
『本当に……ほんとうに……死んじゃったの……? エジタス……』
ミルドラの鳴き声は、炭鉱内に響き渡る。涙に暮れるミルドラの脳内では、エジタスとの思い出が甦っていた。
ハナコ、リーマ、フォルス達の協力によって、真緒は何とかミルドラの角に飛び付く事が出来た。
『くそっ!! 僕の角から離れろ!!』
「(やっぱり……何故だかは分からないけど、触れているとミルドラの考えている事が分かる)」
まるで正面にいるかの様に、触れている間はミルドラの声が鮮明に聞こえて来る。
「(ミルドラの考えている事が聞こえるのなら……こっちの考えている事もミルドラに伝えられる筈……っ!!?)」
そう思ったのも束の間、ミルドラが頭を激しく上下左右に揺らし始めた。振り落とされない様、必死になって角にしがみ付く。
『離れろ!! 離れろ!!』
「うっ……くっ……!!」
激しく揺れるミルドラの頭。風の抵抗が、角にしがみついている真緒に襲い掛かる。少しでも気を緩めれば、あっという間に吹き飛ばされてしまうであろう。
「マオさん、大丈夫ですか……うわぁ!!?」
ミルドラの舌を掴み、動きを制限しているリーマも、激しく揺れる頭に連動して動く舌に翻弄されていた。掴んでいた舌を離してしまうのも、時間の問題だった。そうなれば、真緒はミルドラの“執着する舌”によって、殺られてしまうだろう。
「大丈夫か、リーマ!!」
「フォルスさん!!」
「オラ達も手伝うだぁ!!」
「ハナコさん、ありがとうございます!!」
そんな激しく揺れ動く舌を必死に押さえるリーマに、ハナコとフォルスが協力に駆け付けてくれた。舌を直接触れば、疫病に感染してしまう為、ハナコとフォルスはリーマの両腕を通して、ミルドラの舌を押さえ付けた。
「何とか……マオの説得が終わるまで耐え抜くんだ!!」
「勿論です!! この舌は死んでも離しません!!」
「マオぢゃん、頼むだよぉ!!」
真緒が説得するまで……そんな三人の願いとは裏腹に、真緒は声を掛ける事すら出来ていなかった。
「(う、動きが激し過ぎる!! これじゃあ、しがみつくのがやっとだ……)」
三人係で舌を押さえ込み、動きを制限する事は出来たが、それでも激しく揺れ動く頭に真緒はしがみつくのがやっとであり、とても自身の考えを伝える事は出来なかった。
「(一瞬で良い……どうにか……して……動きを止めて……声を掛けるチャンスを……そ、そうだ……!!)」
何か思い付いたのか、ミルドラに振り回されながら真緒は左腕だけで角にしがみ付き、外した右手を徐に突き出した。
「……“ライト”!!」
『!!?』
薄暗い炭鉱内、ミルドラの目の前が突然真っ白になる。徐に突き出した真緒の右手の掌から、炭鉱内に入った際に唱えた“ライト”よりも、数段光の強い“ライト”が発せられた。そのあまりの眩しさと、突然の出来事にミルドラの動きが一瞬固まる。
「(今なら!!……ミルドラ……ミルドラ……聞こえる?)」
『!? 誰!?』
さすがのミルドラも、突然頭の中から直接声が聞こえる事に、驚きと戸惑いが隠せなかった。思わず左右を確認してしまう程であった。
「(ここです……今、角にしがみついています……)」
『お前……!! 勝手に僕の思い出を覗き見ただけでは飽きたらず、頭の中から直接話し掛けるだなんて……絶対に殺してやる!!』
「(それについてはすみません。不可抗力とは言え、勝手に覗き見てしまった事は反省しています……)」
『煩い!! そんな上部だけの言葉に騙される僕じゃない!! お前達は、僕とエジタスの大切な家に土足で入り込んだ!! 死んで償え!!』
「(待って下さい!! 殺す前に話だけでも聞いて下さい!!)」
『黙れ黙れ!! お前の話なんか聞きたく無い!!』
「(なら、勝手に喋ります。聞き逃してくれても構いません……残念ですが、師匠は……いえ、あなたが帰りを待ち望んでいるエジタスさんは……もう二度と帰って来ません)」
『…………嘘だ!!』
「(嘘じゃありません……本当なんです……師匠……エジタスさんは、一年前に亡くなりました……)」
『嘘だ……嘘だ……エジタスが……エジタスが僕を置いて死ぬ訳が無い!! お前は嘘をついている!!』
「(証拠だってあります……あなたが付けているこの“腕輪”……これはエジタスさんが遺したとされる“ロストマジックアイテム”というアイテムです。作成者が生きている間は、何の変哲も無い只のアイテムですが……作成者が死ぬ事で、初めてそのアイテムに込められた能力が発動されるんです……これはあくまで私の考えですが……ミルドラ……あなたが使用している疫病を含んだ攻撃は、この腕輪による能力じゃないんですか? それまで疫病に関する攻撃なんて使えなかった……それが一年程前から、急に扱える様になった……違いますか?)」
『はぁ……はぁ……はぁ……違う……違う……そんな訳が無い……』
その瞬間、ミルドラの脳内でフラッシュバックが起こった。遠い記憶……エジタスに何かを手渡された記憶……。
“いいか、ミルドラ。お前にこの“腕輪”を託す……今は何の変哲も無い只の腕輪だが……いつの日か、そう……万が一俺の計画が失敗して亡くなった時、腕輪に秘められた本来の力が目覚める。そして世界中の奴等が腕輪を狙ってやって来るだろう。その時は、腕輪を全力で守れ……だが、もしその中に……………………………………………………分かったな?”
