上 下
195 / 300
第十章 冒険編 魔王と勇者

フォルス VS シーラ(前編)

しおりを挟む
 「食らえ!!」



 フォルスは弓を構え、シーラ目掛けて矢を放った。



 「そんな気の抜けた攻撃が、私に通じるかよ!!」



 シーラは、飛んで来る矢を器用に槍で弾いた。



 「まだまだ!!」



 フォルスは、攻撃が弾かれると同時に空高く舞い上がり、弓矢を構えた。



 「へぇー、さすがは鳥人だな」



 「笑っていられるのも今の内だぞ…………“三連弓”!!」



 シーラ目掛けて、フォルスの放った矢が連続して降り注ぐ。



 「だけど、私も龍人だからね……“龍の雄叫び”」



 降り注ぐ矢に対して、シーラは鼻から大きく息を吸い込み、腹の底から雄叫びをあげた。その瞬間、降り注ぐ矢は雄叫びの衝撃波によって吹き飛ばされた。



 「龍の技を扱えるんだよ……」



 「俺の三連弓が……くそっ!」



 フォルスは急いで次の矢を放とうと、矢を弓に装填する。



 「…………!?」



 矢を弓に装填するほんの一瞬、目を離してしまった。次に弓矢を構えたその時には、そこにシーラの姿は無かった。



 「ど、何処に行った!!?」



 フォルスは辺りを捜索するが、何処を見回してもシーラの姿は確認出来なかった。



 「…………上だよ!!」



 「し、しまった!!」



 真上から声が聞こえ、フォルスは慌てて見上げるも時既に遅し。翼を広げてフォルスの真上にいたシーラが、フォルスの背中に槍を突き刺した。



 「がぁあああ!!!」



 「このままくたばりな!!」



 突き刺した勢いのまま、フォルスは床に叩き付けられた。



 「何だ、この程度かよ」



 「ぐっ…………!!」



 シーラが、フォルスの背中から槍を引き抜くと、そこから大量に出血した。



 「拍子抜けだったな」



 「…………」



 そう言うとシーラは、槍の矛先を肩に乗せて部屋の扉へと向かおうとする。



 「やっぱり、私も魔王様と一緒に勇者と戦……!!?」



 扉を開けようとした瞬間、シーラの右手の甲に一本の矢が突き刺さった。



 「な、何だと!!?」



 シーラは、驚きの表情を浮かべながら振り返ると、そこに立っていたのは弓矢を構えるフォルスがいた。



 「て、てめぇ!!」



 「……“ウィンド”」



 フォルスの矢に風がまとわりつく……。強い力に、カタカタと震える弓矢をしっかりと指で押さえる。



 「貫け!!“ブースト”!!」



 フォルスの弓から放たれた矢は、真っ直ぐとシーラ目掛けて飛んで行った。



 「そんな気の抜けた攻撃が、私に通じ…………!?」



 「加速しろ!!」



 放たれた矢は風の力によって肉眼では捉えきれない速度となり、シーラの腹部を鎧ごと貫いた。



 「なぁ!?がはぁ!!」



 腹部を貫かれた事で穴が空くが、シーラはその痛みに耐えながら立っていた。



 「凄いな……腹に穴が空いたって言うのに立っているとは……さすがは四天王……タフだな……」



 「どういう事だ……確かに致命傷だった筈だ……」



 フォルスが生きている事を疑問に思うシーラ、しかしその疑問はすぐに解決した。



 「あれは……まさか、“ポーション”?」



 フォルスの足元には、ポーションの器が三本転がっていた。



 「正直……ギリギリだった……お前が後ろを向くのがもう少し遅かったら、出血多量で死んでいただろう……」



 仲間達で分け合った三本のポーションを、全て飲み干す事で何とか一命を取り止めた。



 「(だが……これで俺が持つポーションは全て使った事になる……これからはダメージを極力受けない様にしないと…………)」



 フォルスが受け取ったポーションは、計三つ。それを全て飲み干してしまったという事は、もうフォルスには回復する手立ては残されていない。



 「まさか……ポーションごときに遅れを取るとはね……」



 「四天王と言えども、不意打ちには弱いという事だな……悪いがこの勢いのまま、決着をつけさせて貰う!!」



 そう言うとフォルスは空へと舞い上がり、シーラ目掛けて再び弓矢を構える。



 「……私も嘗められたもんだな……同じ手が二度通じるかよ!!」



 シーラは翼を大きく広げて、フォルスと同じ様に空へと舞い上がった。



 「この位置だったら、矢を放つ事が出来ないだろう!!」



 そう言うシーラがいる場所は、フォルスの場所から斜め上の場所だった。



 「くっ…………」



 フォルスの様な鳥人は基本的に、両腕の翼を羽ばたかせながら鉤爪で弓矢を器用に使っている。しかし、それは言い換えれば自身より高い位置にいる敵に対しては、弓で狙う事は出来ないという事だ。また、シーラの様な龍人は基本的に背中に生えている翼で羽ばたく為、両腕が使えるのでフォルスの様に行動が制限される事は無い。



