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第二章 冒険編 不治の村

ヘッラアーデ幹部

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 ゴルド帝国。入り口から城まで一本道の構造をしており、左右には規則正しく建物が建ち並ぶ。全ての建物が均一化されており、違う外見をした建物は存在しない。そんな舗装された一本道を、一人の女性が歩いている。誰であろう、大司教エイリスである。



 「エイリス様だ!!」



 「エイリス様!!」



 「大司教エイリス様!!」



 「我らが救世主!!」



 「きゃー、エイリス様!!」



 カルド王国から戻って来たエイリスを出迎える様に、ゴルド帝国の国民達から黄色い声が飛び交う。中には耳を塞ぎたくなる様な、かん高い声も交じっていた。エイリスは優しい笑みを浮かべ、ゴルド城まで国民達に手を振りながら歩いて行く。



 「おい、エイリス様が俺に手を振ってくれたぞ!!」



 「馬鹿、あれは俺に手を振ってくれたんだよ!!」



 「違うわ!! あたしに振ってくれたのよ!! 思い上がりも甚だしいわ!!」



 「何だと!!?」



 しかしその裏では、国民達がエイリスを巡っての喧嘩や争いが絶えなかった。



 「(……うんうん……今日も、程よく喧嘩していますね)」



 そんな状況にも関わらず、エイリスは黙認していた。それどころか、喧嘩や争いを推奨している様にも見受けられる。



 「(皆、私の為に争っている……私の為に拳を突き出し、私の為に血を流している……あぁ、私を中心に世界が回っていると実感出来る……とても……とても気分が良い……)」



 自己顕示欲。周囲から注目され、認められる。今この時、エイリスの気持ちは高ぶっていた。手を振るだけで、自分という存在が証明出来る喜びに浸っていた。



 「(本部へ行くのに、わざわざゴルド帝国の入り口から歩くのは面倒だけど……やっぱり、この快感は止められないわ……)」



 エイリスはエジタスと同じ、“転移魔法”を扱う事が出来る。つまり、わざわざゴルド帝国の入り口から歩かなくても、直接ヘッラアーデの本部に転移する事も出来るのだ。しかしそうしない。何故なら、自己顕示欲の塊である彼女は、周囲から注目されたいと思っている為、わざとゴルド帝国の入り口から歩いているのだ。その個人的欲求によって、多くの国民達が喧嘩や争いを繰り返すが、彼女からすれば些細な出来事なのだ。そんな彼女の後に続いて、国民達が付いて行く。そしてゴルド城に入る直前、エイリスは後ろから付いて来ている国民達の方に振り返り、最後の“爆弾”を投下する。



 「それでは……ご機嫌よう……」



 その瞬間、国民同士の殴り合いが始まる。わざと“皆さん”とは言わず、“ご機嫌よう”だけで済ませる事で、誰に向けて言ったのかという疑問を抱かせる。そしてあの言葉は自分に向けて言われたのだと、自信過剰な国民達が勝手に争いを始めてしまった。エイリスは満面の笑みを浮かべながら、ゴルド城内へと向かうのであった。







***







 ゴルド城内。カルド城内と比べると、何処と無く暗い雰囲気を醸し出しており、壁や床やカーペットなど全体的に赤と黒の配色が多く見受けられた。そんなゴルド城内をエイリスは淡々と歩いて行く。ある程度、奥まで進んで行くと巨大な扉が見えて来た。その前には、鎧を身に纏った兵士らしき男が立っていた。



 「これは大司教エイリス様、お疲れ様です!!」



 「お疲れ様です。“幹部”は全員揃っているのですか?」



 「はい、既に三人全員が中でお待ちしています。どうぞ、お入り下さい」



 そう言うと兵士は、その巨大な扉の片方をゆっくりと開ける。流石に一人でキツかったのか、完全に開ける頃には汗だくになっていた。



 「ご苦労様です、いつも助かります」



 「いえ、大司教エイリス様の為ならこの程度、苦でも何でもありません!!」



 「あら、嬉しいです。それじゃあ、私が入った後の閉める作業も頑張って下さいね」



 「はい!!」



 エイリスに褒められ、舞い上がった兵士はエイリスが中へと入った後、汗だくになっていた事も忘れ、一心不乱に開けた巨大な扉を閉めるのであった。







***







 「皆さん、本日は急な会議に集まって下さり、ありがとうございます」



 エイリスが入った部屋には、中央に巨大な円卓と四つの椅子だけが置かれていた。あまりにも殺風景な部屋に思えるが、その椅子に座るエイリスを含めた四人の人物は実に濃いメンバーだった。その内の一人は、ヘッラアーデ13支部の時にもいたノーフェイス。



