上 下
198 / 300
第十章 冒険編 魔王と勇者

ハナコ VS アルシア(後編)

しおりを挟む
 ある所に、名の知れた両刀の使い手がいた。そのあまりの強さゆえ、誰も歯が立たなかった。そしてその者は、更に強さを求めた。圧倒的な強さを求めた者の行き着く先、それは剣を扱う者であれば誰もが一度は夢見る、“八大地獄”であった。



 八大地獄は、剣技の中でも最高峰と名高い代物だった。しかし、その八大地獄の内容が記された書物は、地下深くに保管されていた。そんな中、両刀の使い手はその書物を見つけ出したのだ。これで更なる強さを手に入れられる。そう、思っていた。



 八大地獄の内容が記された書物。それは決して人が触れてはいけない代物だった。内容を読み終えた両刀の使い手は一瞬で全身が燃え上がり、白骨のスケルトンになってしまった。そして同時に名前と記憶を失ってしまったのだ。



 スケルトンとなった両刀の使い手は、自分が何者であったのか全く思い出せず、この世界をずっとさまよっていた。そんな道中、魔王城を訪れた両刀の使い手は魔王であるサタニアと対面する。そしてそこで配下に加わる様に説得され、特にやる事も無かった両刀の使い手は配下になった。するとその時、サタニアが両刀の使い手に名前が無い事を知り、サタニア自らが名前をつけてくれた。



 “それじゃあ……君は今日からアルシアだ!!…………えっ、意味?そんなのは無いよ。だって意味のある名前を付けたとしても、その人がそんな風に成長するとは限らないからね。それに、名前って言うのは意味があるとか無いとかで決めるんじゃ無くて、付けられたその人が気に入るか気に入らないかで決める物じゃないかな?少なくとも、僕はそう思うよ”



 この日を境に、両刀の使い手は“アルシア”と名乗る様になった。意味など無くていい、自身の敬愛する人が付けてくれたこの名前を、とても気に入っているのだから。これはそんなある両刀の使い手の他愛ない話である。







***







  「スキル“鋼鉄化”!!」



 ハナコは全身を銀色に変色させ、アルシア目掛けて体当たりを試みる。



 「ほぅ……防御系の魔法を攻撃に転換するとは……確かにその攻撃方法なら、傷を負うこと無く戦えるだろう……だが、遅すぎるのが致命的だ」



 ハナコの体当たりを、アルシアは難なく避けて見せた。



 「まだまだぁ!!」



 ハナコはアルシアの横を通り過ぎると、その先でUターンをして再びアルシア目掛けて体当たりを試みる。



 「バカの一つ覚え、そんな単調な攻撃が俺に効く訳無いだろう!!」



 アルシアは、ハナコの体当たりを再び避けると、ハナコの頭部に持っていた二刀の柄で強く殴り付けた。



 「がぁあああ!!!」



 「いくら鋼鉄に変化しようが、変わるのは外側だけ……中身までは変えられないという事だ」



 鉄の箱に入った豆腐の様に、外側がどんなに硬いとしても強い衝撃が加われば、中身は崩れてしまう。それと同じ様にアルシアがハナコの鋼鉄に変化した頭を殴り付け、中身である脳みそにダメージを与えたのだ。



 「諦めろ、もうお前に勝ち目は残されていない…………」



 「ぐっ…………うぉおおお!!!」



 しかしハナコは、それでも諦めずにアルシア目掛けて、体当たりを試みる。



 「懲りないな……それなら、次の攻撃でお前の脳みそを粉々に崩してやる!!」



 アルシアはハナコの体当たりを避け、通り過ぎようとするハナコの頭目掛けて、二刀の柄で殴り付け様とする。



 「スキル“鋼鉄化(腕)”!!」



 「!!?」



 するとハナコは全身の鋼鉄化を解き、右腕だけを銀色に変色させた。それによって元の重さに戻り、アルシアの攻撃を回避した。そしてハナコはその一瞬の隙を狙って、アルシアの顔面に鋼鉄に変化した右腕を叩き込んだ。



 「がはぁ!!」



 アルシアはハナコに殴られるが、倒れずに何とか持ちこたえた。



 「やるな!!それなら、俺のスキルも見せてやるよ!!スキル“等活地獄”!!」



 「!!!」



 その瞬間、アルシアの刀が鈍く光輝く。アルシアのスキルに危険を察し、ハナコは咄嗟に後ろへと跳んで回避する事で、薄皮を斬られる程度に済んだ。



 「危ながっ……ああああ!!!」



 しかし、安心したのも束の間。薄皮を斬られたと思った瞬間、全身に激しい痛みが伝わって来た。



 「“等活地獄”は、相手の痛覚神経を狂わせるスキル……薄皮だろうが、少しでも斬られれば激痛に変わる」



 「う……うぅ……!!」



 激しい痛みに、思わず気が遠くなりそうなハナコ。それでも何とか立ち上がる事が出来た。



 「ほぅ……“等活地獄”を受けて尚、立ち上がるとは……中々の精神力だ」



 「はぁ……はぁ……」



 だがしかし、ハナコの体力は限界に近かった。未だに全身が激しく痛む。少しでも気が緩めば、気を失ってしまうだろう。



 「(ど、どうずればいいだぁ……相手は刀……ごっぢは拳……相性が悪いだぁ…………始めがら、勝負はづいでいだ……ぞういう事なんだろうがぁ……オラ……がなり強ぐなっだど思っでいだげど……上には上がいるんだなぁ…………)」



