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第一章 新たなる旅立ち

表と裏

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 「“レッマイル”ですか?」



 全く聞いた事の無い言葉に、真緒達は首を傾げる。



 「それはあれか、最近世界各国で注目を集めているボランティア団体の事か?」



 「はい、その通りです」



 そんな中、フォルスだけが知っている様な反応を示した。



 「フォルスさん、知っているんですか?」



 「まぁ、噂位ならな。一年程前から目立ち始めた団体で、主に貧困層の救済を方針にして活動しているらしい」



 「フォルスさんの言う通り、“レッマイル”は貧困による飢えで苦しんでいる人々にパンとスープを毎日無償で提供し、寒さで苦しんでいる人々には暖かい服や毛布を無償で提供するなど、慈善活動に余念が無いボランティア団体です」



 「パンやスープを毎日無償で提供しているんですか!?」



 「それに加えて服や毛布まで……どうやら“レッマイル”という団体は、かなりの資金力を持っている様ですね」



 「世界各国どなるど、がなり大規模な団体に思えるだぁ」



 貧しい人達に対しての親切な行動の数々だが、パンやスープだってタダでは無い。服や毛布も、それぞれでサイズや大きさが異なる為、その度に用意しなければならない。また、そんな活動を世界各国で行っているならば、それなりの資金や人材が必要となってくる。以上の点から、“レッマイル”はかなり巨大な団体だという事が伺える。



 「そうですね。かく言うこの国にも“レッマイル”の方々が入国されており、“スラム街”を中心に活動を行っている様です」



 「“スラム街”?」



 「そうか、マオはこの国で暮らし始めて日が浅いから知らないんだな」



 「そう言う事でしたら、私がご説明しましょう」



 この異世界に転移し、本格的に暮らし始めた真緒にとって、カルド王国はまだまだ知らない未開の地。その全体を把握しきれてはいない。そんな真緒に対して、リリヤが説明を買って出る。



 「人間に表と裏がある様に、このカルド王国にも表と裏が存在します。皆さんが住んでいる城下町やカルド城が表。スラム街が裏となります。スラム街は、このカルド城で私腹を肥やしたいと考えた富裕層の方々が、無理な徴収を進めた事で職を失ったり、払えるお金が無くなり無理矢理退去させられてしまった、貧困層の方々によって形成された場所になります」



 「そんな……こんな平和そうな国なのに……」



 「平和な国程、そうした汚い部分を明るみにしようとしない。ずっと城下町に住んでいる者にとってスラム街は、自ら進んで調べなければ分からない情報だ。マオが知らなかったのも無理は無い」



 人は好んで汚い物を見ようとしない。出来る限り人の目に触れない場所へと、一ヶ所に集めて必死に隠そうとする。それこそが、自身の心を綺麗に保つ為の最善の方法なのだから。



 「で、でもですよ……そんな差別的な出来事を、先代の王であるカルド王が黙って見ていたんですか?」



 「……お恥ずかしい話、父上は戦争上がりの国王。金銭面や、政治面には疎い方でした。その為、二つの面は第一王女であるシーリャ……つまり、私の御姉様が一任しておりました」



 「「「「!!?」」」」



 まさか再び、その名を聞く事になろうとは……カルド王国第一王女シーリャ。一年前、マオがこの異世界に転移する切っ掛けとなった張本人。亜人や魔族と言った多種族に対して、険悪な態度を取っていた。しかし、真緒と一緒に転移して来た聖一、愛子、舞子と供に旅に出掛けた所、その行方が分からなくなってしまった。



 「こちらとしても、スラム街に住む人々を何とか救済出来ない物かと、色々試みてはいるのですが……御姉様の影響力は強く、行方不明になった後でも御姉様を支持する富裕層の方々が、未だにいる様です」



