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第十章 冒険編 魔王と勇者

満面の笑み

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 「…………」



 魔王城地下室。簡易的な石造りからなるこの部屋は、薄暗く少し埃っぽい。主に過去に扱った書類、道具の倉庫として使用されている。



 「貴様何者だ!!ここで何をしている!!」



 そんな地下室を警備していた魔王軍兵士が、一人の不審な人物の後ろ姿を目撃した。魔王軍兵士は、手に持っていた槍を不審な人物に向けて構え、ここにいる理由を問い掛けた。



 「おや、私とした事が見つかってしまいましたか」



 不審な人物はゆっくりと、魔王軍兵士の方へと振り返った。



 「いやはや、時が来るまで目立たない様にと“我が王”からご指示を受けていたのに、このままでは我が王の顔に泥を塗ってしまう…………」



 不審な人物の正体は“ラクウン”だった。ラクウンは、魔王軍兵士に見つかった事に対して分かりやすく、落ち込んでいた。



 「貴様!!聞こえていなかったのか!!ここで何をしているのかと聞いているんだ!!」



 勝手に独り言を話始めるラクウンに、魔王軍兵士がしびれを切らし、大声で怒鳴り付けながら再度問い返した。



 「やはり……ここは口封じをした方が良いのでしょうか?いやそれでは、余計に目立ってしまう……どうするのが妥当なのでしょうか…………?」



 しかし、ラクウンは自問自答を繰り返し、魔王軍兵士の言葉を全く聞いていなかった。



 「!!…………き、貴様ぁあああ!!!」



 全く反応を示さないラクウンに、魔王軍兵士の堪忍袋の緒が切れた。持っていた槍でラクウンに襲い掛かった。



 「おや?」



 「あ……ああ……あああ……」



 しかし、魔王軍兵士が槍でラクウンに襲い掛かろうとした瞬間、魔王軍兵士の首と体が別れを告げた。体を失った頭部は地面に転がり落ち、頭部を失った体は血を噴き出しながら仰向けに倒れた。



 「すまない、遅れてしまった」



 「いえ、あなたにしては早い方でしたよ」



 魔王軍兵士の背後に、一人の男が立っていた。その男の手には血まみれの剣が握られており、この男が魔王軍兵士の首を斬り飛ばしたのは明白だった。



 「おや?あのローブは着ていないのですか?」



 地下室の構造上、男の顔自体はよく見えないが、ローブを着ているか着ていないかは分かった。



 「あぁ、さすがにこれからの大舞台にローブを着たままでは、示しがつかないからな…………それはそうと、もう一人……“あいつ”はまだ来ていないのか?」



 「あの人でしたら、万が一の保険を考えて今も監視を続けていますよ」



 二人が話し合っている“あいつ”とは、ここに来ていない女の方を指していた。



 「そうか……それで“我が神”はどちらにいるのかな?」



 「我が王でしたら既に、計画の最終段階の為に動き出していますよ」



 「おぉー、さすがは我が神!!部下に任せるのでは無く、自らが率先して動かれるとは……まさに完璧なる存在!!……やはり我が神をしっかりと崇める為に、教団を設立させたいな…………」



 「良いですね……その提案、私も強く推させて頂きます」



 我が王、我が神とそれぞれ崇め称える二人。終いには、教団設立まで考え始めた。



 「さて、それじゃあ我々も動き始めるとするか……」



 「そうですね……我が王を待たせる訳にはいきません」



 そう言うと二人は、地下室の暗闇に溶け込む様に姿を眩ました。残ったのは、無惨にも殺されてしまった魔王軍兵士の死体だけだった。







***







 魔王城玉座の間。真緒とサタニアの、全てを掛けた一撃がぶつかり合った。その凄まじい衝撃波から、肉眼では見えなくなってしまっていたが次第に収まり、肉眼でも見える様になった。そして、そこに立っていたのは…………。