 この絶望的状況、そして自身の実力不足に、ハナコの心は折れ掛ける。



 「…………いや、まだ終わっでねぇ……まだ負げでねぇ……いづもごうじだ絶望的状況でも、最後まで諦めずに戦い……勝っで来だんだぁ……だがらオラは、最後まで諦めないだぁ!!!」



 しかしそこはハナコ、これまでの旅の経験から最後の最後まで、戦う事を決意した。



 「だぁあああ!!!」



 「まさか……正面から突っ込んで来るとは…………ヤケになったのか?」



 ヤケになった訳では無い。小細工は通じないと悟り、正面から挑む事で無駄な動きを減らして、攻撃だけに集中する事が出来る。



 「せめてもの情けだ。一瞬で終わらせてやる…………スキル“大炎熱地獄”」



 それはかつて、ヴァルベルトが四天王を裏切った時に使っていたスキルである。MPを媒介にして、対象が消し炭になるまで燃え続ける。そんなスキルを唱えると、二本の刀から真っ赤な炎が生み出され、ハナコに向かって襲い掛かる。



 「MPもろとも、消し炭になりな」



 アルシアのスキルによって、真っ赤な炎がつくかと思われた瞬間、ハナコの体には特に変化は起こらなかった。



 「な、何!?どうして燃えないんだ!?」



 「MPもろども……オラは……MPを持ぢ合わぜでいないだぁ!!!」



 「な、何だと!!!そんな生物が、この世にいるのか!?」



 ハナコはMPを持っていなかった。火種となる物が最初から存在しなければ、燃える事など皆無である。



 「隙ありだぁ!!!」



 「し、しまった!!」



 ハナコのステータスの事実に動揺を隠せず、隙を見せてしまったアルシア。目の前では、ハナコが大きく両手を振り上げていた。



 「くそっ!!」



 しかしそこは四天王、咄嗟の判断で持っていた二本の刀を、自身の胸の前で交差させて防御の構えを取る。こうする事で、ハナコの放つであろうと予測するインパクト・ベアの威力を、和らげようとする。



 「ふん!!」



 「な、何!?」



 だが、その予測は外れた。ここに来てハナコは、アルシアの両肩を強く掴んだのだ。そしてその状態のまま、ハナコは限界まで仰け反った。



 「うぉおおおお!!!」



 「ま、まさか!!!」



 人は生死の淵に立たされると、自分でも驚く程の力を発揮する事がある。その中でもハナコはずば抜けていた。諦めないという執念、勝利への渇望、そして仲間達への想い。それら全てが重なった事で、ハナコはこの逆境の中で新たなスキルを習得した。ハナコは限界まで仰け反り、そして勢い良くアルシアの頭に自身の頭をぶつけた。



 「スキル“フル・インパクト”!!!」



 「!!!」



 ハナコが出せる全力の一撃。アルシアの頭とハナコの頭、両者の頭がぶつかり合い、そこを中心として凄まじい衝撃波が生まれた。



 「…………」



 「…………」



 アルシアの頭蓋骨にひびが入った。そして同じ様に、ハナコの頭蓋骨にもひびが入った。



 「あ……あ……あ……」



 アルシアの両肩から手を離したハナコは、ふらふらになりながら仰向けに倒れて気絶してしまった。



 「…………もしも、俺が常人よりも骨の硬いスケルトンじゃ無かったら……もしも、二刀の柄で頭を攻撃していなかったら……結末は変わっていたのかもしれないな……」



 脳震盪を起こし、倒れて気絶してしまったハナコ。そんなハナコの側にアルシアが歩み寄る。



 「だがこれも一つの結果、甘んじて受け入れるがいい……」



 アルシアは、一本の刀を振り上げてハナコの首に狙いを定める。



 「俺の……勝ちだ……」



 そして勢い良く、ハナコの首目掛けて刀を振り下ろした。



 「…………」



 しかしハナコの首には当たらず、僅か数ミリ隣の床に当たりひびを入れた。



 「…………本当に綺麗で真っ直ぐな瞳だったわ……“あたし”もまだまだね……敵であるこの子の成長を、見てみたいと思ってしまう……」



 アルシアはそれぞれの刀を鞘に納めると、その場に座り込みハナコの頭を撫でる。頭はアルシアの頭とぶつかった事で、少し赤く腫れていた。



 「……あなたの成長……心から楽しみにしているわ…………でも、今はゆっくりお休み……」



 武闘家ハナコ VS 両刀のアルシア



 勝者 両刀のアルシア
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...