 無能なお姫様の印象が強かったシーリャ。しかしその裏では、富裕層の心を確りと鷲掴みにしていた。人間誰にでも、得意な分野があるという事なのだろう。



 「それとは対照的に、貧困層の方々はパンやスープを毎日無償で提供して下さる“レッマイル”の人達を支持している様です」



 「まぁ、当然と言えば当然だな」



 「“レッマイル”の人達のおかげで少しではありますが、スラム街の一部が豊かになり始めています」



 「良かったじゃないですか。それで結局、その団体が師匠にどう関わっているんですか?」



 「…………」



 真緒の質問に対して、リリヤは急に黙り込んでしまった。



 「……あの……リリヤさ「“レッマイル”は……」……?」



 「……“レッマイル”は貧しい人々を救済する……正に正義感の塊みたいな方々です……そう……“表向き”は……」



 「「「……えっ?」」」



 「そう言う事か……」



 含みのある言い方に真緒、ハナコ、リーマの三人が首を傾げる中、フォルスだけが何かを察した。



 「これから話す情報は、私と極一部の人物しか知らない情報です……」



 先程の明るく高い声とは裏腹に、暗く低い凄みのある声へと変わる。若くして就任したとは言え、王は王。一年あまりではあるが、それなりの貫禄をこの時感じた。



 「“レッマイル”は、世間一般で知られている表向きな団体。しかしその裏では、別の名の団体を名乗っています……その名は“ヘッラアーデ”……」



 「“ヘッラアーデ”……」



 「“ヘッラアーデ”は、ある一人の人物を神と崇め、その神の名の下に国家転覆等の大規模なテロ行為を行う危険な思想を持つ宗教団体です」



 「宗教団体……いや、それよりもその一人の人物ってまさか!?」



 これまでの話の流れから、その神と崇められている人物が誰なのか気が付いた真緒。



 「そうです……その人物こそが一年前、この世界を“笑顔の絶えない世界”にしようとしていた人物であり、皆さんの大切な人でもある“エジタス”さんです」



 「表向きはボランティア団体、裏向きは宗教団体、皮肉にも人々を救済する意味では同じ存在だな……」



 「で、でも、その“レッマイル”や“ヘッラアーデ”は一年前から現れた団体なんですよね!? その時師匠は私達と行動を供にしている……いったいどう言う関わりがあるんですか!?」



 真緒の言い分は最もだった。一年前、エジタスは魔王軍四天王の一人として、勇者である真緒達の監視をしていた。一年前から現れた“レッマイル”と“ヘッラアーデ”に関わる事は、状況的に難しい。



 「確かに……その状況での関わりは難しい……ですが、間接的な関わり合いだったら話は別です」



 「……どう言う事ですか?」



 「……あの日、一年前のあの日……魔王城の方向に突如、巨大な何かが現れました。ある者達は化物だと叫び、ある者達は世界の終わりだと叫び、そしてある者達は……神の降臨だと叫んだ……」



 「「「「!!?」」」」



 そう言うとリリヤは、その場を少し離れ、歩きながら喋り始める。



 「あの時の出来事を、神の降臨だと叫ぶのは勝手です……人にはそれぞれ違った解釈があります。それを否定するのは、野暮に当たります……ですが、そんな神への信仰心が強い人々を一つにまとめ上げた者がいる……その人物こそが、“レッマイル”と“ヘッラアーデ”の創設者……名を……“大司教”」



 「……“大司教”……」



 「“ヘッラアーデ”は“レッマイル”の裏の顔……それは言わば、“レッマイル”がいる所には裏で“ヘッラアーデ”が暗躍しているという事……つまりこの国も、“ヘッラアーデ”に狙われているのです……」



 「そんな……“ヘッラアーデ”はそんなに危険な団体なんですか?」



 「……既に、西の大陸にあるゴルド帝国は“ヘッラアーデ”の手に落ちました」



 「な、何!? あの帝国が!?」



 帝国というリリヤの言葉に、フォルスが驚きの声を上げる。



 「東のカルド、西のゴルドと言われる程の大国でした……しかし、約半年前の事です……それまで友好関係を築いていた筈のゴルド帝国皇帝ゴルドが、このカルド王国に向けて突然、侵略を始めたのです」



 「ば、馬鹿な!? ゴルド帝国の皇帝ゴルドは、その人柄の良さから世界で最も争いを好まない人物として知られている。そのゴルドが、カルド王国に向けて戦争を仕掛けているのか!?」



 「私も未だに信じられません……あの優しいゴルドおじさんが……帝国がその様な事になってしまった原因……それこそが“ヘッラアーデ”が関わったからだと聞いております」



 「聞いている……さっきから思っていたのですが……リリヤはどうしてそんな“ヘッラアーデ”について詳しいんですか?」



 一年前から現れた謎の団体。そんな団体の情報を事細かに知っているリリヤに、真緒は疑問の眼差しを向ける。



 「…………実は、一ヶ月程前から私の手の者を“レッマイル”に潜り込ませているのです……いいですよ、入って来て下さい!!」



 リリヤがそう言うと、王の間の扉が開き、一人の兵士が入って来た。



 「紹介します。私の近衛兵で現在“レッマイル”で、潜入調査を行っている“リップ”です」



 「“リップ”です!! どうぞよろしくお願いします!!」



 リップと呼ばれる少年は、先程まで見て来た若い兵士よりも更に若く、背丈もかなり小さい為、着ている鎧が合っておらず、ぶかぶかだった。



 「さて……ここから皆さんを御呼び立てした本題となります……このリップと一緒に“レッマイル”で潜入調査を行って貰い、そして上手く取り入って“ヘッラアーデ”に潜り込んで欲しいのです。そこで“ヘッラアーデ”の真の目的を探って来て欲しいのです」
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