 「全くいい迷惑だ。私には、やらなければいけない事があるというのに……くだらない内容だったら帰るからな」



 二人目は、赤を強調した鎧を身に着け、一本に纏めたポニーテール風のブロンド髪をした女性が腕組みをしながら座っていた。エイリスによる突然の召集に、苛立ちを見せる彼女の容姿は美人に思えるが、良く言えばクールで大人の女性、悪く言えば目付きの悪い女性だった。



 「まぁまぁ~、良いじゃないですか~。こうして~、幹部が全員揃う事なんて~、滅多に無い事なんですから~」



 三人目は赤、青、黄色、黒の四色に彩られた非常にカラフルな衣装を身に着け、褐色の肌をした中肉中背で薄い顎髭を生やした男が、苛立ちを見せる女性を宥める様に座っていた。中肉中背の体をしながらも、腕や足は細く、非常にアンバランスな見た目をしていた。因みに、髪の毛は一切生えておらず、スキンヘッドだった。



 「それでは本題に入る前に、いつもの提示報告を行います。既に、1から5支部を担当しているノーフェイスからは、報告を受けているから、6から10支部を担当している“ロージェ”から、お願いするわ」



 基本的に、ヘッラアーデ本部は大司教であるエイリスが管理しており、他の全15支部はそれぞれ幹部である三人が管理している。エイリスの言葉を聞いて、腕組みをしながら座っていた“ロージェ”と呼ばれる女性が口を開く。



 「6から10支部は、特にこれと言った報告は無い」



 「そうですか……分かりました」



 「ちょっとちょっと~、ロージェさ~ん。何なんですか~、その態度は~? エイリス様に対する~、態度じゃ無いと~、思うんですが~?」



 苛立ちを見せ、素っ気ない態度を取るロージェに対して、中肉中背の体をした男が異議申し立てる。



 「良いのですよ“フェスタス”、急に召集を掛けられたのですから、当然の態度だと思います」



 「エイリス様は~、甘過ぎるんですよ~、こんな不真面目な奴が崇高なるヘッラアーデの幹部だなんて~、教団員達の面目が丸潰れですよ~」



 “フェスタス”と呼ばれる中肉中背の体をした男は、ロージェに突っ掛かる様に、嫌みを効かして喋る。



 「ふん、そもそも私は、お前達が崇めているエジタスとか言う奴の事など、全く興味が無い」



 「!!? な、な、何ですって~!!?」



 ロージェの言葉に、フェスタスはわざとらしく椅子から立ち上がって、大袈裟に驚いて見せた。



 「私はこの世界を苦しみや争いの無い幸せで平和な世界にしたいと思ったから、このヘッラアーデに入っただけだ。つまり、利害が一致しただけでエジタスなんて奴を崇めるつもりは無い」



 「聞きましたか~? こんな裏切り者は~、この場で始末した方が~、良いですよ~」



 「止めなさいフェスタス。ロージェも、崇める崇めないは自由だけど、もっと自分の言葉に責任を持ちなさい」



 「やれやれ~」



 「…………ふん」



 エイリスの仲裁によって、フェスタスは仕方無いなという態度を見せながらも、椅子に座った。ロージェも素っ気ない態度を取りながらも、口を閉じた。



 「……さて、再開しましょう。それでは……11から15支部を担当しているフェスタスは、何かありますか?」



 「は~い、勿論で~す!! 実は12支部の教団員達が~、エジタス様のロストマジックアイテムの存在を確認したんですよ~」



 「あら、それは本当ですか?」



 「は~い!! 約一年前、小さな村で突如謎の疫病が蔓延し始めたらしいのですよ~!! 何でも治療法が見つからない未知の病気らしくて~、研究しようにも~、近付いた研究者自身が感染してしまうらしいのですよ~」



