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最終章 笑顔の絶えない世界

食堂のおばちゃん

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 食堂のおばちゃん。本名は“クオ”、かつて四天王入りは確実と称されていた存在である。そんな彼女の二つ名は“深紅の鬼”、クオの種族でもあるオークは本来、緑色の体をしている。それが何故“深紅の鬼”と呼ばれる様になったのか。それは戦場においてクオは、敵を己の拳で叩き潰して来た際に、敵の返り血を大量に浴びた事から、全身が真っ赤に染まったのだ。その時からクオは、“深紅の鬼”と呼ばれる様になった。



 「スキル“無双乱激”」



 「危ない!!避けろ!!」



 「!!!」



 そんな食堂のおばちゃん、クオの拳から放たれたスキル“無双乱激”が、フォルスとシーラ目掛けて襲い掛かる。シーラの叫びにフォルスは、慌ててその場から離れた。すると、フォルスがいた場所にあったテーブルや椅子は、跡形も無く粉々になった。



 「さ、さっきもそうだったが……何なんだあのスキルは!?」



 「“無双乱激”……自身の拳に、高密度な空気を生成する。そんな高密度な空気の塊を前に突き出す事で、高密度の空気が殴った衝撃で分裂を起こす。そして、その分裂した勢いのまま、突きだした方向へと飛んで行く…………それが“無双乱激”の構造…………」



 「それはつまり、あの太くて大きな拳が距離を無視して、無数に飛んで来るという事か。しかも、飛んで来る拳は空気の分裂の為、肉眼で確認する事は出来ない…………厄介だな……」



 「あぁ……威力はさっき見た通り、家具を粉々にする程だ」



 言い換えれば、見えない大砲。まともに食らえば命は無いだろう。



 「スキル“無双乱激”」



 「また来るぞ!!避けるんだ!!」



 「!!!」



 クオの拳から放たれるスキル“無双乱激”が、フォルスとシーラに襲い掛かる。二人は互いに、反対方向へと体を動かして回避した。この時、一直線に放たれた“無双乱激”によって、壁はまるで無数の拳で殴られた様に、生々しい後が残った。



 「くそっ!!出来る事なら、空を飛んで攻撃を仕掛けたいが、この食堂は天井が低い!!」



 「魔王軍兵士の全員が、食事を可能とする為に横を広くしているんだ!!」



 天井の低さが原因で、フォルスは空を飛ぶ事が出来ず、空中での射撃が封じられてしまった。



 「……だが、例え天井に充分な高さがあったとしても、あのスキル“無双乱激”がある限り、放った矢は全て相殺されてしまう…………いったいどうすれば……」



 「そこは私に任せてくれ!!おばちゃんを倒す秘策があるんだ!!」



 「本当か!!?」



 自身の長所を、完全に潰されてしまったフォルスだったが、シーラの自信に満ち溢れた言葉に勝つ可能性を感じた。



 「だが、それには少しだけ時間が掛かる!!フォルス、私の準備が整うまで時間稼ぎをしてくれないか!!?」



 「任せろ!!俺が上手く惹き付けておいてやる!!」



 「油断するなよ!!相手は、四天王入り確実と呼ばれた人だ!!あっという間に足元を掬われてしまうぞ!!」



 「分かった!!」



 そう言うとフォルスは、クオに向けて弓を構えた。一方シーラの方は、自身の武器である槍を取り出すと直立に構えて、目を瞑り意識を集中させた。



 「食事……邪魔すル奴……殺ス……」



 「おい、こっちだ!!俺はここにいるぞ!!」



 「邪魔…………殺ス……!!!」



 フォルスは時間を稼ぐ為に、只ひたすらにクオ目掛けて矢を放った。



 「スキル“無双乱激”」



 「!!!」



 しかし、その攻撃もクオのスキル“無双乱激”によって跡形も無く、粉々になった。フォルスは身の危険を感じて、その場から急いで離れた。すると、先程と同じ様に無数の拳で殴られた様に、生々しい後が壁に残った。



 「まだまだ!!“ウインド”!!」



 フォルスの矢に風がまとわりつく……強い力に、カタカタと震える弓矢をしっかりと指で押さえる。



 「貫け!!“ブースト”!!」



 フォルスから放たれた矢は、途中から風の力によって肉眼では捉えきれない速度となり、クオ目掛けて飛んで行く。



 「これならどうだ!!」



 「スキル“無双乱激”」



 しかし、それすらもクオのスキル“無双乱激”によって跡形も無く、粉々になった。



 「こんな強さ、有り得ないだろ!?」



 フォルスは、クオのスキル“無双乱激”を避けながら必死に、シーラへの時間を稼ぐ。



 「スキル“無双乱激”」



 「だが……行ける!!この調子なら容易く時間を稼ぐ事が出来……!!?」



 一見、無敵とも思えるスキル“無双乱激”も、一直線にしか飛ばない事を考えれば、避けるのは容易い。フォルスは、充分な時間を稼げると確信した。そして、その油断から転んでしまった。



 「し、しまった!!」



 フォルスが転んでしまった原因、それはクオがスキル“無双乱激”を連続で放った影響で、床にひびが入っていた。そのひびにフォルスは足を引っ掻けて、転んでしまったのだ。



 「…………殺られる!!」



 終わった。シーラに言われたばかりだったのに、完全に油断してしまった。フォルスは死を覚悟した。



 「スキル……「フォルス、よくやった」……?」



 クオが、転んだフォルス目掛けて止めのスキル“無双乱激”を放とうとすると、その背後から声が聞こえた。目線を背後に向けるとそこには、準備を終えたシーラが立っていた。手に握り締めている槍が黒く鈍い光を放っている。



 「待たせたな、準備完了だ!!」



 「シ、シーラ……間に合ったのか…………」



 「食事の……邪魔すル奴は……殺ス!!!」



 するとクオは、素早く振り返り後ろへと跳んで距離を取った。そして、シーラに向けて拳を構えた。



 「スキル“無双…………!!?”」



 しかし、スキルを放とうとしたその瞬間、クオの拳に一本の矢が、肉眼では捉えきれない速度で突き刺さった。



 「“ブースト”……上手く惹き付けてやるって言っただろう?」



 「ナイスアシストだ…………それじゃあ、行くとするか!!!」



 「!!!」



 シーラは走り出した。クオの間合いに入り込み、黒く鈍い光を放つ槍を構えた。この時、クオには二つの選択肢があった。普通に殴るのとスキルを放つの二種類だ。しかし、目線の先にいるフォルスの攻撃を恐れて、躊躇してしまった。その迷いのせいで、シーラのスキルをまともに食らう事となった。



 「スキル“ヤマタノオロチ”」



 その瞬間、シーラの槍先が八つに分かれクオの頭、体、右腕、左腕、右手、左手、右足、左足、それぞれの八箇所に突き刺さった。



 「食事の……邪魔すル奴は……殺……ス……」



 そして壁も貫通した為、クオは身動きが取れなくなってしまった。何とか抜け出そうと必死に体を動かすも、抜け出せる気配は無く次第に動きは弱まり、そのまま気絶した。



 「…………やったな」



 「…………あぁ、私達の勝利だ」



 こうして、フォルスとシーラの二人組は見事、食堂のおばちゃんであるクオを倒したのであった。
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