 「それに私は、まだ実力の半分も出していないんだぜ?」



 「な、何!?」



 シーラの発言にフォルスが驚いていると、シーラが槍を構えた。



 「見せてやるよ……私の力の一端を!!」



 するとシーラは翼を小さく畳み、まるで弾丸の様にフォルスに突っ込んで来た。次第にシーラの槍から青いオーラが湧き始めた。



 「こ、これは!!?」



 「スキル“ワイバーン”」



 “ワイバーン”それは、一般的に前肢と翼が一体化したタイプのものを指す。概して、コウモリのような皮膜の翼に、鏃のように尖った尾をもつとされる。シーラのスキルは、そんなワイバーンに酷似しているという事から、その名が付けられた。一方でワイバーンという見た事の無いスキルに、気を取られていたフォルスはまともに食らってしまった。



 「がぁあああ!!!」



 「へぇー、あの攻撃を食らっても飛び続けるとは……精神力は中々の様だな」



 身体中がボロボロで、飛べているのが不思議な位だった。



 「(……一発……一発食らっただけで、この威力……これが魔王軍四天王…………)」



 シーラの職業がドラゴンスレイヤーである事と、シーラ自身が龍人である事が相まって、その一撃はとても強力な物となっている。



 「(だが……ここで諦める訳にはいかない……一刻も早く、マオを追いかけないと……)」



 気合いを入れ直し、フォルスは再びシーラ目掛けて弓矢を構えた。



 「まだ諦めないか……なら、次の一撃で息の根を止めてやるよ!!」



 シーラは再び、フォルスよりも高く飛び上がり槍を構えた。



 「じゃあな!!スキル“ワイバーン”!!!」



 シーラは翼を小さく畳み、まるで弾丸の様にフォルスに突っ込む。次第にシーラの槍から青いオーラが湧き始めた。



 「…………」



 その瞬間、フォルスは羽ばたくのを止めた。



 「何!!?」



 羽ばたくのを止めたフォルスは、地上に向かって急降下する。そして、急降下した事でフォルスの位置が変わり、シーラのスキルは当たらず真上を通り過ぎる。



 「以前の俺だったら、空中でまともに動けず……意図も簡単に殺られていただろう……だが、今の俺は違う!!」



 「!!!」



 フォルスは、急降下しながら仰向けになり真上を通り過ぎるシーラ目掛けて、弓矢を構える。



 「俺は空を自由に飛び回れる様になった!!“ウインド”!!」



 「ま、まずい!!!」



 フォルスの矢に風がまとわりつく……。強い力に、カタカタと震える弓矢をしっかりと指で押さえる。



 「俺は……“空の支配者”だ!!!」



 放たれた矢は途中から、風の力によって肉眼では捉えきれない速度となり、再びシーラを鎧ごと貫いた。



 「ぐぁあああ!!!」



 シーラはあまりの痛みにバランスを失い、地上に落下した。



 「ぐっ…………!!」



 そしてフォルスもまた、仰向けのまま地上に落下した。



 「「はぁ……はぁ……」」



 フォルスとシーラ。お互いが息を切らしながらも、ゆっくりと立ち上がった。



 「……は……はは……今のは効いただろ?」



 「クソが……まさか私がここまで追い詰められるだなんて……」



 シーラは、フォルスに撃ち抜かれた箇所を押さえる。



 「…………面白い……お前には私の全力をぶつけたくなった!!」



 「……そいつは……光栄だね……」



 「見せてやるよ……私の……“真の姿”を!!!」



 そう言うとシーラは、槍を捨てて四つん這いになる。



 「“龍覚醒”」



 その瞬間、シーラの体がまるで心臓の様に大きく脈打った。その振動は次第に大きくなる。



 「グ……ググ……グググ……!!!」



 一番大きく脈打った瞬間、シーラの鎧が砕けた。



 「な、何だ!?」



 シーラの体は膨張しており、どんどん大きくなっていった。体から始まり、手、足、尻尾、顔と体全体が巨大化していく。



 「おいおい……嘘だろ…………」



 その姿にフォルスは、見覚えがあった。それはかつて、自身の里で出会ったドラゴンそのものだった。いや、そのものというのは語弊があった。姿こそあの時のドラゴンに似ているが、鱗は白く大きさは数十倍もあった。そして何より、あのドラゴンの時とは比べ物にならない程の威圧感をシーラから感じた。



 『さぁ……始めようか』



 再びドラゴンと戦う事になったフォルス。しかしあの時と違って、たった一人である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...