 「成る程……確かに、そんな超常現象はエジタス様のロストマジックアイテムの効力に間違いありませんね」



 「そうですよねそうですよね~、なので今すぐ11から15支部にいる教団員達を総動員させて、疫病を発生させている発現元のロストマジックアイテムを回収させたいと思いま~す」



 「……申し訳ありませんが、それは許可する事が出来ません」



 「…………はぁ~?」



 今まで楽しく陽気に喋っていたフェスタスだったが、エイリスに回収を断られた瞬間、音程が低くなった。



 「ちょっとちょっと~、何言ってるんだよ~、今回収しないで~、いつ回収するって言うんだよ~。おい、大司教だからってあまり調子に乗るなよ……俺が誰か分かって物を言ってるんだよな? 俺は!! あの道楽の道化師であるエジタスの!! お前達が崇めているエジタスの!! “息子”なんだぞ!?」



 「「…………」」



 エジタスの息子を名乗るフェスタス。そんなフェスタスに対して、エイリスとロージェは黙って聞いていた。そして聞き終えるとエイリスは、ゆっくりと口を開く。



 「フェスタス……前も言いましたが、あなたがエジタス様の息子だと言う証拠は……」



 その瞬間、エイリスの目の前にある円卓に巨大な腕が叩き込まれる。その腕は、フェスタスの細い腕が巨大化した物であり、円卓には大きなヒビが入った。



 「これが証拠……俺は、父親であるエジタスが素顔を晒した時に扱える“骨肉魔法”を扱えるの」



 「……分かりました……回収を許可しましょう……」



 「……いや~、すみませんね~!! こんな乱暴な事をしてしまって~、エイリス様があまりにも“愚か”な事を言う物だから~、つい力が入ってしまいましたよ~。それじゃあ、先に失礼しますね~、11から15支部の教団員達に回収を命じますので~」



 百八十度テンションが変わったフェスタスは、満足した様にスキップを踏みながら部屋を後にするのであった。



 「…………良いのか? 私が言うのも何だが、フェスタスの奴を野放しにすれば、このヘッラアーデは破滅するぞ?」



 エイリス、ノーフェイス、ロージェの三人だけになり、気まずい雰囲気がただよう中、ロージェがエイリスに大丈夫なのかと問い掛ける。



 「……心配無用です。どうせ、ロストマジックアイテムの回収は不可能ですから……」



 「どう言う意味だ?」



 するとエイリスは、懐から古ぼけた本を取り出した。ヘッラアーデ13支部でも見せたエジタスの日記である。



 「エジタス様の日記には、ロストマジックアイテムの事だけでは無く、それを守る“守護者”の事も書かれていました」



 「“守護者”?」



 「エジタス様は生前、六つのロストマジックアイテムを作られました。そして、その六つをそれぞれ最も信頼の置ける者に……それこそ、エジタス様が自らの素顔を晒してまで託す程の人物達に……」



 「す、素顔を晒してまで……だと……」



 エジタスは、決して人前で素顔を晒さない。あのラクウン、エピロ、ジョッカーの三人でさえも、エジタスの素顔は知らなかった。そんなエジタスが素顔を晒してまで、託すなど考えられない。



 「エジタス様が、心から信頼している人物が守るロストマジックアイテム……それをあんな自称息子如きが……回収出来る訳が無いでしょう……」



 「エイリス……お前まさか……今回の召集……」



 「えぇ、この事実を伝える為に急遽集まって貰いました」



 「……つまり、フェスタスは良い様に利用されたと……」



 「あらあら、私はちゃんとお伝えするつもりでした……でも、彼が勝手に出て行ってしまったので……仕方ありませんね……」



 「(出て行く様に仕向けたんだろうが……わざとフェスタスを怒らせ、事を急ぐ様にした。ロストマジックアイテムを守る守護者の実力を図る為に……全く恐ろしい女だ……)」



 「ふふ、楽しみですね。フェスタスがエジタス様のロストマジックアイテムの一つを回収して来るのが……ふふふ……」



 その時、ロージェは背筋が凍り付くのを感じた。その目線の先には、まるで悪魔の様に、嫌らしく狡猾な笑みを浮かべるエイリスの姿があった。
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