 「…………ぅうう」



 「…………ぁああ」



 「「「マオ…………」」」



 「「「魔王様………」」」



 そこには、誰も立っていなかった。真緒とサタニアの体は、ぼろぼろになって床に倒れ伏せていた。



 「これは……まさか……」



 「引き分け…………」



 両者倒れている所を見る限り、真緒とサタニアの戦いは引き分けに終わった。



 「…………ぅううう!!」



 「…………ぁあああ!!」



 「「「「「「!!!」」」」」」



 その時、真緒とサタニアが床を這いつくばりながらも、互いに近づいて行く。呼吸するだけでも激痛に襲われている筈なのに、それでもまだ戦いを止めようとしなかった。



 「マオぢゃん!!もう勝負はづいだぁ!!ごれ以上、戦わないでぐれぇ!!」



 「そうよ魔王ちゃん!!このまま無理に戦い続けたら、本当に死んでしまうわ!!」



 「…………ぅううう!!魔王……魔王……殺す!!」



 「…………ぁあああ!!勇者……勇者……殺す!!」



 そんな二人の呼び止めに目もくれず、真緒とサタニアは床を這いつくばりながら、どんどん近づいて行く。



 「不味い、このままだと両者供に命を落とす可能性がある!!取り敢えず、あの二人を押さえ付けるぞ!!」



 「「「「「はい!!!」」」」」



 シーラの言葉と供に、それぞれ一斉に二人へ駆け寄ろうとする。







        パチパチパチパチ







 「「「「「「「「!?」」」」」」」」



 するとその時突然、部屋全体に拍手が鳴り響いた。その場にいる全員が、音のする方向に顔を向ける。



 「あ……ああ……!!!」



 そこには、いる筈の無い人物がいた。今の今まで、死んでいたと思われていた人物がそこにいた。



 「そんな……嘘……!!!」



 コミカルで肌を覆い隠す様な服、そしてその顔に被っている仮面は、忘れたくても忘れられない。



 「「「「「「「「エ、エジタス!!!」」」」」」」」



 「マオさん!!サタニアさん!!いや~、実に素晴らしい戦いでしたよ~!!」



 死んでいたと思われていたエジタスが、足を組みながら玉座に座っていた。そしてゆっくりと、大きな音を立てながら拍手をしていた。



 「ど、どうしてエジタスさんが…………?」



 「センセイ……イキテオラレタノデスネ…………」



 「こ、これはいったい……?」



 「嘘だろ……本物……なのか?」



 「訳が分がらないだぁ……」



 「何が……どうなっているの?」



 六人は、エジタスが生きていたという衝撃の事実に、脳への理解が追い付いていなかった。



 「し、師匠?……本当に師匠なんですか?」



 「えぇ、紛れも無い本物ですよ~」



 「エジタス?……生きているんだよね?」



 「当たり前じゃないですか~、幽霊とかではありませんからね~」



 その言葉に、真緒とサタニアは歓喜に身を震わせる。



 「師匠……師匠……!!!」



 「エジタス……エジタス……!!!」



 真緒とサタニアは這いつくばりながら、エジタスの元へと近づいて行く。



 「お二人供、そんなぼろぼろになられて……」



 するとエジタスは、玉座から立ち上がり二人の元へと歩み寄る。



 「あぁ……師匠……!!!」



 「エジタス……エジタス……!!!」



 互いに近づき合うと、エジタスが腰を落として、真緒とサタニアの二人を抱き締めた。



 「でも……どうして……確かにあの時、エジタスは破裂して……」



 「実はですねあの時、体の中の空気を圧縮させていたのですが、破裂させると同時に“転移”を使って脱出していたのですよ~。ただ、タイミングが少しずれてしまって、服の一部と人体が傷ついてしまいました。そして今の今まで、その治療をしていたのですよ~」



 「そうだったんだ……良かった……本当に良かった……僕……てっきりエジタスが死んでしまったんだとばかり…………」



 エジタスが生きていた。その事実に、真緒とサタニアの目から涙が溢れ出て来た。エジタスに抱き締められる事で体温を感じて、より生きているんだと実感した。それによって、更に涙が溢れ出て来る。



 「真緒さん、サタニアさん、ご心配お掛けして申し訳ありません」



 「師匠……師匠……本当に良かった……良かった……」



 「エジタス……もう……絶対に離れないから…………」



 真緒とサタニアは、鼻水を垂らしながらもエジタスにぎゅっと抱き付いた。



 「お二人供……本当に頑張られましたね……」



 エジタスは、真緒とサタニアの背中をポンポンと叩きながら、優しく暖かい言葉を掛ける。



 「……しばらく……ゆっくりと休んでいて下さい…………そう……ゆっくりとね…………」



 「師匠?」



 「エジタス?」







             ブスリ







 「「…………えっ?」」



 何かが突き刺さる嫌な音。真緒とサタニアの背中に“ナイフ”が、突き刺さっていた。そのナイフは、いつもの食事用のナイフでは無く、ちゃんとした戦闘用のナイフだった。そんなナイフが真緒、サタニア、それぞれの背中に深く突き刺さっていた。



 「し、師匠?」



 「エ、エジタス?」



 突然の出来事に理性が追い付かない。真緒とサタニアは、エジタスの顔を見つめる。仮面で表情こそ分からないが、何故かその時のエジタスの顔は、“満面の笑み”を浮かべている様に感じた。
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