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第十章 冒険編 魔王と勇者

平和を望む者達

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 「がはっ…………!!」



 背中から突き刺さったレイピアを引き抜かれ、アーメイデはそのまま前のめりになって倒れた。



 「エ、エピロさん…………?」



 アーメイデが倒れた事により、重力魔法の効果が切れ、六人は自由に動ける様になった。



 「ごれはいっだい……どういう事だぁ…………?」



 「何だか……口調も変わっていなかったか?」



 しかし、エピロが起こした突然の行動と口調の変化にリーマ、ハナコ、フォルスの三人は、即座に理解する事は出来なかった。



 「「「…………」」」



 特にエピロと初めて会ったゴルガ、シーラ、アルシアの三人は何が起こったのか訳が分からなかった。



 「はぁー、やっとこの田舎臭い言葉使いから、解放されたわ」



 そう言うとエピロは前髪を上げて、隠れていた目とおでこを露出させた。



 「この服も窮屈で辛かったわ。特に胸の辺りが…………」



 エピロは、アーメイデの体から引き抜いたレイピアを懐に仕舞うと、窮屈だと言っていた服の胸元を無造作に開けた。



 「エジタス様!!私、頑張りましたよ!ご褒美に私と結婚して下さい!!」



 上げた前髪、開けた胸元、先程まで田舎臭かったエピロの姿は、とてもセクシーな姿に変わっていた。見るだけでも、体から滲み出るその色気が伝わった。



 「エピロさん、ご苦労様です。結婚はしませんよ」



 「あぁー、エジタス様に褒めて頂けるなんて、エピロは幸せ者でございます!!」



 エジタスから労いの言葉を受け取ったエピロは、あまりの喜びから思わず笑みが溢れる。



 「エピロ……どうして……?」



 「あら、まだ生きていたのね?中々しぶといわね」



 体を貫かれたアーメイデだったが、致命傷には至らなかった。



 「この際だから全部教えてあげる。元々私はエジタス様の命により、ずっとあなたの事を監視していたのよ」



 「な、なんですって…………!!い、いったいいつから…………!?」



 「千年前、初めてあなたに会った時から既に、私の心はエジタス様に捧げていたわ」



 「!!!」



 アーメイデは信じられなかった。エピロと出会い過ごして来た千年間、それが全てまやかしだった事実に、アーメイデの心は絶望色に染まった。



 「エジタス様は、目的遂行においてあなたが最大の壁として立ち塞がると、予想していたわ。あなたがいつエジタス様の存在に気が付き、殺しに来てもすぐにでも対処出来る様、私にあなたを監視する命が下ったのよ」



 そう自慢げに自身の辿って来た道筋を語るエピロに、アーメイデは怒りよりも悲しみが強く現れた。



 「でも、エジタス様の予想と反してあなたは、全くと言っていい程に気付かなかった。正直、がっかりよ…………かつては、エジタス様と行動を供にしていたと言うから、期待していたのに…………あなたと過ごした無駄な千年を、返して欲しいわ」



 「エピロ…………」



 今までのエピロからは、想像もつかない様な罵倒に、アーメイデの心は折れ掛けていた。



 「まぁ、土の王冠を持っていたのは嬉しかったわ。お陰で、あなたが魔食に気を取られている隙に、土の王冠の隠し場所を見つける事が出来たからね」



 「!!……そう……あなただったのね……基本的にエジタスの事は見張っていた筈だけど、どうやって土の王冠を見つけ出したのか不思議に思っていた……でもこれで、すっきりしたわ…………」



 真緒達が魔食を倒している間、全員分の料理を用意して待っていると言いながら、裏ではエジタスの為に土の王冠を探し回っていた。



 「でも、例えワールドクラウンが手元にあったとしても、肝心の“器”が無ければ何の意味も無い!!」



 「「…………」」



 「結局あんたは、二千年前と同じ結果を迎えるのよ!!」



 「「…………ぷっ、あははははは!!」」



 「!!?」



 アーメイデの言葉に、エピロは口に手を当て上品に笑い、エジタスは腹部に両手を当てわざとらしく笑い始めた。



 「な、何がおかしいって言うのよ!!」



 「いや~、すみません。あなたがあまりにもお茶目な事をいう物だから、思わず笑いが抑えられませんでした~。アーメイデさ~ん、この私が二度同じ失敗をするとお思いですか?」



 「そ、そんな…………それじゃあ……まさか……」



 「…………そろそろ、ですかね?」



 エジタスが意味ありげな言葉を発したその時、玉座の間の扉が勢い良く開かれた。



 「我が神よ!!ご命令通り、“器”を連れて参りました!!」



 「おぉ~、丁度“器”に対しての話をしていた所です。良いタイミングです、ありがとうございます“ジョッカー”さん」



 そこに現れたのは、過去にヴァンパイアを根絶やしにしようとして、ヴァルベルトに殺されたと思われていた元十字聖騎士軍の隊長、ジョッカーだった。



 「我が神よ!お礼など不要です!!我が神のご命令とあらば、それを遂行するのは当然の事なのです!!」



 「そうですか?あなたは仕事に忠実ですから、助かりますよ」



 「おぉ!!勿体無きお言葉…………」



 エジタスの労いの言葉に、ジョッカーは深々と頭を下げた。



 「それではジョッカーさん、“器”の方を見せて貰えますか?」



 「はい、勿論でございます。ラクウン!!“器”を持って来てくれ!!」



 「ジョッカーさん、そんな大声を出さなくても、ちゃんと聞こえていますよ」



 すると扉の向こうから、ラクウンが姿を現した。その両手には誰かを抱き抱えていた。それは…………。



 「「「ク、クロウト!!!」」」



 それはクロウトだった。サタニアと別れた後、ラクウンとジョッカーの二人に見つかり捕まっていた。気を失っているのか、クロウトはラクウンにお姫さま抱っこの状態でぐったりとしていた。



 「あなたは確か…………カルド王国でカルド王の側近だった、ラクウン!?」



 「これはいったいどういう事だよ!!説明しやがれ!!」



 魔王であるサタニアと四天王であるシーラ、アルシア、ゴルガの三人はラクウンと面識があった。それはカルド王国との停戦協定の際に、何度か見掛けた事があったからだ。



 「おや、あなた方もいたのですか。その節は大変お世話になりました」



 「そんな事はどうでもいいんだよ!!何でお前がここにいるんだよ!!カルド王はどうしたんだよ!!」



 「あぁ、あの偽りの王でしたら私が殺しましたよ」



 「「「!!!」」」



 この時初めて、三人はカルド王国との停戦協定が無くなってしまった事実を聞かされた。



 「私が仕えるのは我が王エジタス様、只一人なのですから…………」



 そう言いながら、ラクウンとジョッカーは四天王三人を横切り、エピロとエジタスの側まで歩み寄った。



 「お待たせしました。我が王よ」



 「ラクウンさん、あなたも良く頑張りましたね」



 「勿体無きお言葉…………」



 ジョッカーの時と同じ様に、ラクウンはエジタスに労いの言葉を掛けられると、深々と頭を下げた。



 「そ、それなら、どうしてクロウトを捕まえているんだよ!!」



 「それは勿論、彼女が“器”だからですよ」



 「“器”…………いったい、どう言う意味なのかしら?」



 「おや~、もしかして知らなかったのですか~?」



 するとエジタスは、ラクウンからクロウトを受け取ると、玉座に座らせた。



 「彼女こそが、ワールドクラウンの正当なる後継者だからですよ!!!」



 「「「「「「えっ!!?」」」」」」



 こうして、勇者でも魔王でも無い“第三”の勢力が姿を現したのであった。
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