「(……私達はエジタスさんの仲間……親友でした。実は、エジタスさんが遺した“ロストマジックアイテム”を悪用しようとしている人達がいるんです……そんな人達の手に渡る前に、私達が回収しに来ました。エジタスさんが遺した物を、汚されたく無い……お願いです。どうか私達に、その腕輪を譲って頂けませんか?)」
『…………嘘だ……』
「(ミルドラ……?)」
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ………』
「(ミルドラ!?)」
まるで壊れたレコードの様に、同じ言葉を連呼する。それと同時に、ミルドラの両目が左右それぞれ不規則に、激しく動いていた。
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……エジタスが死ぬ訳が無い……僕を置いて……死ぬ訳が無い……お前達がエジタスの親友? この“大嘘付き”がぁあああああ!!!』
「!!?」
怒り。頭の中から直接聞こえる真緒にとって、鼓膜が破れても可笑しく無い程の至近距離による大声だった。その瞬間、真緒は酷い頭痛に襲われる。
『殺す!! エジタスの親友だなんて大嘘をついて、エジタスから貰った大切な腕輪を奪おうとする薄汚い詐欺師達……絶対に殺してやる!!』
「(ま、待って!! 話を……!!)」
「キィイイイイイイイイイ!!!」
「「「「!!?」」」」
真緒が話し掛けようとしたその時、ミルドラから甲高い“奇声”が発せられた。それは遠くで舌を押さえ込んでいるハナコ、リーマ、フォルスの三人にも聞こえて来た。
「……今のは……いったい何だったんでしょうか?」
「分からない……説得は成功したのか……それとも……っ!!?」
その時、フォルスが倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「フォルスさん!? 大丈夫ですか!?」
「な、何だこれは……急に気分が……」
「いったい何が……ハナコさん!! フォルスさんが……ハナコさん?」
フォルスが突然倒れた事にリーマは驚きながら、隣にいるハナコに目線を向ける。そこで目にしたのは、目が虚ろで上半身がふらふらしているハナコだった。
「リーマぢゃん……オラ……何だが急に……気分が……悪ぐ……っ!!」
「ハナコさん!!」
その瞬間、ハナコもフォルス同様倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「何が……どうなって……あれ……何だか急に息苦しく……それに吐き気も……あれ……め、目眩がする……ま、まさか……さっきの“奇声”が……!?」
倒れた二人を心配する中、リーマ自身も体調が急激に悪くなり始めた。
「駄目……今倒れたら、押さえ込んでいた舌が……戻って……マオさん……絶対に……離しちゃ……いけ……っ!!」
倒れてはいけないと、何とか意識を保とうとするリーマ。しかし、そのあまりの辛さに耐えきれず、最後には他の二人と同様、倒れる様に膝から地面に崩れ落ちた。
「キィイイイイイ!!!」
「フォルスさん……ハナちゃん……リーマ……」
最後の要であったリーマが倒れた事で、ミルドラの舌が解放された。舌が自由になったのに気が付くと、ミルドラは素早く口内へと舌を戻した。
「そんなまさか……“声”にまで、疫病が含まれているだなんて……不味い……このままじゃ……」
他の疫病を含んだ攻撃とは違い、即死では無いが、それでも声を聞いただけで体調が悪くなってしまうなど、エジタスの遺したロストマジックアイテムを甘く見ていた。
『押し付けられていた舌も戻った。これでお前達は終わりだ!!』
するとミルドラは、角にしがみ付いていた真緒を地面に振り落とした。
「うぐっ!!!」
勢い良く叩き付けられた真緒。意識が朦朧とする中、ミルドラの足を掴んで、必死に訴え掛ける。
「(……し、信じて……私達は……本当に……ししょう……の……)」
『まだ言うか!! 僕のブレスで、あの世に送ってやる!!』
そう言うとミルドラは大きく口を開き、足下にいる真緒目掛けて疫病を含んだブレスを吐こうと構える。ミルドラの口内では、深い霧状の疫病が蠢いていた。
「(し……しょ……う……)」
『死ねぇえええええええええええええええええええええええ!!! っ!?』
その時だった。ミルドラの脳内で見慣れない光景が広がった。広大な草原で熊人、魔法使い、鳥人、そして仮面を被った道化師の四人と一緒に歩いている。
『これは……!?』
すると突然場面は切り替わり、今度は海の上にいた。海賊船に乗って、楽しそうに旅している四人の光景。
『まるで誰かの目線……まさか……』
ミルドラは、足下で倒れる真緒をじっと見つめる。その間にも、場面は切り替わって行く。火山、氷の洞窟、不気味な城、巨大な樹木。それは今まで真緒が仲間達と供に、冒険して来た思い出の数々だった。そしていつも側には、仮面を被った道化師がいた。ミルドラはその姿に見覚えがあった。忘れる筈が無い。ずっと待ち続けている存在。
『そんな……この子が言っていた事が本当なら……エジタスは……エジタスはもう……』
陽気に振る舞うエジタスの姿。心が締め付けられる。悲しみが広がり、目から涙が流れ落ちる。ミルドラはゆっくりと口を閉じる。そして少し上を向き、再び大きく口を開いた。
「ミー……ミー……ミー……」
「……ミル……ドラ……?」
それは今までの声からは想像出来ない程、愛らしく弱々しい鳴き声だった。まるで病弱な子猫が最後の力を振り絞って泣く様な、か細い声だった。
『本当に……ほんとうに……死んじゃったの……? エジタス……』
ミルドラの鳴き声は、炭鉱内に響き渡る。涙に暮れるミルドラの脳内では、エジタスとの思い出が甦っていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる