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過去編 二千年前

旅の終着点

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 私達は現在、暗い道を進んでいた。足元の土はぬかるんでおり、一歩踏み出す毎に足が地面に取られる。



 「うぇー、靴の中に泥が入り込んで気持ち悪い…………」



 「体に付いた泥の重さと、足元にある土の柔らかさが動きを鈍らせる……戦う舞台としては、最悪の立地だな……」



 「ですが、それはあくまでも人間に限った立地です。ここいらを住みかとしている魔族にとって、何の不自由も無いでしょうね~」



 戦いにおいて、動きを制限されるのはとても厄介な事である。特に私達が現在歩いている道では、素早い動きは不可能に近い。では何故、そんな足元の悪い道を歩いているのかと言うと…………。



 「そもそも、本当にこんな場所に“魔王城”があるの?」



 「間違い無いよ……この背筋が凍り付く程の恐怖、そして肌が萎縮してしまう程の威圧感。この近くに必ずある筈だ……」



 勇者だからこそ、対となる魔王の存在を感じるのかもしれない。その時のコウスケはいつになく、真剣な表情を浮かべていた。



 「だけど、こう辺りが暗いと見える物も見えないんじゃないの?」



 「それはそうかもしれないけど……城って言う位なんだから、かなり大きいと…………!!!」



 「どうした「黙って!!」……!!」



 急に歩みを止めたコウスケに、私は声を掛けようとするも、コウスケ本人に声を遮られてしまった。



 「…………何か……来る!!」



 「「!!!」」



 その言葉に私とエジタスは、瞬時に戦闘の構えを取った。



 「ギシャアアア!!!」



 「「「!!!」」」



 すると突然、暗い道の空から女性の様な見た目の生き物が、私達目掛けて襲い掛かって来た。私達は咄嗟の判断でその攻撃を避けた。



 「ギシャアアア!!!」



 その生き物は、奇襲に失敗した事を確認すると、その場から素早く離れて再び暗い道の空へと姿を眩ました。



 「…………見た?」



 「あぁ、一瞬だったが……あの顔と体は女性なのに、腕と足はまるで鳥そのものだった…………」



 「十中八九、“ハーピー”でしょうね~」



 ハーピー。それは主に腕が鳥の羽になっており、下半身も鳥の様になっている女性型の魔族。鋭い鉤爪で人に襲い掛かる。



 「「ギシャアアア!!!」」



 「「「!!!」」」



 すると再び、暗い道の空からハーピーが私達目掛けて襲い掛かって来た。しかし、今度の奇襲は先程のものとは違った。



 「に、二匹!!?」



 二匹のハーピーが、それぞれ暗い道の空から襲い掛かって来たのだ。



 「避けるんだ!!」



 「っ!!」



 「ほい!!」



 コウスケの言葉と共に、私達は迫り来るハーピー達の攻撃を回避して行く。



 「うっ…………!!!」



 「アーメイデ!?大丈夫か!!?」



 しかし上手く動けない立地、敵が何処にいるのか分からない暗い道、そして空からの奇襲、私は怪我を負ってしまった。その痛みから思わず地面に片膝をついてしまう。



 「わ、私なら大丈夫……扱える様になった回復魔法があるから……“ヒーリング”」



 そう、私はコウスケ達との長い旅路において、遂に回復魔法を扱える様になったのだ。私は自身の体に対して回復魔法を唱える。するとピンク色の光に包まれ、瞬く間に傷が塞がっていった。



 「よかった…………だけど、このまま戦いが長引けば不利になるのはこっち……何とか早期決着に持ち込みたいけど…………」



 「こう辺りが暗いと、相手が何処にいるのかが全く分かりませんね~」



 「…………私に任せてくれる?」



 私は傷を完全に癒すと、ゆっくりと立ち上がりコウスケ達に提案する。



 「アーメイデ……出来るのかい?」



 「えぇ、やられた借はきっちりと返さないとね…………」



 「凄い自信ですね、アーメイデさ~ん」



 「これでもあんた達と長い間旅して来たのよ……これ位のピンチ、今までのと比べれば大した事は無いわ!“サンシャイン”!!」



 その瞬間、私の目の前に強くオレンジ色に光輝く、小さな球体が生成された。



 「大きく“育ちなさい”!!!」



 私が強くオレンジ色に光輝く、小さな球体に右手をかざすと、その球体は徐々にその大きさを増して行き、先程まで暗かった道を明るく照らし始めた。それはまるで太陽その物だった。



 「「ギシャアアア!?」」



 「あそこだ!!“シャイニングスピア”」



 ハーピー達の姿を捉えたコウスケは、その内の一匹に向けて右手を突き出して、光魔法“シャイニングスピア”を唱える。すると、コウスケの右手から黄色に光輝く槍が生成され、そのまま一匹のハーピー目掛けて飛ばした。



 「ギ……ギギ……!!」



 「やったぜ!」



 「ギシャ!?」



 コウスケが生成した槍は、見事片方のハーピーの体に命中した。その痛みから槍が突き刺さったハーピーは、地面へと落下してそのまま悶えながら死に絶えた。そして、そんな仲間の様子を見ていたもう片方のハーピーは、生命の危機を察知して逸早くその場から飛び去ろうとした。



 「おっと、仲間を見捨てるとは……中々のクズですね~」



 「ギシャ!?」



 しかし、その飛び去ろうとした先には既にエジタスが転移して来ていた。



 「あなたみたいなクズは、焼き死んだ方が良さそうですね~」



 「…………ギ!?」



 その瞬間、飛び去ろうとしていたハーピーの顔面に、エジタスの拳が叩き込まれた。



 「ギシャア……ア……」



 顔面を殴られたハーピーは、その勢いのまま私が生成した強くオレンジ色に光輝く、大きな球体に突っ込んだ。そして一瞬で羽は燃え尽きて、皮膚や骨まで溶けて跡形も無くなってしまった。



 「ふぅ~、肉の焼き加減で言えばウェルダン以上でしょうかね~。焦げ臭くてとても食えた物ではありませんけど…………」



 「ちょっとエジタス、勝手に私の魔法を利用しないでよ!!」



 エジタスが勝利の余韻に浸っている中、私はエジタスに文句を述べた。



 「そう言うアーメイデさんこそ、そんな魔法があるのならもっと早く出して下さいよ~」



 「しょうがないでしょ!!この魔法、大きさを維持する為に凄くMPを使っちゃうのよ!!」



 私が唱えた“サンシャイン”は、簡単に言えば火属性魔法で生成した炎を、極限まで大きくしたもの。ハーピーが焼け死んだのもその為、辺りを照らしてくれる役割も兼ね備えているので、とても汎用性に優れている。しかし、大きさを常に保っていないといけない為、相当の集中力とMPが必要になる。言わば、まだまだ発展途上の魔法なのである。



 「二人供、そんな話をしてないで見てみなよ…………」



 「コウスケ!!そんな話って何よ!?私は真剣に…………!!!」



 「おやおや、これはこれは…………」



 コウスケの言葉に腹を立てて、コウスケの方に顔を向けると、そこには見るからに禍々しい巨大な城が聳え立っていた。



 「ここが…………魔王城……」



 「こんな近くにあっただなんて…………」



 「成る程……恐らくあのハーピー達は、この魔王城の門番だったのでしょう~」



 ここまで来れば、さすがの私でも気がついた。背筋が凍り付く程の恐怖、肌が萎縮してしまう程の威圧感。私達は遂に旅の終着点である魔王城に辿り着いたのであった。
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